【コラム】インドネシア人の健康状況2023版③喫煙行動

インドネシアにおける喫煙行動は、公衆衛生を維持するための取り組みにおいて、依然として深刻な課題となっています。インドネシアでは多くの禁煙政策がとられているにもかかわらず、喫煙が原因と見られる有病率(ある一時点において、疾病を有している人の割合)は依然として高く、受動喫煙を含め喫煙は幅広い年齢層に影響を及ぼしています。

本コラムでは、インドネシア中央統計局(Badan Pusat Statistik, BPS)により先日公開されたインドネシア健康統計プロファイル『Profil Statistik Kesehatan 2023』より、インドネシア人の喫煙行動に関する最新のデータをご紹介いたします。まだご覧になっていない方は、本連載第一回目のコラム「インドネシア人の健康状況2023版①罹患率」および第二回目のコラム「インドネシア人の健康状況2023版②健康への取り組み」を是非ご覧ください。

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インドネシアは世界第3位の喫煙者数を誇るタバコ大国です。インドネシアでは近年、特に若者の間で電子タバコ(インドネシア語:rokok elektrik, VAPE)が流行し始めており、その割合は一般的な紙巻タバコに比べるとまだ少ないものの、従来の大衆の喫煙行動の特徴に変化をもたらしています。

電子タバコは、タバコを燃やさずにニコチン蒸気を発生させることで、紙巻タバコの煙に含まれる有害物質への曝露を減らす仕組みになっています。そのため、一部の人々には紙巻タバコより安全な代替手段と考えられていることが、電子タバコ需要の拡大に繋がっていると見られています。しかし、電子タバコには紙たばこ同様、健康に悪影響を及ぼす成分が多く含まれているのが実態です。

BPSの統計によると、インドネシアにおいて、2023年の電子タバコ使用率は1.55%で、3.74%であった2022年に比べ大幅な減少が見られました。同割合が最も減少した州はブンクル州で、2022年の3.99%から2023年には0.50%となっています。

2023年はほぼすべての州で電子タバコの使用率の減少が見られた一年となり、増加が見られた州は、バリ州と南東スラウェシ州のみでした。バリ島は電子タバコの使用率が抜きん出て高く、2023年には15歳以上で3.01%、5歳から14歳でも2.63%と、いずれも全国平均を大幅に超える数値となりました。

バリ島のウダヤナ大学の学生を対象とした調査によると、学生が電子タバコを使用する主な理由としてあげられたのは、一般的なタバコの禁煙手段としてまず電子タバコに切り替えるというものでした。その他の理由としては、電子タバコがより安全であるという思い込み、息抜きや楽しみのため、好奇心、などが挙げられました。

全国的に見ると、15歳以上の人口のうち、電子タバコを使用して喫煙した人の割合は、都市部では1.72%、農村部では1.31%という結果になりました。また、性別および経済水準別の回答に注目すると、電子タバコの使用率は、高卒以上の教育レベルを持つ、比較的経済水準の高い男性の間で高い傾向があることが明らかになりました。

目次

紙巻タバコ

上述のように、インドネシア社会では紙巻タバコは電子タバコよりもポピュラーな喫煙方法です。2023年の喫煙率は28.98%で、2021年から2023年にかけて28%台を維持しています。インドネシア人の喫煙行動は各地域の文化や宗教的慣習に関係しています。一部の社会では紙巻タバコを吸うことは男性のアイデンティティ形成に重要な役割を果たし、「男らしさ」を構築する一手段となっているのです。そのように喫煙が深く根付き受け入れられている環境で育つインドネシアの若者は、小さいことから喫煙に親しむ傾向があり、インドネシアでは18歳未満へのたばこ類の販売は法律で禁止されているにもかかわらず、2023年の5歳から17歳の紙巻タバコ使用率は5.62%と、決して低くない数値となっています。

煙草の葉畑

2023年の紙巻タバコの使用率を地域別に見ると、最も高かった地域はランプン県で34.08%、最も低かったのはバリ州18.9%でした。電子タバコとは異なり、紙巻タバコの使用率は都市部よりも農村部で高く、都市部の26.87%に対し農村部は31.09%でした。男女の差も電子タバコと比べ大きく開き、15歳以上の男性回答者の半数以上が最近1ヵ月間に紙巻タバコを吸ったのに対し、女性は100人中1人という結果となりました。加えて、教育水準と経済水準が高いほど紙巻タバコの使用率は低くなる、電子タバコとは真逆の結果が見られました。

1日当たりの紙巻タバコの平均喫煙本数

2023年、インドネシアにおける15歳以上の1日当たりの紙巻タバコの平均喫煙本数は12本でした。1日当たり平均喫煙本数が最も多い州はリアウ州、ジャンビ州、西スラウェシ州で、1日当たり18本でした。一方、1日あたりの平均喫煙本数が最も少なかった州はマルク州で、1日あたりわずか8本でした。興味深いことに、バリ州は紙巻タバコの使用率が最も低いにもかかわらず、1日あたりの平均喫煙本数は12本とかなり多くなっています。

また、紙巻タバコの使用率が都市部より農村部の方が多いという上述の結果と同様に、1日あたりの紙巻タバコの平均喫煙本数は、都市部(1日あたり10本)より農村部(1日あたり13本)の方が多くなっています。1日あたりの平均喫煙本数は、男女間では2本差(男性12本、女性10本)と、紙巻タバコの使用率では男女差が大きく開いたのに対し、平均喫煙本数の差はそれほど開いていないことが分かります。

更に、紙巻タバコの使用率は経済水準が高くなるにつれて減少傾向が見られますが、1日あたりの平均喫煙本数は、経済水準が高くなるにつれて増加する傾向にあります。まとめると、バリ州や女性など紙巻タバコの使用率が低いカテゴリでは、喫煙者一人当たりの1日あたりの平均喫煙本数が格段に高くなると言うことができます。

電子タバコ使用率の減少に見られるように、近年の喫煙の悪影響を訴える教育や政府政策は功を奏しているように見えますが、それでもインドネシアの喫煙率は世界的に見ると依然として非常に高いのが現状です。喫煙習慣は心臓病、がん、呼吸器疾患のリスクを高めるなど、人々の健康に長期的な影響を及ぼすことから、喫煙大国であるインドネシアでは、教育、予防努力、たばこに関する規制の強化が急務となっています。

その際、喫煙に関する文化的規範を変え、関連する健康リスクに対する人々の認識を高め、健康的なライフスタイルへの行動変容を促すことなどが特に重要な鍵となりそうです。今回は3回の連載に渡り、インドネシア中央統計局(Badan Pusat Statistik, BPS)のインドネシア健康統計プロファイル『Profil Statistik Kesehatan 2023』からインドネシア人の健康状況についてご紹介いたしました。

弊社インドネシア総合研究所では、こうしたインドネシアに関する最新の情報や動向を常に皆様にお届けしてまいります。調査をご希望の分野やトピックに関するご相談がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせくださいませ。

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参考:https://www.bps.go.id/id/publication/2023/12/20/feffe5519c812d560bb131ca/profil-statistik-kesehatan-2023.html

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