【コラム】インドネシア人の健康状況2023版②健康への取り組み

本コラムでは、インドネシア中央統計局(Badan Pusat Statistik, BPS)により先日公開されたインドネシア健康統計プロファイル『Profil Statistik Kesehatan 2023』より、インドネシアの人々を取り巻くコミュニティ全体の健康への取り組みについて詳しくご紹介いたします。まだご覧になっていない方は、本連載第一回目のコラム「インドネシア人の健康状況2023版①罹患率」を是非ご覧ください。

心と身体の健康づくりのための日々の努力は、健康を維持・改善する上で重要な側面です。健康への取り組みは、地域の医療施設やサービスへのアクセスのしやすさだけでなく、健康に関する個人の知識や意識にも影響されます。健康への取り組みは、セルフメディケーション、外来診療、入院診療に分けることができます。

目次

セルフメディケーション

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WHO(世界保健機関)によると、セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする」ことと定義されています。すなわち軽度の症状に対して、医療従事者に事前に相談することなく薬物を用いて治療する、自己治療のことです。セルフメディケーションは世界中で広く行われている健康づくりのための努力の一つであり、多くの国で保健政策の重要な一部とみなされています。セルフメディケーションの実践は、特に新型コロナウイルス感染症(Covid-19)のようなパンデミック時に顕著に現れます。

インドネシア中央統計局(BPS)によって行われた全国社会経済調査(SUSENAS)のデータでも、Covid-19のパンデミック禍にあった2021には、何かしらの健康上の不調を感じ、セルフメディケーションを行った人の割合が84.23%に上りましたが、2023年には79.74%に減少したことが報告されています。これは、パンデミックによって人々の健康に対する意識が一時的に高まり、パンデミックの収束により減少傾向に入ったものと見ることができます。実際に、セルフメディケーションの実践割合を州別に見ると、アチェ州とリアウ諸島州の2州を除く全ての州で2021年から2023年にかけてセルフメディケーションの実践割合が減少しています。2023年単体で見ると、セルフメディケーションの実践割合が最も高かった州は南カリマンタン州で89.06%、最も低かったのはバリ州で62.98%でした。

(BPSの統計をもとに弊社作成)

セルフメディケーションの実践は、都市部よりも農村部でより一般的に多く見られます。さらに、経済的条件別に見ると、経済的条件の低い層では、経済的条件の高い層よりもセルフメディケーションの実践割合が高いことが明らかになっています。貧困と教育水準は、治療を求める個人の行動と正の相関関係があることが示されており、知識やヘルスリテラシーの水準が低い農村部や貧困層では、外来診療や入院診療など医療を受診せずにセルフメディケーションを実践する可能性が高いことが報告されています。

外来診療

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セルフメディケーションで期待した結果が得られなかった場合に、一般的に人々が行う次の健康への取り組みが、外来診療や入院診療です。

同統計によると、2023年に健康上の不調を訴え外来診療を受けた人の割合(外来受療率)は35.16%でした。2021年(40.47%)、2022年(43.06%)と比較すると、セルフメディケーションの実践と同様に大幅に減少していることが分かります。居住地別の外来受療率は、都市部では37.02%、農村部では32.68%と、農村部よりも都市部の方が高く、このことは、都市部に住む人々の医療機関へのアクセスが農村部よりも良好であることを示しています。2023年の外来受療率が最も高い州はバリ州で53.08%であったのに対し、最も低いのは中央カリマンタン州で僅か19.28%と、地域別の差が顕著に現れた結果となりました。

(BPSの統計をもとに弊社作成)

経済的条件もまた、地域住民による医療サービス利用状況の決定要因となります。外来受療率は、経済状態の良い地域集団ほど高く、経済的条件の低い地域ほど低くなっています。さらに利用する医療機関の種類にも差が表れ、外来診療でインドネシアの人々が受診した医療機関の種類別では、「病院(医師・助産師)」が36.63%で最も多く、次いで「保健所・準保健所」が28.33%、「診療所(クリニック)・共同診療所」が17.74%でした。このうち、都市部や経済的条件の良い地域ほど病院での外来診療が多く、農村部や経済的条件の低い地域ほどクリニックや保健所・準保健所の利用率が高いことが明らかになりました。

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また、健康上の不調を感じていても外来治療を受けない理由もさまざまです。統計によるとその最大の理由は、「自分で薬を飲みたい」「必要ないと判断した」でした。また全体に占める割合は少ないものの、「治療費がない」「待ち時間が長い」などの理由も見られ、こうした受診を希望する本人の意思に反する要因で外来治療を受けていない人が依然としていることを認識することも重要です。実際に、外来治療を受けない主な理由として「治療費がない」を挙げた人の割合は、都市部よりも農村部に住む人の方が高く、一方、「待ち時間が長い」を挙げた人の割合は、農村部よりも都市部の人口の方が高くなっています。こうした実態を見逃さずに拾うことで、政策立案者が各地域でより良い公共政策を策定するのに役立てることが出来るのです。

入院診療

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統計によると、2023年に入院したことのあるインドネシア人の割合(入院受療率)は3.29%でした。2021年(3.36%)、2022年(2.91%)と、入院受療率は僅かに増減を繰り返していることが分かります。2023年の入院受療率が最も高かった州はゴロンタロ州で5.12%、最も低かった州はパプア州でわずか1.37%という結果になりました。セルフメディケーションや外来診療と同様に、地域差や経済格差は入院受療率からも読み取ることができます。都市住民の入院受療率は農村住民の割合よりも高く、教育水準と経済的条件に正比例しています。また、2023年に入院診療を受けた人々が利用した医療施設の割合は、私立病院が40.46%、公立病院は38.54%でした。またインドネシアでは近年入院施設を提供する保健所が増加しているため、保健所の割合は3番目に高く、11.70%を占めました。

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今回のコラムでは、インドネシア中央統計局の最新の健康統計より、セルフメディケーション、外来診療、入院診療の3項目に分け、インドネシアの人々が行っている健康への取り組みに関する現状をご紹介いたしました。上記でも述べたように、これらの部門では地域格差や経済格差による影響が顕著に現れています。

こうした統計は、政府やヘルスケア産業が現状を分析する一種の指標となります(例:地域の人々が医療サービスを利用しているか、或いは利用しやすいかなど)。すべての地域における医療・公衆衛生サービスへのアクセス向上、及びそのための医療施設の公平は確保と配分、そして医療従事者の質の高い医療人材の育成は、保健分野におけるインドネシア政府の最優先プログラムの一つです。

弊社インドネシア総合研究所でも、日本企業様のインドネシアにおけるヘルスケア産業への参入をサポートさせていただいております。インドネシアの人々の健康づくりに、日本の力で貢献していきませんか。ご関心をお持ちの方は是非お気軽に弊社インドネシア総合研究所へお問い合わせくださいませ。

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参考
https://www.bps.go.id/id/publication/2023/12/20/feffe5519c812d560bb131ca/profil-statistik-kesehatan-2023.html

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