【コラム】インドネシア人の健康状況2023版①罹患率

世界四位の人口を誇るインドネシアでは、人口増加に伴い、医療サービスの利用しやすさ、予防接種の提供、疾病予防への取り組みなど、公共の福祉を確保するための課題は複雑さを増しています。更にインドネシアは地域ごとの差が開きやすく、各地域の地理的条件や人口の年齢分布が、中央政府並びにそれぞれの地域政府が構築すべき健康開発政策の方向性を大きく左右しています。

例を挙げると、高齢化社会ではより集中的な高齢者保健サービスが必要となり、若年層が多い地域では健康予防と維持に重点を置く必要が出てきます。今回のコラムでは、複雑なインドネシア社会の健康概況をより良く理解するために、インドネシア中央統計局(Badan Pusat Statistik, BPS)により先日公開されたインドネシア健康統計プロファイル『Profil Statistik Kesehatan 2023』より、インドネシアの人々が直面している最新の健康問題や罹患率を詳しくご紹介いたします。

2023年の統計では、インドネシアの人々が直面する多くの健康問題のうち、主な訴えのひとつは、新型コロナウイルス感染症による社会混乱の長期化が特に影響をもたらしたと言われている、メンタルヘルスの問題です。インドネシアの人々のストレス、不安、うつ病のレベルは著しく上昇しており、適切なメンタルヘルスサービスを提供するために、保健部門や政府が真剣に注意を払う必要性が指摘されています。

さらに最近は、労働者、特にZ世代生まれの労働者の間でメンタルヘルスの問題が深刻化しています。国際労働機関(ILO)が2020年から2022年にかけてインドネシアで実施した労働者に対する暴力やいじめに関する調査結果によると、労働者の71%が暴力やいじめを経験しており、そのうちの77%が精神的な暴力やいじめを、63%が職場で精神的ストレスから来る健康障害や不快感を経験しているという事実が報告されています。

インドネシアのメディアにより紹介されているメンタルヘルスケア相談先としては、様々なカウンセリングサービスを提供している『Into the Light Indonesia』という団体があります。

さらに、糖尿病、高血圧、肥満などの非伝染性疾患は、依然としてインドネシアの重大な健康課題です。ペースの速い都市部のライフスタイルと食習慣の変化が、こうした疾病の有病率増加の一因となっていると言われています。こうした慢性疾患の負担を減らすには、予防アプローチと健康教育が不可欠であると専門家は指摘しています。

『Into the Light Indonesia』Webサイト:
https://www.intothelightid.org/tentang-bunuh-diri/hotline-dan-konseling/

インドネシア中央統計局(BPS)によって行われた全国社会経済調査(SUSENAS)は、自己評価式健康(Self-Assessed Health, SAH)アプローチ、すなわち個人が自身の健康について評価や個人的評価を提供する方法を用いて健康情報を収集しています。

この方法には医師による診察など客観的な健康指標では測定できないような患者の自覚的訴え(愁訴)も反映できるという利点があります。SUSENASの運用定義に含まれる健康愁訴には、咳、風邪、発熱、慢性疾患を持つ者、事故による後遺症を持つ者、吐き気やめまいなど妊婦や月経中の女性による訴え、過食症など身体に影響を与えうる心理的愁訴などが含まれています。

また、公衆衛生の状況を概観するためによく使われるもう一つの指標は、罹患率です。罹患率は、一定期間にどれだけの疾病(健康障害)者が発生したかを示す統計的指標です。本調査では、罹患率の期間を直近1ヵ月間に定め、その期間に健康上の不満を訴え、その不満によって日常生活に支障をきたした人口の割合を集計しています。

図1:2021年から2023年におけるインドネシア人の罹患率の変化(弊社作成)出典:BPS

図1によると、2023年のインドネシア人の罹患率は26.27%で、これはすなわち26.27%のインドネシア人が直近1ヵ月に何かしらの健康上の不満があったことを意味しています。2021年から2023年までの変化を見ると、インドネシアの罹患率は横ばいながらも僅かに減少傾向にあるようです。

地域別に見ると、罹患率が最も高いのは西ヌサ・トゥンガラ州で39.40%です。その他、罹患率が30%以上の州はリアウ諸島、中部ジャワ、東ヌサ・トゥンガラ、ゴロンタロの4州です。一方、パプア州は、罹患率が12.64%と、直近1ヵ月の健康上の不満を訴えた人の割合が最も低い地域となっています。

罹患率は、地域、性別、社会的要因、年齢層などの特徴によって異なります。インドネシアでは都市部の罹患率が25.81%、農村部では26.90%と、農村部の方が罹患率が高い傾向にあります。公衆衛生の状況の地域格差は、住民の経済的条件や医療機関へのアクセス等の影響を受けています。

性別では、女性の罹患率が男性より高く、これは女性が月経、妊娠、閉経など、ライフサイクルを通じて生物学的に大きな変化を経験するためです。女性はこれらの各段階で、ホルモン障害、貧血、生殖に関する健康問題など、特有の健康リスクに晒されています。

男女の差は社会的要因としても現れる場合があり、例としてマラウイの事例が特徴的で、男尊女卑の傾向が強く男女不平等なマラウイのような地域では、女性が保健サービスにアクセスするための障壁が大きいため、女性の罹患率が男性よりも高いことが明らかになっています。

年齢層別では、5歳未満(0~4歳)と高齢者(60歳以上)で罹患率が最も高く、これは、5歳未満では免疫システムが未発達であり、高齢者では加齢による免疫機能の低下が見られ、どちらも感染症や病気に罹りやすくなる傾向があるためです。

健康状態の訴え、および罹患率の数値の変化は、保健政策や予防プログラム、あるいは保健システムを改善するための手がかりとなるだけでなく、ヘルスケアの重要性に対するインドネシア国民の意識を高め、疾病予防と健康維持プログラムへの参加を促すことにも繋がります。

数千もの島々からなるインドネシアでは、様々な要素を考慮し各地域社会のニーズに沿った形で、各地域の保健分野への投資や資源を誘導することが必要不可欠です。

弊社インドネシア総合研究所は、日本企業にとってまだまだ参入の余地があるインドネシアのヘルスケア産業に、最新の統計から見る人口動態と公衆衛生の分析を通じて、効果的なビジネスのご提案をさせていただきます。インドネシアでのヘルスケアビジネスの展開にご関心をお持ちの企業様、是非弊社インドネシア総合研究所へお問い合わせくださいませ。

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参考
https://www.bps.go.id/id/publication/2023/12/20/feffe5519c812d560bb131ca/profil-statistik-kesehatan-2023.html
https://www.kompas.com/edu/read/2023/12/04/213610571/pakar-ui-sebut-gen-z-berpotensi-jadi-generasi-paling-stres-mengapa

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