【コラム】インドネシアの送り出し機関における日本語教育とその課題について

現在日本でのインドネシア人労働者数は急速に増えており、厚生労働省によると2024年10月末までに77,889人に至ります。前年と比べても47.5%増と急速に増えてきていることが分かります。

その中でインドネシアにおける送り出し機関は現在417校(認定済)あります。そのため、インドネシア現地における日本語の先生の需要も増えてきていいます。では、そのような現状におけるインドネシアでの日本語教師の課題とはいったい何なのでしょうか?

目次

インドネシアにおけるインドネシア人の日本語の先生の現状について

まずインドネシアで、インドネシア人が日本語の先生になるためには、以下が必要とされます。

  • 初等教育;資格制度無し
  • 中等教育;中学校では資格制度無し

高校では教育免許(Sertifikat Pengajar)の制度がある

  • 高等教育;学士号を出す学部で教えるには、修士号を取得する必要がある
  • 学校教育以外;特に定められた資格制度無し

現状インドネシアの送り出し機関では日本語の先生になるための資格制度がないため、元技能実習生で帰国した者や大学で日本語学科を卒業したばかりの経験の浅い日本語教師が多いのが現状です。特に元技能実習生で帰国した先生は教育においての知識がないため、下記のような項目を日本語の先生としての意識づけや教育をしていく必要があります。

  1. カリキュラムとは
  2. 何をどのように教えるか
  3. 1つの授業の時間管理
  4. 補講とは、なんのためにするのか

先生の日本語のレベルも様々で、会話力や文法力にも差がでてくる。そのため改めて研修が重要となります。まず会話では日常的に日本語を使うことを意識づけさせるべきです。例えば日本語で報告を行ったり、指示を日本語で出したりします。ワークショップにおいても日本語で行い各自の日本語力の向上を計ることが大切です。

また、すでに教育の経験があるインドネシア人の日本語の先生でも経験やプライドから、今までのやり方や考え方を容易に変えられない傾向にあり、下記は一部先生方から見えてきたマイナスの意欲の一例です。

インドネシアの文化や習慣によるものから

―家族との時間の大切さによって、補講や当番への価値が見いだせない

―会社への貢献意識の低さによる、自身の労働業務外に対する抵抗 等

補講に対しての必要性を感じていない

―生徒自身の問題という認識

教師研修の必要性を感じていない

―自分自身のやり方で満足している

教師管理、教師指導がいない

―指導、管理する立場の物が上司からの指示に従い、改善事項を伝えるがその実施状況を監督すること、また教師からの報告を「義務」としていない

これらの、教師の傾向による弊害は、 「落ちこぼれの学生」を生み出だし、学生の学習意欲の低下、ひいては落ちこぼれからの脱却の機会の損失になりかねません。

日本語教育のワークショップの実践(2023年11月~12月)

先生方のマイナスの意欲を改善していくことによって、周りから遅れを取っている学生を救うことができ、また学生の学習意欲の向上や授業内容の質の改善につながっていくことが可能となります。しかしこれらの先生方の意欲、意識を変えていくことはそれぞれがプライドを持っている中で非常に困難です。インドネシア人の先生方にワークショップに参加してもらうために、まずは「当番手当」や「補講手当」を用い、ワークショップをやる価値(対価が伴う)を見出していくことが望まれます。ここでは改善策の一つのとして、弊社がワークショップを定期的に行った例をご紹介します。ワークショップを通して、先生方が自身らの得意不得意に気づき、他の先生のやり方を見ていくことによって、先生方の授業の仕方の改善につなげていくことを目指しました。

なお、これらをより改善していくためには「気づきの理論」を用い考えさせる必要があります。インドネシアの日本語の先生方は各自のプライドを持っている先生も多いことや、人からの指摘では自身の認識の中ではないので記憶に残りづらいため、「納得」するという意識に結びつきません。そのため直接的な指摘や指示ではなく自己評価をしていく中で無意識的に「自分の物」にしていくことがより効率的です。またこの気づきの時間を作る必要がありますが、個人ではこの気づきの時間すら必要ではないと感じる先生もいるため、ワークショップを通して見出していく必要があります。

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ワークショップ実践内容 

第1回:適切な授業科目設定とは、国籍・経験・学歴ではなく先生方それぞれの自己評価から先生方が自らこの教科なら教える事に自信があると思っている授業科目の担当者になることであるとしました。そのために、先生方各自が自分の「教員としての素質」「学習指導力」「生徒指導力」について自己評価することが必要です。

*各自で自己評価シートに記入し、後日提出

第2回:自己評価の発表後、適切な教科科目を設定しました。どの先生方がたからも、苦手な点、学ぶべき点が出されました。学校はチームであること、一人で全ての科目を教える事は不可能であり、自分の出来るところ、自信のあるところは他の先生方に教授方法や、工夫の仕方を教え、できないところは教えてもらうような協力関係を作り出せるのが「学校」であることの認識を共有できました。

第3回:適切な教員による授業を見学し、授業内容を時系列で整理し、他の先生方へ展示しました。文法の授業では担当の先生の幅広い日本語文法の知識が際際立っており、読解での授業ではⅠ時間(60分)の時間配分がどのように設定されていたのか、さらにアクティビティの時間では「幸せなら手をたたこう」の歌の習得に「聞くこと」に注力させて、授業を行っていた例を示しました。これらの三つ授業は、先生方の「知識」「計画性」「工夫」を表しており他の先生方の理想的な授業例となりました。

ワークショップのまとめ

全ての教育現場において、多種多様な科目を「適切な教員」が教えているとは言いがたいのが現状です。これは国や、教育機関、公立、私立を問わずに存在する問題です。この解決方法の一助として「教員の自己評価から科目設定」を行いました。

Jwind(教員7名)は 日本への特定機能生送り出し機関として、日本語教育(N4レベル)

に加え、介護、フードサービスの専門的な教育を行っており、さらには独自の「アクティブラーニング」を実施しております。

マンパワー(教員2名)は日本への技能実習生送り出し機関として、日本語教育(N5レベル)を実施しています。

今回のワークショップでは両校の先生方9名に教員の資質と日本語教育能力と指導力について、評価してもらい、各自の優れている点=より良く教える事が出来る教科、劣っている点=教える事が困難である教科を述べてもらい、その評価に従って、授業科目を話合いの上、設定しました。

全ての先生が、苦手だと考えている教科に対して、学びたいという意欲がみられました。この2つの送り出し機関の先生方は探究心と、深い生徒への愛情を持ち合わせ、生徒へ提供する授業の向上を目指していることが明らかとなり、今回のワークショップは非常に意義深いものとなりました。

 

今後のインドネシアにおける日本語教育について

インドネシアでの日本語教育は、日本とインドネシアの協力関係の深まりから、これからも日本語学習者は増加し、それに伴う教育機関も大学、専門学校、送出し機関、オンライン学習と学べる機会も、場所も、コストも千差万別になると考えられます。それらの教育機関や先生方の質を高めるための取り組みが必要となることは明らかです。先のワークショップのような先生方の気質や背景を考慮した研修、学びが継続的にインドネシア全土で行われる事が期待されます。

インドネシアにおける日本語教育について、ご興味をお持ちの方は弊社までお気軽にお問合せください。

参考元:
OTIT外国人技能実習機構外国政府認定送出機関一覧 | 外国人技能実習機構 (otit.go.jp)
厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和4年10月末現在)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
国際交流基金国際交流基金 – インドネシア(2020年度) (jpf.go.jp)

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