【コラム】インドネシアで広がるオンライン診療サービス

未だ発展途上国、というイメージの強いインドネシアですが、実はオンライン配車サービス、フードデリバリー、買い物代行などを一極化したGojekやGrabなどのアプリケーションが広く普及し、コード決済サービスがクレジットカード以上に使われているなど、オンラインサービスが日本以上に普及しているデジタル大国でもあります。

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そんなデジタル大国インドネシアで、近年新たに広がりを見せているのが、アプリケーションを活用した遠隔医療(Telemedicine:テレメディシン)です。軽い症状や風邪なら、家から一歩も出ずに診療から薬の処方、薬の宅配までがオンラインで完結するようなサービスが発展してきています。
今回は、そんなインドネシアにおけるオンライン診療サービスについて、日本と比較しながらご紹介します。

インドネシアにおけるオンライン診療サービスの普及


インドネシア政府によれば、インドネシア保健省の許認可のもと運営されているオンライン診療サービスの利用者は2020年時点で1500万人を超えており、パンデミック前の400万人から大きく増加しました。

(参考:https://www.kominfo.go.id/content/detail/25779/presiden-apresiasi-telemedicine-kurangi-risiko-penularan-covid-19/0/berita アクセス日:2023/08/14)

インドネシア全体の人口が約2.7億人であることを鑑みると2020年時点でサービスユーザーの割合は人口比の約5.6%ほどですが、コロナ禍でのユーザー増に伴うプラットフォームの整備やサービスの認知度の向上などもあり、今後もユーザーは増えていくことが期待されます。
Statisticaの発表しているマーケット予測によれば、オンライン診療の収益は、2023年に2億7,500万米ドルに達する見込みです。2023年から2027年の年間成長率は10.99%、2027年には市場規模が4億1,730万米ドルにまで達すると予測されています。

(参考:https://www.statista.com/outlook/dmo/digital-health/ehealth/online-doctor-consultations/indonesia アクセス日:2023/8/21)

とりわけ、インドネシアでは元々医師や看護師などの熟練した医療従事者の不足や、質の高い医療が都市部に集中していることによる医療格差などが問題になっていました。実際に、人口あたりの病床数は日本の1/13程度で、医師数も日本と比べ非常に少ない状況です。

(参考:https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/asia/indonesia.html アクセス日:2023/08/14)

こうした状況に対し、インドネシア国内ならどこからでも医師に症状を相談できるオンライン診療サービスは、利用者にとっても重要であるだけでなく、インドネシア政府も非常に注目しています。

今回は、インドネシアにおけるオンライン診療サービスについて、主要なプラットフォームや今後の課題について、日本との比較も踏まえてご紹介します。

インドネシアにおける主要なオンライン診療サービスと日本との比較
インドネシアにおけるオンライン診療サービスを提供している主要なアプリケーションは以下の通りです。

(図:databoks を元に弊社作成 https://databoks.katadata.co.id/datapublish/2022/04/07/layanan-telemedicine-yang-paling-banyak-digunakan-di-indonesia-apa-saja アクセス日:2023/08/14)

主要な5つのアプリケーションは全てインドネシア発であることからも、インドネシアのデジタル大国ぶりが伺えます。

アプリケーションの内容としては、以下のようなものが例として挙げられます。

・ チャットによる医師への相談・問診(オンライン診療)
・ 来院予約
・ 市販薬のネット販売
・ 各種検査キットの販売・検査
・ 健康に関する記事の配信

その他、医療保険との連携機能や体調を管理するカレンダーなどもあり、健康に関する様々なサービスが集約されています。そのため、こうした分野のサービスを総称してTelehealth(テレヘルス)と呼称することもあり、人口も多く健康・保健分野で課題の多いインドネシアでは今後さらなる成長分野と考えられます。

実際に最大手のHalodoc(ハロドック)でオンライン診療を受ける流れをご紹介します。

①アプリケーションをダウンロード・登録
アプリケーションはインドネシア語・英語で提供されておりインドネシア国内でのサービスとなっています。
ホーム画面には、チャットのほか検査や市販薬販売などのアイコンが並んでいます。

②オンライン診療を受けたい場合は、医師とのチャットを選択します。医師が診察料とともに並んでおり、専門分野もここで選ぶことができます。メンタルヘルスについても相談できるほか、獣医に相談できるサービスもあるようです。

③医師を選択すると、顔写真とともに経験年数、口コミ、価格、経歴のほか、STRと呼ばれる医師資格の登録番号が表示されます。

④チャットを選択すると医師とのチャットが開始されます。医師とのチャットで症状を伝え、必要であれば薬が処方されます。処方された薬は病院からデリバリーで配達されるため、患者は家から出ることなく治療まで可能です。けがや深刻な病気の場合は対面での診察が推奨され、そのアポイントメントもアプリケーションの中で完結可能です。

⑤ 支払いはオンラインで完結します。都度支払いを行うパターンに加え、サブスクリプションで一定期間のうち何回まで医師に相談可能、というパターンもあります。半年に5回まで専門医にチャット可能なプランで日本円で1700円程度で、薬の処方があれば追加で料金がかかります。

また、新規の患者だけでなく、一度通院したことのある病院の診察などもHalodoc上で行うことも可能なため、自宅で療養している小児の定期診察などにも活用されています。

日本のオンライン診療サービスの一例と比較すると以下のようになります。

  HaloDoc 日本のサービス(A社)
プラットフォーム アプリケーション上でアクティブな意思を選択し即時開始 サービスを導入している各医療機関のHPなどから予約
診療方法 チャット 主にビデオ通話、電話も可能
初回問診はチャットのことも
薬の処方 配送可能
服薬指導の実施はオプション(実地での処方と同様)
薬局で受け取りもしくは配送配送薬剤師による電話やオンラインでの服薬指導が必要
決済方法 オンラインで完結 オンラインで完結

(参考:厚生労働省WEBサイトhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00010.html アクセス日:2023/08/14)

実は日本でもすでにオンライン診療は医療機関の間で広がってきているのですが、Halodocの特異な点は、「複数の病院」の「幅広い分野」の医師にひとつのアプリケーション上で相談が可能である点、また、予約しなくともその時アクティブな医師にすぐ診療してもらえる点だと言えます。
日本でも同様のサービスも近年増えてきていますが、現在の主流としては個々の医療機関がオンライン診療システムを導入して患者がそれぞれから予約する形が多いようです。

服薬指導や診療方法について日本の方が規定が多いため、医療の質が保証されつつも即時性に欠けるのに対して、インドネシアではチャットのみという留意点がありつつも、即時性の高い診療が可能だと言えるでしょう。

また、HaloDocのようなサービスは、市販薬や健康に関する記事、自宅での検査など様々なサービスが集約されているため、保健・医療分野全体で広くユーザーを獲得し、またユーザーが様々な医療サービスにアクセスすることで収益を拡大していくことが見込めます。また、ユーザー側も健康のための様々なサービスにアクセスできることで、対処療法だけでなく予防療法の実践も可能でしょう。

インドネシアのオンライン診療サービスにおける今後の課題

ご紹介してきたように今後も拡大が見込まれるインドネシアのオンライン診療サービスですが、以下のような課題も指摘されています。

①医療データの保護や運用に関する規制の不足
②ユーザーの医療情報の多数のアプリケーションへの分散、集約した情報活用の不足
③インターネット機器を持っていない層へのアプローチ

現在、オンライン診療の多くはスタートアップ企業など民間のスタートアップ企業などが担っており、患者の情報の共有がなされていなかったり、情報が分散して保存されていたりして、セキュリティの面でも、ビッグデータ活用の面でも課題が残っています。
医療情報など健康にかかわる情報は重要な個人情報のため、今後のオンライン診療サービスの拡大のためには、適切な法整備が必要になってくるでしょう。

(参考:インドネシア保健省 https://oss2.dto.kemkes.go.id/artikel-web-dto/ENG-Blueprint-for-Digital-Health-Transformation-Strategy-Indonesia%202024.pdf アクセス日:2023/08/14)

また、医療の地方と都市部の格差解消という観点からは、地方のインターネットの無いエリアへのアプローチも重要になってきます。インドネシア政府は、オンライン診療の拡大促進とともに、地方のインターネット環境の改善も求められています

今回は、インドネシアで今後さらに発展が見込まれるオンライン診療サービスについてご紹介しました。
デジタル大国インドネシアでは、様々なサービスが誕生しており、今後さらなるイノベーションが見込まれます。

弊社インドネシア総合研究所では、様々な分野における皆様のインドネシアビジネスをサポート致します。
これらインドネシアに関わる弊社サービスにご興味がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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