【コラム】インドネシアの人々の健康のためのインドネシア保健省の取り組みとGermas について
インドネシアでは、近年の急激な経済発展に伴い所得水準が向上したことにより、ライフスタイルが大きく変化する中、インドネシアの人々の健康意識は徐々に高まりつつあります。
最近では、特にジャカルタなどの都市部を中心に、ジムの数やジムに通う人の数は増加し、またGoogleが公開したレポートによると、2018年時にはインドネシア国内での健康に関するワードの検索数が急増するなど、健康ブームが起きています。
更に、ここ数年で健康・医療関係のアプリなども多く開発され、インドネシアの人々に広く利用されるようになっています。
参考コラム:
しかしながら、まだインドネシア全体で健康意識が高まり、インドネシアの人々の健康状態が大きく改善・向上しているというわけではなく、インドネシアにおける健康・医療分野では課題が多く残っているのが現状です。
では、インドネシア政府としてはどのような目標を掲げて健康運動の取り組みを行っているのでしょうか?
健康に関する取り組みの軸としては大きく3つに分けられます。
①感染症の根絶、②非電線性疾患の症例の増加、③すでに治療法・治療薬が存在しているはずの疾患の再出現、という軸で課題解決に取り組んでいます。
インドネシアは今まで下痢、結核、デング熱など感染症による死亡数が最も多かったのですが、上述の通り近年の経済発展に伴うライフスタイルの急激な変化により、現在は糖尿病、癌、心疾患など、非伝染性疾患が最も多い病気となりました。
すでに病気に罹患してからでは多額の治療費が発生してしまい、治療を受ける個人はもちろん、国民皆保険制度を導入しているインドネシア政府としても負担する金額が大きくなってしまうため、インドネシア政府としては治療から予防医療に切り替えていきたい意向です。
このような背景から、インドネシア保健省は「Direktorat Promosi Kesehatan dan Pemberdayaan Masyaraka(以下、国民の健康増進とエンパワーメント局と記載す)」を立ち上げており、インドネシアの人々の健康の質の向上や「健康で独立した公正な社会」を目指し、教育資料の作成や雑誌などへの掲載、その他メディアでの情報発信など、様々な取り組みを行っています。
コミュニティレベルで根付いた保健サービス機関となって実際の医療の現場を把握するためにも、インドネシア地域のクリニック・保健所にあたるPuskesmasに保健省所属の担当者を配置させています。
国民の健康増進とエンパワーメント局が取り組む健康増進プログラムの中でも、インドネシアの健康・医療分野においてよく目にするのが「健康的な生活社会運動(Gerakan Masyarakat Hidup Sehat=Germas)」です。
Gerakan Masyarakat Hidup
http://promkes.kemkes.go.id/germas
「国民の健康増進とエンパワーメント局」は、Germasを通じて健康な体作りをし、維持していくようインドネシア国民に呼びかけています。
健全な地域社会を実現するための「健康的な生活社会運動(Gerakan Masyarakat Hidup Sehat=Germas)」は、「国民の健康増進とエンパワーメント局」が力を入れている運動の一つであり、今回の新型コロナ感染拡大下においても、インドネシア国内の各自治体はGermasが掲げる健康のためのステップをWEBサイト上で掲載しています。
インドネシアの各地方自治体がWEBサイトに掲載しているGermasの画像
画像引用:保健省WEBサイト
http://promkes.kemkes.go.id/germas
Gemasでは、インドネシアの人々がより健康的な生活を送るために、日々の生活ですぐに取り入れられる取り組みとして以下の7つのステップが提示されています。
1. 運動する
現代の人々は体を動かす機会がなく、特にジャカルタなど都市部の人は、最近でこそMRTの開発により歩道が舗装され、オフィスや自宅から駅の間を歩く人も増えましたが、車やバイクなどでの移動が多いため、日常で体で動かす機会はなかなかないと言われています。
また、近年インドネシアで糖尿病や肥満が増加している背景として、運動不足と、バランスの取れていない高カロリー・不摂生な食事を挙げており、1日30分程度の運動でもよいので、できるだけ毎日習慣的に運動するよう呼びかけられています。
2. 野菜と果物を食べる
手軽でおいしいものを食べたいという思いは、なかなか野菜や果物の消費には直結しないでしょう。インドネシアでは炭水化物や脂っこい食事が好まれる傾向にあるのが現状です。
インドネシア政府は、特に子供に向けての野菜と果物を食べることのメリットの教育に力を入れています。
例えば、「国民の健康増進とエンパワーメント局」は、インドネシアの人々向けに、健康な体作りのため野菜と果物を消費するメリットを伝えるために以下のような動画を作成しています。
3. 喫煙しない
喫煙は健康にあらゆる悪影響を与える習慣と言われています。
インドネシアでは喫煙率が高く、喫煙や喫煙に由来する疾患はインドネシア全体の深刻な問題となっています。
4. アルコール飲料を消費しない
インドネシアは国民の8~9割がイスラム教徒と言われておりますが、イスラム教徒はアルコールは禁じられているため、インドネシアでは日常的にアルコールを摂取することはあまり一般的ではありませんが、富裕層や華僑のクリスチャンの方々によって消費されています。
5. 定期的な健診を行う
日本では企業に対して社員の定期健診が義務付けられているということもあり、かなり多くの人が受診していると思いますが、インドネシアではそのような制度はなく、インドネシア国内で定期健診を受ける人はまだまだ少ないのが現状です。
インドネシア政府としては、身長体重、腹部周囲の計測、血圧、視力・聴力検査、コレステロールチェック、肺機能の確認、女性は子宮頸がんと乳がんの検診を勧めています。
6. 身の回りを清潔に保つ
自身の健康のためには身の回りを清潔に保つことも大切です。まずは家庭レベルから、身の回りの衛生状態を改善し、できるだけ周囲のケガや病気など健康リスクを減らすよう呼びかけられています。
7. トイレを利用する
トイレ以外の場所で用を足すことは、環境の質を低下させるだけでなく、様々な病気を電線させるリスクがあるため、身の回りの環境を衛生に保つためにも下水処理されるトイレの利用が勧められています。
いずれも、新しく道具をそろえたりする必要がなく、お金もかからずすぐに始められる取り組みですが、インドネシア保健省としては、1)運動する、2)野菜と果物を食べる、3)定期的な健診を行う、の3つからまず取り組むよう奨励しています。
「国民の健康増進とエンパワーメント局」は、各SNSを活用し、健康に関する様々な情報発信を行っています。
弊社の過去のコラムでも度々ご紹介しております通り、インドネシアにおいて健康・医療分野は非常に重要な課題の一つです。今後もコラムにてインドネシアの健康事情や医療事情についてご紹介してまいります。
また、インドネシア保健省へのヒアリングや消費者調査など、インドネシアの医療分野における調査や専門家インタビューなどにご興味がある方はぜひお気軽にお問い合わせください。
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