【コラム】最新版インドネシアの健康事情と保健・医療の予算

先日、日本では新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行するなど、社会が徐々に新型コロナウイルス感染症拡大以前の様相を取り戻しつつあります。
平時への移行を目指す流れはインドネシアでも同様で、今年1月には新型コロナウイルス対策の活動制限が撤廃されました。そうした中で、インドネシアの医療もまた、新型コロナウイルスへの対処から保健サービスの質の向上へとシフトする動きを見せています。

そこで、今回の記事では、インドネシアの最新の健康事情についてご紹介します。

インドネシアにおける健康問題

インドネシアにおいて深刻なのが、栄養上の問題です。

インドネシアでは、子どもを中心に肥満、低栄養のどちらもが課題となっており、「栄養不良の二重負荷」と呼ばれる状況に直面しています。

2013年から2022年までにインドネシアの保健省が行った調査によれば、5歳未満の子どもの栄養状態は以下のように推移しています。

出典:インドネシア保健省 インドネシア栄養状態調査(SSGI)より弊社作成 (閲覧日:2023年5月9日)
https://promkes.kemkes.go.id/materi-hasil-survei-status-gizi-indonesia-ssgi-2022

発育阻害:年齢に対する身長が引く状態、慢性的な栄養不足を示す指標
消耗症:身長に対する体重が少ない状態、急性の栄養不足を示す指標
低体重:年齢に対する体重が少ない状態、急性および慢性的な栄養不足の複合的な指標
過体重:身長に対する体重が過剰である状態(肥満)、過栄養や栄養の不均衡の指標

(出典:https://www.who.int/health-topics/malnutrition#tab=tab_1)

近年徐々にと減少傾向にはありますが、いまだにインドネシアの幼児の5人に1人は発育阻害の影響を受けており、状況は深刻です。

また、一見すると真逆に見える栄養失調(発育阻害、消耗症、低体重)と過体重がこのように混在している「栄養不良の二重負荷」は、インドネシアを含む東南アジアやアフリカ諸国など、栄養転換期にある発展途上国によくみられる特徴です。
2021年にUNICEFが東南アジアで実施した調査報告によれば、東南アジア諸国の子どもの栄養に関する課題として、

  • 栄養に関する知識の不足
  • 健康的な食事へのアクセスの不足
  • 砂糖、油を多く含む安価な食品の流通拡大
  • 妊娠期間の母体の栄養不足

などを挙げており、こうした要因によって栄養失調や過体重の問題が生まれています。

出典:https://www.unicef.org/png/press-releases/children-south-east-asia-face-double-burden-obesity-and-undernutrition-new-report
https://www.unicef.org/eap/reports/maternal-nutrition-and-complementary-feeding


また、成人ではとりわけ肥満が深刻化し、生活習慣病の患者も増加しています。
WHOの統計によると、2019年時点でのインドネシア国内の主な死因は以下の通りです。

インドネシアにおける人口10万人当たりの死者数(2019)

  男性 女性
1位 脳卒中 脳卒中
2位 虚血性心疾患 虚血性心疾患
3位 糖尿病 糖尿病
4位 慢性閉そく性肺疾患 結核
5位 肝硬変 肝硬変
6位 結核 下痢性疾患
7位 下痢性疾患 高血圧性心疾患
8位 下気道感染症 慢性閉そく性肺疾患
9位 新生児疾患 乳がん
10位 高血圧性心疾患 下気道感染症

出典:WHO WEBサイトより弊社作成(閲覧日:2023年5月9日)
https://data.who.int/countries/360

グラフの第3位までを男女ともに生活習慣病が占めていることからも、インドネシアにおける生活習慣病の問題がいかに深刻であるかがわかります。

肥満の原因としては、

  • ファストフードの広まり
  • 運動不足
  • インドネシア特有の揚げ物の多い食生活
  • 野菜消費量の少なさ 
  • 幼少期の栄養不良

などが挙げられます。

インドネシアにおける肥満や栄養についてはこちらの記事でも詳しくご紹介しています。



健康への意識は、ジャカルタなど都市部の富裕層を中心に高まっているものの、全国的には、いまだ健康に関して問題が山積している状態と言えるでしょう。

2023年度のインドネシア保健・医療予算

今年度のインドネシアの国家予算のうち、健康・医療分野の予算はおよそ179億ルピアとなっています。
年々増加傾向にありましたが、新型コロナウイルス感染症の収束にともない、今年度はわずかに減少しました。

図:インドネシア財務省WEBサイトより弊社作成(閲覧日:2023年5月16日)
https://data-apbn.kemenkeu.go.id/lang/id/post/11/anggaran-kesehatan
https://klc2.kemenkeu.go.id/kms/knowledge/anggaran-pendapatan-dan-belanja-negara-tahun-anggaran-2023-b2689429/detail/

インドネシア保健省の保健大臣は、今回の予算における優先事項として、6つの項目を挙げています。

  1. 治療から予防医療への転換
  2. インドネシア全土の病院の再編
  3. 医療サービスのレジリエンス強化
  4. 医療人材の育成
  5. 医療財政制度の改善
  6. バイオテクノロジー、IT技術、AIなどの最新技術を活用した将来の保健プログラム構築

出典:https://sehatnegeriku.kemkes.go.id/baca/rilis-media/20221201/2041903/anggaran-kesehatan-2023-fokus-tingkatkan-kualitas-layanan-kesehatan/

新型コロナウイルス感染症拡大が収束に向かう中で、平時の医療体制の見直しや医療インフラの強化、予防医療への転換がはかられています。
予防医療の観点からも、インドネシア政府は栄養問題と健康の改善に真剣に取り組む姿勢を示しています。

弊社はインドネシアの医療関連の調査の実績や、インドネシア医師会とのネットワークもございます。
インドネシアの医療・健康ビジネスにご興味がある方はぜひお気軽にご連絡ください。

株式会社インドネシア総合研究所
お問い合わせフォーム
Tel: 03-6804-6702

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