【コラム】詐欺にご用心:インドネシア人学生がドイツで労働搾取の被害に

先日、インドネシアで衝撃的なニュースが話題となりました。33大学のインドネシア人学生1,047人が、ドイツでのインターンシップを装った労働搾取や人権侵害の被害に遭ったというものです。2023年10月から12月にかけて発生したこの事件は、僅か2ヶ月間にも関わらず多数の被害者を出し、インドネシア当局による捜査で、既にインドネシア国内外で5人の容疑者の名前が挙がっています。

この詐欺は、PT CVGENとPT SHBというインドネシア企業が仕組んだもので、2020年にインドネシア政府によって定められた新しい教育方針MBKM(Merdeka Belajar Kampus Merdeka)イニシアチブの一環であるとして、学生にドイツでのインターンシップ・プログラムを約束し、渡航を斡旋したと見られています。被害にあった学生らは、インドネシア出国時にはプログラム参加料などとして法外な料金を請求された上、現地到着後にそのプログラムが実際には肉体労働のアルバイトであることを知り、後戻りの出来ない状況に置かれた後、肉体労働をするも、緊急援助資金として給料から多額が差し引かれたと言います。

更に仕事場では、不明確な契約書、人材紹介会社から提供された情報と一致しない仕事、一方的な雇用契約の解除、不明確な宿泊先の手配、不当な給与問題、激しい肉体労働による健康問題、宗教的な属性を身につけた女子学生に対する差別など、明るみになっただけでも数多くの人権侵害に当たる問題が報告されました。

今回インドネシアの学生らが被害にあった、インターンシップ・プログラムと謳われた肉体労働のアルバイトは、ドイツ語で「Ferienjob」と言います。英語で「holiday job」(休暇雇用)と訳されるこのシステムは、ドイツの学期休暇中の合法的なアルバイトのことで、ドイツの法律で制定されています。ドイツの様々な企業における労働力不足を補うためのもので、雇用主と学生は短期および一時的な雇用関係にあり、従事する職務は学生の学業活動や能力とは無関係です。大学の単位認定等もされません。Ferienjobの最長期間は90日間で、延長はできないとされています。

Ferienjob自体は所謂アルバイトであり、決して悪いものではありませんが、労働搾取や不当な待遇に遭わないよう注意が必要です。Ferienjob参加希望者は雇用主に直接連絡を取り、仕事内容、給与、その他の権利や義務について詳細を明らかにすることが推奨されています。また、ドイツに出発する前に、自分が理解できる言語で書かれた雇用契約書に署名しておくことや、国際健康保険に加入しておくことも重要です。

こうした憂慮すべき報告を受けて、在ベルリン・インドネシア大使館は、「Ferienjobに参加するインドネシア人学生をドイツに派遣するための活動や準備に大使館が関与したことは一才ない」「Ferienjobが学生の学業活動に関連するインターンシップであると誤解して、インドネシアの公式休暇期間外に、インドネシア人学生がドイツでFerienjobに参加するケースがあるが、このような事例はFerienjobの規定に反する」などという声明を公表しました。

また、インドネシア教育・文化・研究・技術省(Kemendikbudristek)は各大学に対し、学生のFerienjobへの参加を控えさせるよう訴えています。インドネシア教育文化省もまた、FerienjobはMBKM活動の基準を満たしておらず、学生の権利を侵害する事例が多いため注意が必要である点を指摘しています。

インドネシア政府は、海外にいるインドネシア国民の保護に尽力しており、Ferienjobでアルバイトをしている在独インドネシア人学生に対し、問題や災害が発生した場合、以下のホットラインおよびEメールを通じて、各所に自ら報告・連絡するよう強く呼びかけています。

  • 在ベルリン・インドネシア大使館:+49 15257526930/consular@indonesian-embassy.de
  • 在フランクフルト総領事館:+49 1624129044/konsulerfrankfurt@indonesia-frankfurt.de
  • 在ハンブルク総領事館 : +49 15119456839/info@kjrihamburg.de

日本人の場合は、以下の連絡先へ相談するようにしましょう。

  • 在ドイツ日本国大使館:+49 30210940/ japanese-info@bo.mofa.go.jp
  • 在デュッセルドルフ日本国総領事館:+49 211164820/ konsul@ds.mofa.go.jp.
  • 在ハンブルク日本国総領事館:+49 403330170/ hh-konsulat@hb.mofa.go.jp
  • 在フランクフルト日本国総領事館:+49 692385730/ zentrale@fu.mofa.go.jp.
  • 在ミュンヘン日本国総領事館:+49 894176040/ sicherheit@mu.mofa.go.jp

労働時間、賃金など、労働法に関する一般的な情報は、ドイツ労働社会省のヘルプラインからも入手できます。

  • ドイツ労働社会省のヘルプライン:+49 30221911004

近年、インドネシアやドイツだけではなく、国を問わず日本から海外の大学や大学院へ留学する学生が増加しています。学校の休暇期間や空いた時間を有効活用しようとする意識は非常に良いものですが、学生さんには、参加する活動を徹底的に調査し、このような詐欺の被害に遭わないために必要な知識を是非身につけてほしいものです。

弊社インドネシア総合研究所も、ジャカルタ現地にオフィスがありますので、何かお困りの際はお気軽にご相談ください。これからインドネシアやその他の国へ行かれる学生さんや、既に海外で学んでいる学生さん、またはその保護者の方は、何事にも用心深く、事前によく調べて、学生の立場につけ込む個人や組織の餌食にならないよう十分にご注意ください。

また、ドイツだけでなく、日本へ渡航するインドネシア人も近年増加しております。インドネシアで学校を設立し日本へ送り出す事業について、弊社でも多くお問合せを頂いておりますが、上述の通り近年ンドネシアにおける人身売買に対する取り締まりが厳しくなっていることから、日本への送り出しについても、必要な許認可やプロセスを確認しておかないと、法に触れてしまう可能性も十分ございます。

インドネシアは規制が分かりづらく、変更も多いので、専門家へ確認しながらビジネスを行うことをお勧めします。

関連コラム

ご相談やご不明な点がございましたら、弊社インドネシア総合研究所へいつでもお問い合わせくださいませ。

参考:
https://www.kompas.com/tren/read/2024/03/25/093000465/ribuan-mahasiswa-jadi-korban-eksploitasi-kerja-berkedok-magang-kampus-bisa?page=1
https://indonesianembassy.de/news/ferienjob-kerja-paruh-waktu-dalam-masa-libur-ferienjob-bukan-kerja-magang-ferienjob-adalah-bagian-dari-job-market

関連コラム

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

記事のシェアはこちらから
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次