【アルビー日記】インドネシア無償給食プログラム(MBG)の最新の取り組み状況

こんにちは。インドネシア総研代表のアルビーです。
インドネシアでは昨年10月にプラボウォ大統領が就任し、目玉政策である無償給食プログラム(MBG)は国内外からも注目を集めています。


この無償給食プログラムはインドネシアでは「Makan Bergizi Gratis」、略してMBGと呼ばれています。本コラムでは以下MBGと記載します。
無償給食プログラムの目的
プラボウォがこのMBGにおいて目指す目標としては、独立100周年となる2045年までにインドネシアを優秀な人材(HR)を備えた先進国にすることを目指す「ゴールド・インドネシア2045(Indonesia Emas 2045)」のビジョンと密接に関連しています。
Indonesia Emas 2045についてはこちらをご覧ください。

MBGでは、学校に通う児童や妊婦に栄養価の高い食品を無料で提供することで、インドネシアで依然として深刻な問題となっている栄養失調と発育阻害率の削減を目指しています。また、インドネシアは2041年まで人口増加が続き、人口の大半が生産年齢人口になると予測されていますが、この MBGを通じて若い世代が健康で賢く成長し、経済成長のための人口ボーナスを活用できるようにする役割を果たしています。
研究によれば、栄養への投資により国の国内総生産(GDP)が年間2~3パーセント増加する可能性があるそうです。 MBGは良好な栄養摂取を提供することで、インドネシアの生産性と経済成長の向上につながると期待されています。
その他、食料安全保障と地域経済の強化の側面もあり、MBGでは、農家、協同組合、中小企業が食材の提供に参加し、国の食糧安全保障と地域経済の強化、そして雇用増出を支援します。
運営に関連する組織と体制
MBGを管轄するのは、2024年に正式に設立された国家栄養庁(Badan Gizi Nasional、『BGN』)です。国家栄養庁は、MBGが効率的に全国規模で実施されるように設立されました。
MBGに参画するためには、運営母体は財団(インドネシア語で『Yayasan』)である必要があります。しかし、実際には給食提供するための厨房の運営のノウハウやスキルがない財団が多いため、財団は外部パートナーとの提携が認められています。現在、1つの財団はSPPG(=Satuan Pelayanan Pemenuhan Gizi)と呼ばれる栄養充足サービスユニットとの提携が10件まで可能となっております。
MBGにおいて、実際に日々の給食の準備をするのがこのSPPGであり、SPPG は栄養価の高い食事を用意し、MBG の受益者に配布する公共キッチンとして機能します。
このMBGに関連する団体/組織などを以下に整理します。
組織など | 役割 |
国家栄養庁/BGN (Badan Gizi Nasional) | このプロジェクトの統括を行い、資金分配、監督などを行う。 |
地方政府 | 地域レベルでの運用計画の実行 |
財団/Yayasan (Registered Foundations) | 現場での食品の調理、調達、供給の実行 (但し多くの財団は実行が難しいので外部パートナーと提携) |
栄養充足サービスユニット/SPPG (Satuan Pelayanan Pemenuhan Gizi) | 給食を作り学校や診療所などで提供する |
協同組合など | 農家が地元の食材を供給し、食糧システムの持続可能性を高める |
TNI (インドネシア国軍) | 特に遠隔地での物流や食事の配給などを支援する。遠隔地の施設などを活用。 |
財団は、国家栄養庁に登録し、認可を得たところのみがこのMBGに参画することができます。実際には、軍、官僚など政治的な枠があるため必ずしもこのプログラムに登録できるわけではないのが現状です。
財団は、国家栄養庁 とのパートナーシップスキームに基づいて運営され、給食の配布と管理をサポートします。彼らは請負業者ではなく、登録パートナーという位置けとなります。
すべての財団は、国家栄養庁公式サイト (https://mitra.bgn.go.id) を通じて登録する必要があります。承認されると、財団はプログラム実施ユニットとして活動し、国家栄養庁 から資金を受け取ることが許可されます。
財団の役割と責任としては、栄養価の高い食事の調達と準備の管理や、学校、コミュニティ センターなどへの食事の配布や調整となります。
また、財団は財務および運用パフォーマンスに関するレポートを 国家栄養庁に提出する必要があります。 国家栄養庁はすべての資金の流れを監視し、不正があった場合には介入することができるのです。
先日、インドネシアのジャカルタ南部カリバタ地区で、SPPGが財団を相手取り、約9億7573万ルピアを不正受給していると警察に報告するという事件がありました。このSPPGは約65,025食分の給食を提供しましたが、その費用が財団から支払われていないと述べています。この問題はMBGの運営体制やパートナーシップの在り方に対する信頼性を問う重要なケースとなっており、この事件のあと国家栄養庁は監視プロセスを強化しています。
その他、財団はランダム監査に同意し、評価会議に参加する必要があります。
予算について
このMBGは、今年度は約71兆ルピアの予算が割り当てられていましたが、今年9月からは更に100兆ルピアが追加割当され、合計171兆ルピアとなる予定です。今年4月29日までには、2兆3800億ルピアの予算が執行されました。
現在この予算の中でインドネシア国内の326万5000人の対象者が給食プロジェクトの恩恵を受けています。内訳は以下の通りです。
- 就学前の児童:178,679人
- 小学生:1,400,000人
- 中学生:935,014人
- 高校生:691,857人
- イスラム寄宿学校の生徒:16,393人
- 特別支援学校の生徒:6,276人
- 乳幼児:12,004人
- 産婦:4,645人
- 地域学習センター(PKBM)の学習者:1,125人
- 神学校の生徒:352人
これらの対象者は、インドネシア全国に設置された1,102(2025年4月時点)のSPPGを通じて給食が提供されています。
給食事業者の不足と今後の課題
上述の通り、現在インドネシアに設置されているSPPGの数は、2025年4月時点で1,102にとどまっており、今後給食をつくるSPPGの増設と整備は急務とされています。
現在インドネシアには、2400万人程度の小学生がおり、この小学生を賄うためには、約35,000のSPPGが必要とされています。一つの厨房で、生徒3,000~6,000人程度をまかなうことができます。
現在SPPGの数はまだ1,102と最終的に必要な35,000からは程遠く、今後このMBGプロジェクトを普及させるためにはSPPGの数の拡大が急務であることが分かります。
SPPG設立のためには、現時点でのおおよその目安として2000-3500万円程度の投資が必要となってきます。これは、すでにある物件をリノベーションするのか、新たに建設するのか、などによっても費用が大きく変わってきます。またこの投資費用は、内装に加え、政治的な費用も含めたものになります。
現在、給食一食当たりのコストは10,000ルピア程度で、一食当たりの利益は1,000ルピア程度と想定されています。この利益については、財団とSPPG側で分けることになります。
一食当たりの利益を1,000ルピア程度=10円と仮定すると、以下のような計算となります。
(一食当たりの利益)10円×(学生数)3,000人×22日=660,000円
仮に初期投資費用を3,000万円とした場合、
3,000万円÷66万円=45.45か月、つまり、投資回収までの期間は約45か月(約4年弱)となります。
まとめ
MBGの成功には、SPPGの更なる拡充、財団の透明性、地方との連携が鍵となってきます。同時に、民間投資家との協力によるインフラ整備も求められています。
弊社はインドネシア政府とのネットワークもあり、インドネシア大統領補佐官機関との定期的なミーティングを行っております。
先日のインドネシア大統領補佐官機関との会議においては、MBGが日本の技術や取り組みから何か学ぶことはできないか、という意見が先方から挙がりました。今後も引き続き、MBGについて大統領補佐官機関や国家栄養庁を意見交換をしてまいります。
インドネシアのMBG、SPPG事業への参画にご興味のある方は、弊社までぜひお気軽にお問合せください。


