【コラム】インドネシアの福利厚生や従業員手当の事情
インドネシアには、日本と異なる雇用上のルールがあります。インドネシアで事業を行う際や、新しくインドネシア人社員を雇う場合にはインドネシアの雇用文化への理解が大切です。
今回のコラムでは特に、日本と異なるインドネシアの福利厚生や手当の内容についてご紹介いたします。
宗教に関するインドネシアの福利厚生
敬虔な信者が多いインドネシアでは、宗教に関する権利は非常に尊重されています。こちらには代表的な宗教に関する労務規則を以下にご紹介いたします。
祈祷への配慮
インドネシア労働法では、労働者に祈祷、及び神への崇拝の機会を十分に与えることが義務付けられており、お祈りや宗教行為のために会社での勤務が出来ない場合でも賃金の支払いを保証し、また宗教上の理由による欠勤が理由での解雇や、信仰の違いを理由とする解雇も禁止されています。
宗教大祭手当(THR: Tunjangan Hari Raya)
インドネシアの労働法と労働大臣規定では、宗教大祭手当(THR: Tunjangan Hari Raya)の支給が義務付けられています。宗教大祭手当とは、各々の宗教の祭日に合わせて、「固定給」の1か月分を支給するものであり、勤続期間1か月以上の従業員が対象です。支給のタイミングについては、大祭日の7日前までの支給が義務化されていますが、労働省は大祭の14日前までの支給を求めています。
https://www.jbic.go.jp/ja/information/investment/image/inv_indonesia34.pdf
イスラム教徒の人からはレバラン・ボーナスとも呼ばれるこの宗教大祭手当ですが、各従業員の宗教に合わせて支給する必要があります。したがって、イスラム教徒の社員にはレバランと呼ばれる断食明けの祝祭日(Idul Fitri)に、ヒンドゥー教徒の社員であればニュピ(Nyepi)に、キリスト教徒の社員であればクリスマス(Natal)に、仏教徒の社員であればワイサック(Waisak)に、というふうに、同じ会社の従業員であっても宗教が違えば支給のタイミングが異なるため、注意が必要です。
労働時間に関するインドネシアの決まり
時間に寛容なイメージのあるインドネシア人ですが、労働時間については法律で厳しく決まっています。こちらでは労働時間に関する規定をご紹介します。
労働時間の限度
インドネシア労働法では、労働時間は週40時間以内である必要があると定められています。週5日勤務の場合は1日あたり8時間、週6日勤務の場合は1日あたり7時間が限度となります。
残業の限度と残業手当の支払い
残業は、労働者の同意があれば1日4時間まで、かつ累計で週18時間を上限として認められます。休日及び祝日には、残業時間の上限は適応されません。残業代については、月給を173で割った値を1時間当たりの「基礎賃金」とし、以下の表のように割増して支払う必要があります。
対象 | 超過時間 | 手当額 (基礎賃金に対する倍率) | |
---|---|---|---|
残業 | 全労働者 | ~1時間 | 1.5倍 |
2時間目~ | 2倍 | ||
休日・祝日出勤 | 週5日勤務者 | ~8時間 | 2倍 |
9時間目 | 3倍 | ||
10~11時間目 | 4倍 | ||
週6日勤務者(休日) | ~7時間 | 2倍 | |
8時間目 | 3倍 | ||
9~10時間目 | 4倍 | ||
週6日勤務者(祝日) | ~5時間 | 2倍 | |
6時間目 | 3倍 | ||
7~8時間目 | 4倍 |
を基に弊社作成
その他の決まり
その他にも、インドネシアには日本と異なる決まりが多数ございます。多くの雇用主や従業員に関係するものを中心に、こちらでご紹介いたします。
長時間残業時の食事の提供
インドネシアの政府規則2021年35号29条では、1日あたりの残業時間が4時間以上となる場合に、雇用主は労働者に1400キロカロリー以上の食事と飲み物を提供することが義務づけられています。
インドネシア語での書類の提供
インドネシア労働法では、労働協約や就業規則などの文書をインドネシア語で作成することが義務付けられています。インドネシア法人であれば、仮に業務がすべて日本語で行われる場合であっても契約書類はインドネシア語で作成する必要があります。また、2種類以上の言語で作成された書類の場合、インドネシア語が優先されます。
退職手当の支払い
インドネシアの労働法では、4種類の退職金(退職手当、勤続慰労金、権利損失補償金、解雇金)の支払いについても義務づけられています。退職手当と勤続慰労金については、基本給と固定手当を合わせた金額を賃金とし、勤続年数や解雇理由にしたがって計算された金額以上を支払う必要があります。
勤続年数 | 退職手当の額 (基礎賃金に対する倍率) |
---|---|
~1年 | 1ヶ月分 |
1年~2年未満 | 2ヶ月分 |
2年~3年未満 | 3ヶ月分 |
3年~4年未満 | 4ヶ月分 |
4年~5年未満 | 5ヶ月分 |
5年~6年未満 | 6ヶ月分 |
6年~7年未満 | 7ヶ月分 |
7年~8年未満 | 8ヶ月分 |
8年~ | 9ヶ月分 |
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/hr-data/jp/about-labor/indonesia/#a-2
を基に弊社作成
勤続年数 | 勤続慰労金の額 (基礎賃金に対する倍率) |
---|---|
3年~6年未満 | 2ヶ月分 |
6年~9年未満 | 3ヶ月分 |
9年~12年未満 | 4ヶ月分 |
12年~15年未満 | 5ヶ月分 |
15年~18年未満 | 6ヶ月分 |
18年~21年未満 | 7ヶ月分 |
21年~24年未満 | 8ヶ月分 |
24年~ | 10ヶ月分 |
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/hr-data/jp/about-labor/indonesia/#a-2
を基に弊社作成
退職理由 | 計算式 |
---|---|
• 死亡 • 労災による長期の病気や障害 | 2x 計算式 • 2×雇用終了手当 • 1x勤続功労金 • 1×権利補償金 |
退職 | 1.75x 計算式 • 1.75x雇用終了手当 • 1x勤続功労金 • 1x権利補償金 |
• 合併、統合、会社分割 • 買収 (雇用者による雇用終了) • 損失防止策 • 会社の損失によるものではない会社閉鎖 • 会社の損失によるものでなく、会社が支払停止中 の場合(penundaan kewajiban pembayaran utangまたは 「PKPU」) • 雇用主による違反行為に伴う従業員の自発的辞職 | 1x計算式 • 1x雇用終了手当 • 1x 勤続功労 • 1x権利補償金 |
会社の閉鎖を招かない不可抗力事由 | 0.75x計算式 • 0.75x雇用終了手当 • 1x 勤続功労金 • 1x権利補償金 |
• 買収の結果、雇用条件が変更されたことで、従業 員が雇用関係の継続を望まない場合 • 会社の損失による雇用終了 • 2年間連続/非連続の損失による会社の閉鎖 • 不可抗力による会社の閉鎖 • 会社の損失により、会社が支払停止中の場合 (penundaan kewajiban pembayaran utang 「PKPU」) • 会社の破産 • 従業員による雇用契約、会社規則、または労働協 約への違反行為(警告書が出された後) | 0.5x計算式 • 0.5x雇用終了手当 • 1x 勤続功労金 • 1x権利補償金 |
• 雇用主に対する従業員の主張(従業員が自発的な 辞職のために利用する)は証明されていないとする 裁判所の判決 • 従業員の自発的辞職 • 雇用主から2度の忠告にも拘らず、従業員が休暇 申請なしで連続5営業日以上欠勤 • 緊急の理由 | 権利補償金+退職手当 (Separation Pay)* *退職手当の額は、雇用 契約、規則または労働協 約に定められなければな らない。 |
今回のコラムでは、インドネシアの福利厚生や各種手当についてご紹介いたしました。
弊社インドネシア総合研究所はインドネシアと日本の両方に拠点があり、日々最新の情報を収集しております。インドネシア人を雇用されている企業様、インドネシア進出を検討なさっている企業様向けに、各種研修やセミナーなども行っております。インドネシア進出にご興味あれば、ぜひお気軽にご相談ください。