インドネシアのレジ袋事情-「レジ袋が消えた」社会の裏側

こんにちは、インドネシア総合研究所代表のアルビーです。今日はインドネシアのレジ袋事情についてお話したいと思います。

久しぶりに観光やビジネスでインドネシアを訪れた方の中には、コンビニで飲み物やお菓子を購入した際に、レジ袋が提供されずに商品がそのまま手渡されて戸惑った経験をした方もいらっしゃるのではないでしょうか。この「レジ袋がもらえない」という体験の裏には、インドネシアが国を挙げて取り組む、深刻な環境問題とそれに対する挑戦があります。今回のアルビー日記では、インドネシア社会におけるレジ袋の位置づけから、なぜこのような規制が導入されるに至ったのか、その背景と現状を深掘りしてみたいと思います。

目次

日常に深く根付いた「インフラ」としてのレジ袋

インドネシアにおいて、ポリエチレン製のレジ袋は単なる便利な消費財ではなく、国民の日常生活に不可欠な「インフラ」として深く根付いています。その消費量は驚異的で、2015年の報道では、国民一人当たり年間約700枚と推定されていました。これは日本の約2.8倍、EU平均の4倍以上に相当する数値です。

消費者にとっては「無料で提供される」ことが当然と見なされており、たとえ小さな商品を一つ購入しただけでもレジ袋が提供される光景は一般的です。特に、魚や肉、野菜といった水気のある生鮮食品が日常的に売買される伝統市場(パサール)では、レジ袋は商品を運ぶためだけでなく、衛生的で安価な一次包装材としての重要な役割を担っています。このように、レジ袋はインドネシアの小売・消費文化に深く組み込まれており、その存在をなくすことは、単に不便になる以上の大きな影響を社会に与えることを意味します。

大量消費が招いたプラスチック危機と不名誉な過去

この驚異的な消費量がもたらした結果はとても深刻です。同じく2015年に科学誌「Science」に掲載されたジョージア大学のジェナ・ジャムベック准教授らの論文の中で、インドネシアは中国に次ぐ世界第2位の海洋プラスチック汚染国という不名誉な地位にありました。国全体で毎年およそ100億枚、重量にして85,000トンものレジ袋が、適切に処理されることなく環境中に放出されていると推定されているのです。

この問題の背景には、急速な経済成長に伴うプラスチック消費の急増に、廃棄物管理インフラの整備が全く追いついていないという構造的な欠陥が存在します。ジャカルタ首都圏のゴミ処理を支えてきた国内最大のバンタルグバン最終処分場は収容能力の限界に近づいており、国内のリサイクル率はわずか10%程度と極めて低い水準にとどまっています。

さらに深刻なのは、西ジャワ州のチタルム川が「世界でも最も汚染された河川」の一つとしてその名が挙げられ、国内の他の河川も同様にして、プラスチックごみを海へと運ぶ「高速道路」と化している実態です。

国と地方のねじれ:ジャカルタやバリが先行する「禁止令」

こうした危機的状況に対し、インドネシア政府も手をこまねいているわけではありません。国家レベルでは「2025年までに海洋プラスチックごみを70%削減する」という非常に野心的な目標を掲げています。しかし、その実現に向けた全国規模でのプラスチック製品への物品税導入計画は、産業界からの猛烈な反対に遭い、事実上頓挫しているのが現状です。

この「国の政策」が停滞する中、状況を打開しようと立ち上がったのが、主要な地方自治体でした。ジャカルタ首都特別州では2020年7月から、州内のショッピングセンター、スーパーマーケット、伝統市場において使い捨てレジ袋の提供が全面的に禁止されました。

また、世界的な観光地であるバリ州は、プラスチック汚染が観光業のイメージを損なうという強い危機感と、若者たちが始めた「Bye Bye Plastic Bags」という強力な市民運動を背景に、ジャカルタに先駆けて2019年からレジ袋やストローなどの使用を禁止しています。このバリ州の規制に対しては、業界団体から訴訟が起こされましたが、最高裁判所は「地方自治体がプラスチック禁止令を制定する権限を認める」という画期的な判断を下し、他の自治体が追随する上での強力な法的根拠となりました。

規制の光と影:近代的小売店と伝統市場の「二極化」

では、これらの地方主導の禁止令は効果を上げているのでしょうか。答えは、イエスでもありノーでもあります。ジャカルタの事例では、禁止令の導入後、家庭レベルでのレジ袋使用量が42%減少したと報告されており、大きな成果を上げています。しかし、その効果は一様ではありません。近代的なスーパーマーケットやショッピングセンターでは遵守率がほぼ100%に近いのに対し、広大な伝統市場では50%程度にとどまるという「規制の二極化」現象が明確に見て取れます。これは、規制の執行が隅々まで行き届いていないことに加え、伝統市場の小規模事業者や消費者にとって、高価な代替品を用意することが経済的に困難であるという、インドネシア社会の構造的課題を浮き彫りにしています。経済格差が、そのまま環境政策の効果の格差として現れているのです。

インドネシアのレジ袋問題は、単なる環境問題ではなく、国の経済構造、国民の生活文化、そして中央と地方の政策のねじれが複雑に絡み合った、根深い課題であることが見えてくると思います。観光や出張で訪れた際にレジ袋がもらえない不便さは、この国が巨大な社会課題と向き合う中で経験している「成長痛」の一つなのかもしれません。

弊社インドネシア総合研究所では、こうした複雑に変化するインドネシアの規制や各地方自治体の条例に関する最新動向の調査も行っています。是非お気軽にお問い合わせください。

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