インドネシア、西ヌサ・トゥンガラ州との提携が始動——ロンボク島から広がる人材・投資・教育の新たな可能性

インドネシア総合研究所はこのたび、インドネシアの西ヌサ・トゥンガラ州(以下、NTB)の知事および同州労働・移住局長との会議をロンボク島にて実施しました。本コラムでは、2026年4月にマタラムの知事執務室で行われたこの会議の内容をもとに、ロンボク島を中心とする西ヌサ・トゥンガラ州の現状と課題、そして日本との連携可能性についてお伝えします。インドネシアと日本の間に新たなパートナーシップが生まれようとしています。
ロンボク島とはどんな場所か

西ヌサ・トゥンガラ州(Nusa Tenggara Barat/NTBに属するロンボク島は、バリ島の東に位置し、州都マタラムを含む1つの市と4つの県で構成されています。ジャカルタからは空路で約2時間、バリからはわずか30〜40分ほどのフライトで到着でき、アクセスは非常にスムーズです。
人口は約411万人(2025年時点)で、その多くは先住民族のササク族です。島内ではササク語が日常的に話されており、独自の文化が根付いています。ヒンドゥー文化の色濃いバリ島とは対照的に、ロンボクはイスラム教徒が多数を占めており、島中に点在する美しいモスクの景観から「千のモスクの島」とも呼ばれています。
自然の豊かさも魅力のひとつです。インドネシアで3番目に高い標高を誇るリンジャニ山や、リゾート地として世界的に有名なギリ3島は多くの観光客を惹きつけています。また、ロンボクはアヤム・タリワン(Ayam Taliwang)やプレチン・カンクン(Plecing Kangkung)といった個性豊かな辛い料理でも知られており、食文化の面でも訪問者を楽しませてくれます。
産業面では、伝統的な農業・漁業を基盤としながら、現在は「観光」を軸とした産業構造の転換が進んでいます。農業では米を主食作物とするほか、トウモロコシ、タバコ、カシューナッツ、コーヒー豆の栽培が盛んです。水産業では真珠の養殖が世界的に知られています。さらに、南部のマンダリカエリアに国際サーキットが開発されたことで、ロンボクは世界的な観光拠点へと変貌を遂げつつあります。
西ヌサ・トゥンガラ州が抱える課題——格差と人材不足
発展が進む一方で、西ヌサ・トゥンガラ州にはいくつかの構造的な課題が存在します。
最大の課題は、観光開発の恩恵が地元住民に十分に届いていないという格差の問題です。西ヌサ・トゥンガラ州の貧困率は約11%(2025年時点)であり、全国平均の約8%を大きく上回っています。特に農村部では収入の機会が限られており、雇用創出が急務となっています。
また、若年層の雇用機会の不足や、観光業・海外就労に向けた言語・スキル教育の遅れといったミスマッチも深刻な問題です。インドネシア全体で人材の海外送り出しが拡大するなか、西ヌサ・トゥンガラ州においても人材育成の基盤整備が課題となっています。こうした背景のもと、今回の会議では日本との連携を通じた具体的な解決策が議論されました。
会議の概要——イクバル知事との協議で見えた現状

2026年4月、弊社インドネシア総合研究所のスタッフは西ヌサ・トゥンガラ州知事イクバル氏の執務室を訪問し、職業訓練・語学教育・日本とのビジネスパートナーシップ、および職業訓練機関(LPK)間の連携について率直な意見交換を行いました。この会議の様子はTribun LombokやDuta Selaparangをはじめとする現地メディアにも報じられ、広く注目を集めました。
https://lombok.tribunnews.com/ntb/104079/terima-audiensi-irij-gubernur-ntb-tawarkan-skema-pembiayaan-pmi-lewat-bank-ntb-syariah
https://duta-selaparang.com/audiensi-irij-pemprov-ntb-tawarkan-kerjasama/
会議において知事は、移住労働者(PMI:Pekerja Migran Indonesia)へのアプローチが「国際的義務」に基づくものであると強調しました。「私たち西ヌサ・トゥンガラ州では今、国際的義務という観点から、労働者だけでなく家族を含む市民全体への保護を、派遣前・派遣中・派遣後のすべての段階において提供することを基本としています」という知事の言葉が印象的でした。単なる労働力の送り出しにとどまらず、人材の生活と将来を守る仕組みを設計しているという姿勢が明確に伝わりました。
会議で明らかになった重要な点のひとつが、インドネシアから日本への移住労働者の送り出し目標です。西ヌサ・トゥンガラ州は今年、2,000名の労働者を日本へ送り出すという目標を課されています。インドネシア政府が国策として人材の海外送り出しを推進するなか、同州においてもその受け皿づくりが急ピッチで進められています。
ところが、目標達成に向けた最大の障壁として浮かび上がったのが、日本語教師の圧倒的な不足です。現在、西ヌサ・トゥンガラ州には日本語教師がわずか3名しか在籍していません。2,000名という送り出し目標に対して、教育インフラが追いついていない現実が明確になりました。労働・移住局長は、この課題に対する短期的解決策として民間からのインストラクター支援の必要性を訴え、日本語教師・トレーナー向けのスキルアップ研修プログラムの策定について、知事からも正式な許可が与えられました。
「ゼロコスト」送り出しの仕組み——Bank NTB SyariahのKUR PMIスキーム
今回の会議で特に注目を集めたのが、インドネシア独自の「ゼロコスト送り出し」という発想です。知事は現地銀行Bank NTB Syariahとともに設計したプログラムについて次のように説明しました。「そのアプローチは『ゼロコストで海外へ』というものです。派遣前の費用を前払いし、採用企業がBank NTB Syariahへ返済する仕組みで、近いうちにマレーシアとの間でまず適用が開始される予定です。」
従来、インドネシアから日本・マレーシア・韓国などへ渡航する労働者は、渡航費・研修費・各種手続き費用を自己負担するケースが一般的でした。経済的な事情から夢を諦めざるを得ない若者も多く存在していました。このゼロコスト・スキームは、そうした経済的ハードルを取り除くための画期的な取り組みといえます。
Bank NTB Syariah(西ヌサ・トゥンガラ州のイスラム系地方銀行)は、イスラム金融の原則に基づく統合型KUR PMI(Kredit Usaha Rakyat untuk Pekerja Migran Indonesia:移住労働者向け小口人民融資)スキームを通じて、インドネシア移住労働者候補(CPMI)向けの特別資金調達を提供しています。同行が今回配分を見込む金額は約100億ルピア(日本円にして約1億円程度)にのぼります。
さらに特筆すべきは、このスキームが単なる「借金」に終わらない設計になっている点です。海外で働く労働者は、就労先の国と出身地域の双方でBank NTB Syariahを通じてアクセスできる専用口座を持つことができます。契約期間中に貯蓄し、帰国後は西ヌサ・トゥンガラ州内でビジネス投資を選択できる仕組みになっています。知事は「日本・韓国への派遣においても、銀行間の協力によりこのスキームを適用し、労働者の保護と利便性を確保したい」と強調しました。
また、日本で就労する参加者向けに、立替金の返済スキームおよび回収メカニズムの詳細検討も、知事の許可のもとで進められることになっています。今後は教育局長との別途ミーティングを通じて、教師の予算配分、実施の技術的詳細、プログラムのタイムライン、代表者の選定についての協議が続けられる予定です。
なお、プログラム設計においては教育段階に応じた区分も設けられており、職業高校(SMK)卒業生は就労の場に直接送り出す一方、普通高校(SMA)の生徒は大学進学または就労へと方向付ける方針が示されています。
現在弊社は、インドネシア国内で10校の職業訓練機関(LPK)を運営しており、複数の大学との連携を通じて語学訓練・スキル育成に取り組んでいます。設立以降、語学・スキル訓練を経て日本の職場へ送り出した人材はすでに300名に達しており、バンドンの大学とはエンジニアリング訓練および日本語教育を組み合わせた、日本の建設会社への就労を目指すプログラムも実施してきました。西ヌサ・トゥンガラ州においては、語学・スキル訓練を担う機関の指定と、日本のさまざまな分野の企業とのビジネスパートナーシップ構築を目指した連携をさらに深めていく予定です。
日本の投資家へのビジネスチャンス——カリアンドラのペレット加工
会議内では、人材送り出し・教育支援に加えて、インドネシア・ロンボクへの日本からの投資機会についても言及がありました。注目されているのが、カリアンドラ(Kaliandra Merah:紅葉アカシア)由来のペレット加工事業への投資機会です。カリアンドラは発熱量が高い植物として知られており、バイオマス燃料としての活用が期待されています。日本では再生可能エネルギーへの需要が高まっており、バイオマス発電の燃料として輸入ニーズが存在することから、日本の投資家にとって検討に値するビジネスチャンスといえるでしょう。
インドネシア人材と日本をつなぐ意義——なぜ今、西ヌサ・トゥンガラ州なのか
インドネシアは現在、東南アジア最大の人口を抱え、若年層を中心とした豊富な労働力を持つ国です。一方、日本では少子高齢化による深刻な労働力不足が続いており、特定技能制度をはじめとする外国人労働者の受け入れ拡大が急速に進んでいます。
こうした日本とインドネシアの相互補完的な関係において、西ヌサ・トゥンガラ州、そしてロンボク島は新たな重要拠点として注目を集めています。農業・漁業を基盤とした勤労文化と、観光業を通じて育まれたホスピタリティ精神は、日本の介護・農業・製造業・サービス業といった分野で必要とされる人材像と高い親和性があると考えられます。
さらに今回の会議が示したように、西ヌサ・トゥンガラ州は単なる労働力の供給地にとどまらず、行政・銀行・訓練機関が一体となった組織的な人材育成・送り出し体制の構築に本格的に取り組んでいます。日本語教育の強化、ゼロコスト送り出しスキームの整備、スキルアップ研修の導入といった取り組みが有機的に組み合わさることで、より質の高いインドネシア人材が継続的に日本へ送り出される仕組みが生まれることを期待しています。
弊社の役割と今後の展開

弊社インドネシア総合研究所は、インドネシアと日本を結ぶ架け橋として、今回の西ヌサ・トゥンガラ州との連携深化に積極的に関わっていきます。具体的には、日本語教師・トレーナー向けのスキルアップ研修プログラムの設計・実施支援、KUR PMIをはじめとする資金調達スキームの活用支援、日本の受け入れ企業とのマッチング支援、そして投資機会の情報提供と橋渡しといった役割を担っていく予定です。
インドネシア、西ヌサ・トゥンガラ州との取り組みは、まだ始まったばかりです。しかし今回の会議を通じて、行政・金融・教育・産業のそれぞれの領域で具体的な協力の芽が育ちつつあることを実感しています。インドネシアへの進出・投資、または人材採用をご検討の日本企業・個人の皆さまにとって、本コラムが少しでもお役に立てれば幸いです。引き続き、インドネシア総合研究所では現地の最新情報をお届けしてまいります。ご関心のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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