インドネシア刑事訴訟法(KUHAP)改正が企業に与える影響―2026年施行の新制度に向けたビジネス・法務対応とは

記事の主要ポイント

2025年11月18日にインドネシア政府が承認した改正刑事訴訟法(KUHAP)は、2026年施行の新刑法と連動し、インドネシアに進出する外国企業・日本企業のビジネス環境に大きな影響をもたらします。これにより、環境・税務・労務・データ保護といった分野で行政違反が刑事責任へと転化するリスクが高まります。

インドネシアで事業を行う企業は、電子データ管理・内部統制・コンプライアンス体制の整備が法的保護の前提条件となるため、投資前のリーガルデューデリジェンス、契約書への保護条項挿入、信頼できるローカルパートナーの確保など、早急な法務対応が求められます。

2025年11月18日、インドネシア政府は改正刑事訴訟法(以下KUHAP)を承認しました。本改正は、刑事捜査から裁判に至るまでの手続全体を見直す大きな制度改革であり、2026年1月に施行されました。一見するとこの法改正は企業活動とはあまり関係のない領域に見えますが、今回の改正は、投資判断、コンプライアンス、ガバナンス、外国企業の事業運営にまで影響が及ぶことが想定されます。

本コラムでは、改正されるKUHAPがビジネス環境にもたらす変化、インドネシアに進出する企業が知るべき新たな法的リスク、そして取るべき対策についてわかりやすく整理します。

目次

KUHAP改正はなぜビジネスに影響するのか

ここで重要なのは、「刑事訴訟法=犯罪者だけが関係する法律」という理解が、もはや現実に即していないという点です。近年のインドネシアでは、環境、税務、許認可、労務、データ管理といった分野で、行政違反と刑事責任の境界が曖昧になりつつあります。KUHAP改正は、こうした流れを制度面から後押しする側面を持っています。

刑事訴訟法は「刑事事件の手続」を定める法律であり、ビジネスに関する規制ではありませんが、実はこの枠組みの変化は以下のような項目で企業活動と無縁ではなくなります。

  • ビジネス紛争解決
  • 捜査官の権限(没収、捜索、召喚状)
  • 企業の刑事処分と取締役の責任
  • ライセンス、税務、環境、デジタルデータといった分野横断的な法的和解

捜査および法執行手続きの変更により、以前は行政上または民事上の性質であったビジネス紛争が刑事訴訟の領域に進出する可能性があり、企業にとって風評、事業運営、財務上のリスクとなります。

改正KUHAPの主要ポイント:企業は何に備えるべきか

改正KUHAPの特徴は、「捜査権限の拡大」と「手続の形式化・証拠化」が同時に進む点にあります。
これは、恣意的な捜査を抑制する方向性を含む一方で、企業側が“説明できない状態”に置かれるリスクを高めることも意味します。

捜査権限の拡大

特に企業にとって注意が必要なのは、デジタルデータが初動捜査段階から対象となる点です。メール、チャット、会計システム、クラウド上のデータなどは、もはや「内部資料」ではなく、「法的証拠」として扱われる前提に変わりつつあります。

改正により、捜査機関は次のような措置をより早い段階で実施できるようになります。

  • 捜索・押収
  • 一時的なデータ保全
  • 拘束
  • 電子データの取得

これは不正防止や権利保護の観点で前向きに捉えられる一方、企業側にとっては、書類の不備や内部統制の甘さがそのままリスクとなるため、注意が必要です。

修復的司法(Restorative Justice)の導入とその課題

修復的司法は、理念としては被害回復と社会的和解を重視する制度ですが、企業実務の観点では「交渉力の非対称性」が問題になりやすい制度でもあります。
特に外資系企業や日本企業の場合、制度理解の不足が「不利な合意」につながるリスクを否定できません。加害者・被害者・関係者が対話によって紛争解決を図る修復的司法は、企業にとって次のメリットがあります。

  • 裁判を経ず解決できる可能性
  • 時間・コストが削減される

しかし一方で、

  • 不透明な交渉
  • 圧力による合意形成
  • 企業が「合意を強いられる」構造

といった懸念が存在し、法務部門や外部弁護士によるプロフェッショナルな対応が欠かせません。

複数省庁の規制が重なり、解釈のズレが生じやすい

インドネシア法制度の特徴として、複数の省庁が並行して監督権限を持つ構造があります。
KUHAP改正は、こうした縦割り構造のなかで刑事手続を横断的に適用する可能性を広げるため、企業側には「どの当局の判断が最終的に優先されるのか」を常に意識した対応が求められます。

新KUHAPは単独の法律として機能するわけではなく、以下の法律と重なり合います。

  • 環境保護・管理法
  • 鉱物・石炭法
  • 雇用法
  • データ保護法(PDP法)

省庁間の解釈が異なった場合、企業にとって「どの法律を優先すべきか」が判断しづらくなり、法的不確実性が高まります。

企業にとっての影響:何がどう変わるのか

今回の法改正は、単なる法技術的な変更ではありません。「企業が自らを守るために、どこまで準備しているか」が、法的リスクの大小を左右する時代への転換を意味します。

以下は、改正前後の主要な変化をまとめたものです。

項目改正前改正後(2026年)
法的責任個人(取締役・経営者)が中心企業(法人)が直接責任を問われる可能性
証拠主に物的証拠および従来の書類に依存デジタル証拠(メール・電子取引・ERPシステム)が正式に認定される
手続の予測可能性一貫性を欠くことが多く、地域によって異なるより構造化・透明化・標準化された手続きに
投資家保護限定的で、現地の解釈に依存することが多い書面化された法的メカニズムと異議申立て権による保護の強化
コンプライアンス任意的であり、企業判断に委ねられていた義務的となり、法的保護手段として機能
リスク管理手作業または非公式なアプローチに依存書面化された法的監査・デューデリジェンス・コーポレートガバナンスが必須

企業にとって最も重要なのは、電子データ管理とガバナンス体制の強化が法的保護の“条件”として求められる点です。

外国投資家が取るべき5つのミティゲーション戦略

インドネシア市場の魅力は依然として高い一方、法的リスクは確実に増しています。外国投資家は以下の対策を検討することが重要です。

① 投資前の詳細なリーガルデューデリジェンス

行政手続、環境法令、労務管理、税務の刑事リスクを事前に洗い出します。

② 透明な持株・資金構造の構築

不透明な所有構造は、資金洗浄や脱税調査の対象になりやすく、刑事化リスクの温床となります。

③ 契約書に強固な法的セーフガードを挿入

押収・遅延・行政介入・データ提供などに対する保護条項が必須になります。

④ 信頼できるローカルパートナーの確保

現場での行政慣行や実務解釈を把握しているパートナーは、リスク回避に不可欠です。

⑤ 内部コンプライアンス研修を定期実施

経営者・幹部・現場責任者が最新法規を理解していることが、企業防衛の第一歩になります。

まとめ

今回のインドネシア刑事訴訟法の改正は、インドネシアにおける法制度強化の一環であり、企業にとっても無視できない重要な変化です。
一方で、正しい理解と準備を行えば、インドネシアは今後もアジア有数の魅力的な投資先であることに変わりはありません。

企業様はこれを機に、コンプライアンス体制を見直し、内部統制・データ管理・契約設計を強化することで、法的リスクを抑えつつ成長機会を最大化することができます。

弊社インドネシア総合研究所は次のような役割を果たし、企業様の全面サポートが可能です。

  • 政策影響分析(Policy Impact Analysis)
  • 予防法務・行政リスクの事前検証
  • 業界横断の法規制マッピング
  • コンプライアンス体制・内部統制の設計
  • 投資家・経営層向けセセミナーの実施

弊社インドネシア総研は、データに基づいた分析とローカル事情の深い理解を強みに、企業の法的リスクを“戦略的な備え”へと変換する存在となります。

インドネシアの法律など、弊社までお気軽にお問合せください。

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参考文献:

  • ANTARA News, “Prabowo approves Criminal Procedure Code Bill ratification into law” (ANTARA News )
  • ANTARA News, “RI Govt says criminal procedure code bill deadline set for 2025” (ANTARA News )
  • ANTARA News, “Indonesia revises criminal procedure code to protect rights: official” (ANTARA News )
  • Bisnis.com, “KPK Reveals New Wiretapping Regulations in the Criminal Procedure Code Bill” (Kabar24 )
  • Bisnis.com, “Pros and Cons of the Criminal Procedure Code Revision, Regarding Investigators and the Issue of a Ban on Covering Trials” (Kabar24 )
  • LPSK, “LPSK Proposes Revision of Criminal Procedure Code to Regulate Space for Reporting Victim Impact” (Kabar24 )
  • ICJR, “Nine Crucial Issues in the 2025 Draft Criminal Procedure Code (RUU KUHAP)”
  • DPR Commission III Brief Info, “KUHAP Bill and Strengthening the Role of Lawyers” (DPR File )
  • ANTARA News, “Haidar Alwi warns of the impact of the revisions to the Attorney General’s Office Law and the Criminal Procedure Code” (Antara News )
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