【コラム】インドネシアの保健法の改正と今後の影響

インドネシアでは、2023年7月11日に新しい保健法が可決されました。この新しい保健法により、インドネシアの医療には良い影響があると言われています。現在、インドネシアでは医療従事者の不足が深刻であり、その多くは都市部に集中し、とりわけ地方の医療従事者不足は深刻です。また、人口あたりの病床数も日本の13分の1程度で、脳や心臓の緊急の処置が必要な疾患に対してはまだまだ満足のいく医療提供がされていません。今回のコラムでは、インドネシアの新しい保健法が社会においてどのような影響を今後与えうるのかご紹介いたします。

参考サイト:https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/asia/indonesia.html

インドネシアの医療事情

(出典:世界銀行「Physicians (per 1,000 people)」より弊社作成)
https://data.worldbank.org/indicator/SH.MED.PHYS.ZS

(出典:Databoks「Jumlah Tenaga Kesehatan (2022)」より弊社作成)
https://databoks.katadata.co.id/datapublish/2023/03/25/ini-jumlah-tenaga-kesehatan-di-indonesia-pada-2022-terbanyak-dari-perawat

インドネシアでは、およそ年間30万人が脳卒中で死亡し、年間3,000人以上の乳児が心臓疾患で死亡し5100万人の幼児が現在の発育不全の状態で暮らしており、医療・保健に関する課題が山積しています。脳卒中や心臓疾患などは緊急の対応が必要な疾患ですが、これらの疾患に対応できる救急医も不足しています。上のグラフにあるように、ASEAN各国における人口1000人あたりの医師数では、インドネシアはカンボジアやラオスに次いでASEANワースト3位です。WHOの指標では人口1000人あたり1人の医師がいることが理想であるとされていますが、それよりも遥かに低い値であることがわかります。

さらに、インドネシアでは専門的で必要な医療を受けられないことから、多くの患者がシンガポールなどに先進的な医療を求めて渡航する医療ツーリズムなども行われており、自国で十分に治療ができない点が問題視されています。また、インドネシアの平均寿命は71.3歳であり、世界平均の73.3歳よりも下回っていることから、平均寿命向上に向けてインドネシア政府も医療政策の拡充を試みています。インドネシアの主な死因や健康課題に関する詳細は、関連記事「【コラム】インドネシアにおける死因順位と健康課題」をご覧ください。

関連記事:

参考サイト:
https://clius.jp/mag/2021/07/07/doctors-population-about/#:~:text=%E6%97%A5%E5%8C%BB%E7%B7%8F%E7%A0%94%E3%81%8C%E5%85%AC%E8%A1%A8%E3%81%97,%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
https://data.who.int/countries/360
https://www.cnbcindonesia.com/research/20230712124359-128-453575/penting-5-hal-yang-harus-kamu-tahu-soal-uu-kesehatan

インドネシアの新しい保健法の主な改正点と影響


今回のインドネシアにおける保健法改正はインドネシア国民への医療サービスの充実や健康増進を目的としています。今回の法改正が今後インドネシアの医療にどのような影響を及ぼし、メリットがあるのか以下に記します。

【医師数の増加】
今回の保健法改正により、インドネシアにおいて医師の開業手続きが円滑にスピーディーに進められるよう従来よりも簡素化されます。それだけではなく、医学生は実習期間中の学費が免除され、給与も支給されるようになります。インドネシアの医師の絶対数を増加させるねらいです。しかしながら、現在インドネシアでは医師数や歯科医などの数は増加傾向にはありますが、これらの人員は必ずしも地方への医療サービス提供に貢献していません。医師数を増やしやすくすることで地方の医療サービス提供にどの程度メリットがあるかは未知数です。

【外国人医師の開業容易化】
今回の改正により、医師数を増やすため外国人医師がインドネシアで開業するための手続きが簡素化されます。外国人医師はインドネシア現地の医療機関からの要請があれば、インドネシアで4年間勤務し、診療することが認められています。条件は、インドネシア現地の能力評価に合格し、インドネシア語を学ぶことに同意することです。

具体的には、
①海外の教育機関を卒業し、医療専門家あるいは専門家に準ずる者として認められ、海外で少なくとも5年間一定レベルの技能を備えた医療従事者として実務にあたってきた者で、その資格はインドネシア国内の認定機関が発行した証明書あるいはその他の文書によって証明されること。
②インドネシア現地の能力評価によって証明される、医療サービスの特定分野に関する優れた専門家であり、海外で少なくとも5年間の実務経験があること。

【国内の医療機器・医薬品産業の強化】
医療機器や医薬品のサプライチェーンが強化されます。これまでインドネシアの医薬品や医療機器は海外からの輸入に頼っていましたが、新しい保健法により、インドネシア国産の原材料および製品の使用を優先し、インドネシア国内の医療産業の発展を促進し、海外で医療サービスを受けることに歯止めをかけるねらいです。

【医療従事者の労働環境改善】
医療従事者に対する暴力、嫌がらせ、いじめに対する法的保護を強化し、医療従事者たちの労働環境を改善します。

【特定条件下での妊娠中絶の合法化】
インドネシアはイスラム教徒が多数を占め、その教義から母体保護以外の性暴力被害などによる妊娠中絶は認められておりませんでした。今回の改正により、夫の同意があれば既婚女性や、性暴力による被害、医療上必要とされる妊娠中絶が認められるようになります。ただし、これらの規定外で行われた妊娠中絶には最高4年の懲役が科せられ、妊娠中絶を支援した医療従事者には最高12年の懲役が言い渡される可能性があります。

参考サイト:https://www.cnbcindonesia.com/research/20230712124359-128-453575/penting-5-hal-yang-harus-kamu-tahu-soal-uu-kesehatan
https://umsu.ac.id/berita/ruu-kesehatan-2023-isi-dan-dampaknya-bagi-masyarakat/
https://nasional.kompas.com/read/2023/07/11/20372121/uu-kesehatan-baru-cantumkan-9-syarat-dokter-asing-praktik-di-indonesia


今回のコラムでは、インドネシアの医療事情や大きく改正された新保健法に関する主な変更点やその影響やメリットについてご紹介いたしました。インドネシアでの深刻な医師不足や様々な健康課題に対して包括的に対処をしようと政府が試みていることがお分かりいただけたと思います。外国人医師の開業も簡素化・容易化されることから、日本の医療従事者の方の活躍の場も広がることと思います。インドネシアでの医療提供や健康増進事業の進出にご興味をお持ちの方は弊社までお問合せくださいませ。

関連記事:



株式会社インドネシア総合研究所
お問い合わせフォーム
Tel: 03-6804-6702

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

記事のシェアはこちらから
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次