【コラム】インドネシアにおいて知的財産権を担保にする試みが開始
スタートアップやベンチャーなどの事業を興す際には、事業の種類にもよりますが、多くの資金を必要とします。個人でこれらの資金調達をすることは難しく、他者からの出資を募るか、金融機関などから融資を受けるなどの必要があります。クラウドファンディングでは思うように資金集めをするのに時間がかかり、公的機関からの補助金は採択率も高くはないため、事業内容によってはハードルが高く、即時に資金を得たい場合には良い選択肢ではないかもしれません。インドネシアでは、2022年の法制定により、知的財産権を融資の際の担保に入れられるようになりました。知的財産権は、資産的な評価が難しく、多くの金融機関などはその活用に慎重ではありますが、起業をする際の資金調達の選択肢が増えるという意味では良い動きです。今回のコラムでは、インドネシアで開始された、融資を受ける際に知的財産権を担保に入れることができるという新しい試み関してご紹介いたします。
インドネシアの金融システム
【インドネシアにおける金融システムの構造】
対GDP比率(%) | |||
2005年 | 2010年 | 2015年 | |
金融機関総資産の対GDP比率 | 63.4 | 59.9 | 71.7 |
(内訳) | |||
銀行 | 52.0 | 59.9 | 55.4 |
保険会社 | 4.4 | 5.9 | 7.2 |
年金基金 | 2.2 | 1.9 | 1.8 |
ファイナンス会社 | 3.2 | 3.4 | 4.1 |
その他のノンバンク会社 | 0.7 | 0.9 | 0.8 |
金融市場 | |||
債券発行残高 | 15.5 | 14.1 | 15.7 |
株式市場時価総額 | 26.0 | 47.2 | 40.8 |
その他 | |||
イスラム銀行 | 0.6 | 1.2 | 1.8 |
イスラム銀行窓口 | 0.1 | 0.3 | 0.7 |
(出典:世界銀行「FINANCIAL SECTOR ASSESSMENT REPUBLIC OF INDONESIA」より弊社作成)
参考サイト:https://documents1.worldbank.org/curated/en/104191505745150824/pdf/Indonesia-FSAP-Update-FSA-07072017.pdf
インドネシアでは一般の人々の金融機関の利用率が低く、以前よりは改善したものの、他のアジア諸国と比較しても金融包摂が進んでいない現状があります。インドネシアでは、銀行口座の保有率は52%であり、1億人以上が銀行口座を保有していません。他のアジア諸国のシンガポールが98%、タイが96%、中国が89%、マレーシアが88%、インドが78%であることを踏まえると、依然として低い割合です。また、金融システムの構造も銀行が中心で銀行以外の金融機関の発展もまだ途上であることが分かります。銀行は大企業への融資が中心であるため、中小企業への融資は不十分です。融資期間も短期間であるため、長期的な融資が必要となる住宅購入や設備投資などの分野での融資への対応もまだまだ拡充が必要です。
参考サイト:https://www.bi.go.id/id/bi-institute/BI-Epsilon/Pages/Kepemilikan-Rekening-Tabungan-dan-Akses-Lembaga-Keuangan.aspx
https://finance.detik.com/moneter/d-6806956/mandiri-institute-baru-52-orang-ri-yang-punya-rekening-bank
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/rim/pdf/10783.pdf
インドネシアにおける知的財産権を担保にする試み
インドネシアでは金融包摂率が低く、銀行中心の金融システムであるため、大企業以外の個人が融資を受けることは容易ではありません。中小企業はインドネシア全土に約6420社あり、GDPの約61.9%に貢献していることから、中小企業への支援や融資はインドネシア経済にとって欠かせません。通常、融資には審査があり、担保として資産価値のあるものを金融機関に差し出す必要があります。担保として入れられるものは土地や不動産などの有形固定資産が代表的ですが、インドネシアでは2022年にインドネシア共和国政令第24号にて知的財産権を融資の際の担保に入れられるように制定されました。知的財産権を担保に入れられるようにする取り組みは、米国や欧州などの先進国では既に始まっております。ベンチャー企業やスタートアップ企業など、必ずしも有形固定資産を多く保有していない企業にとっては、知的財産権を担保にした融資によってスタートアップ企業の収益性を改善でき、資金調達の良い手段となることが見込まれます。
参考サイト:https://www.ekon.go.id/publikasi/detail/4980/tingkatkan-inklusi-keuangan-bagi-umkm-melalui-pemanfaatan-teknologi-digital-pemerintah-luncurkan-program-promise-ii-impact
https://www.kemenkumham.go.id/berita-utama/sekarang-pelaku-ekraf-bisa-dapat-pembiayaan-dari-lembaga-keuangan-dengan-jaminan-kekayaan-intelektual
インドネシアで知的財産権を担保にする条件
知的財産権を担保にするためには、以下の条件があります。
【申請条件】
・資金調達の提案書があること。
・クリエイティブ経済に関するビジネスを行っていること。(※1)
・クリエイティブ経済製品の知的財産に関連する事業を行っていること。
・当該知的財産権に関する登録証あるいは知的財産証明書を持っていること。
【担保として使用できる知的財産権の条件】
・法律分野の政府組織に記録あるいは登録された知的財産
・独立して管理(商品化)され、他の当事者に譲渡された知的財産
【知的財産権の評価の指標】
・コストアプローチ
・市場アプローチ
・収益アプローチ など
→知的財産の鑑定は知的財産鑑定士や鑑定委員会によって行われます。
ゲーム開発、工芸、インテリア、音楽、美術、製品デザイン、ファッション、料理、映画・アニメ・動画、ビジュアルコミュニケーション、テレビ・ラジオ、建築、広告、舞台芸術、出版、アプリケーション
参考サイト:https://www.djkn.kemenkeu.go.id/artikel/baca/15310/Relevansi-Ekonomi-Kreatif-dengan-Tugas-Fungsi-Direktorat-Jenderal-Kekayaan-Negara.html
https://money.kompas.com/read/2022/07/19/142646726/kekayaan-intelektual-bisa-dijadikan-jaminan-utang-ini-aturannya?page=all
https://money.kompas.com/read/2022/08/23/205927526/ekonomi-kreatif-pengertian-ciri-ciri-manfaat-dan-contohnya?page=all
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今回のコラムでは、インドネシアにおける知的財産権の担保活用に関してお伝えいたしました。金融包摂率の低さが課題となっているインドネシアでは、銀行中心で大企業への融資が多く、中小企業やスタートアップの資金調達には課題が多いです。先進国の一部ではすでに活用されている知的財産権を担保活用することで、中小企業やスタートアップの資金調達は、従来よりも容易になるかもしれません。弊社では、インドネシアの財界や経済界のトップとの連携もあり、インドネシアでの資金調達や事業開始のお手伝いをさせていただくことが可能です。インドネシアでの事業展開をご検討の事業者の方はぜひ弊社までお問い合わせくださいませ。
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