【コラム】インドネシア人の家計支出動向 ーBPSの最新レポートからー
新型コロナウィルスの感染拡大は、世界経済に大きな影響を及ぼしていますが、インドネシアにおいてもやはり同様です。
今回のコラムでは、コロナ禍におけるインドネシア国内の経済状況と家計への影響をご紹介します。
出典:本コラムで参照しているインドネシア中央統計庁(BPS)のデータは、すべて以下の資料に掲載されているものです。 “Indonesian Economic Report, 2021”, BPS
https://www.bps.go.id/publication/2021/09/17/f3ece7157064514772b18335/laporan-perekonomian-indonesia-2021.html
インドネシア国内の経済状況
インドネシアは、2019年に一人当たり国民総所得(GNI)が4,050USドルとなり、当時の基準で高中所得国入りを果たしたところでした。
しかし、2020年現在、インドネシアの一人当たりGNIはRp.56,900,000(約3,911.7USドル)で、低中所得国に分類される水準に戻っています。
ここ数年5%台を保ってきたGDP成長率も、2020年にはマイナス2.07%となりました。
また、インフレ率の伸びも緩やかになっています。2018年の主要な項目でのインフレ率は3.07%でしたが、2019年は3.02%、さらに2020年は1.6%となっています。
また、2020年7月から9月にかけてはデフレも経験しました。
このような動きから、BPSではインドネシアにおける経済状況の悪化、購買力の低下がうかがえるとしています。
インドネシアの家計支出の推移
下の図は、インドネシアの家計支出の成長率を示したものです。2017年から2019年は安定的な成長を記録していましたが、2020年に急降下していることがわかります。
娯楽以外の支出はほぼ前年と変わらない水準であったのに対し、娯楽やライフスタイルに関連した消費への支出が著しく減少しています。
出典:Indonesian Economic Report, 2021を基に弊社作成(閲覧日:2021年9月27日)
https://www.bps.go.id/publication/2021/09/17/f3ece7157064514772b18335/laporan-perekonomian-indonesia-2021.html
では、具体的にどのような分野で変化がみられたのでしょうか。家計支出の内訳を示したものが以下の図です。
2020年の家計支出で、最も高い割合を占めていたのは食料品でした。
レストラン等での外食を除いても、家計の41.24%にあたります。前年が39.37%だったのに比べると、コロナ禍で食料品のための支出が家計に占める割合が高くなったと言えます。次いで多いのが交通・通信費で20.19%ですが、こちらは2019年に比べると減少しています。
これは、移動制限により、旅行などのアクティビティが減ったことに起因していると考えられます。一方で、家計支出のうち、最も割合が低かったのは服・靴などの服飾品とケアサービスで、3.56%となりました。
想像に難くないことではありますが、生活に必須な食料品への支出が増え、外出やそれに伴う支出が減少していることがデータでも示されたと言えます。
出典:Indonesian Economic Report, 2021を基に弊社作成(閲覧日:2021年9月27日)
https://www.bps.go.id/publication/2021/09/17/f3ece7157064514772b18335/laporan-perekonomian-indonesia-2021.html
インドネシアにおけるコロナ禍での家計保護政策
そうした中で、特に貧困層の家計を助けるための経済政策が重要度を増しています。
政府は、国民の購買力の底上げを目指すプログラムとして、国家経済復興(PEN)プログラムを立ち上げました。
その中には、「希望ある家族プログラム」(PKH) ※ などの既存の制度の拡充も含まれます。
こうしたプログラムの主な対象は、コロナ禍で生活がさらに厳しくなった貧困層ですが、中間層も対象となるものがあります。
たとえば、 過去のコラムでも触れた遠隔授業(PJJ)のためのインターネット容量の補助などです。
BPSによれば、2020年は230.31兆ルピアの予算をさまざまな社会福祉プログラムにあて、社会福祉プログラムのみに目を向ければ、予算限度額の95.73%を達成しているとのことです。
過去コラム:https://www.indonesiasoken.com/news/column-home-schooling/ ※「希望ある家族プログラム」:Program Keluarga Harapan (PKH)
2007年に施行された条件付き現金給付(CCT)の一種で、12年間の教育課程に通うべき子供か妊婦のいる貧しい家庭を対象としています。単なる金銭的な補助だけでなく、教育への支援も視野に入れている点が特徴のプログラムです。
参考:厚生労働省「2017年 海外情勢報告」(2021年9月28日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/18/dl/t5-02.pdf
財務省「ファイナンス」p.14, 2021年8月号(2021年9月27日閲覧) https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/denshi/202108/html5.html#page=19
今後の傾向
以下の図で示す通り、国際通貨基金(IMF)の見通しでは、コロナ禍におけるインドネシアのGDP成長率の下落も一時的なものにとどまり、2021年以降は回復に向かうとされています。
出典: World Economic Outlook Databaseを基に弊社作成(閲覧日:2021年9月27日)
一方で、2021年8月の消費者信頼感指数は77.3ポイントと、前月から下落しています。
Kompas紙はこれについて、インドネシア銀行のエルウィン・ハルヨノ氏の言葉として、移動制限が続いていることなどが消費者心理に影響を及ぼしていると伝えています。
一時期はコロナウィルス感染者数が爆発的に増加していたインドネシアですが、ワクチン接種が進んだ影響もあり、現在は比較的抑えられているようです。
9月26日時点で2回目のワクチン接種が完了しているのは48,526,682名で、インドネシア国内の接種対象者の約23%となっています。
長く続いている移動制限が、国民の経済活動の妨げとなっていることは明らかです。
今後、ワクチン接種が順調に進み、外出制限を予定通り緩和できるかどうかが、経済回復への重要な鍵となっています。
参考Webサイト:https://covid19.go.id/berita/data-vaksinasi-covid-19-update-26-september-2021 (9/27閲覧)
https://money.kompas.com/read/2021/09/08/173200526/ppkm-terus-diperpanjang-survei-bi-konsumen-pesimistis-terhadap-ekonomi-ri
関連コラム:
弊社では様々な分野でインドネシア進出のサポートや、調査などを行なっております。
セミナーの開催や講師派遣なども行っておりますので、ご興味をお持ちの方はお気軽にご連絡ください。
株式会社インドネシア総合研究所
お問い合わせフォーム