【コラム】インドネシアにおける在宅勤務

新型コロナウイルスのパンデミック下で、人々の勤務形態は大きく変わりました。
中でも、オフィスへの出勤から在宅勤務への切り替えは、コロナ下における特に大きな変化としてあげられます。
日本でも、エッセンシャルワーカーを除く多くの人々が在宅勤務を経験した、あるいは現在も在宅勤務を継続していますが、インドネシアにおいても、活動制限(PPKM)実施下において、多くの企業や公的機関が在宅勤務を導入・実施しています。
今回のコラムでは、インドネシアにおいて実施されてきた在宅勤務の現状についてご紹介します。
コロナ禍のインドネシアにおける在宅勤務実施状況
インドネシアでは、コロナウイルスが蔓延し始めた2020年3月から、在宅勤務への切り替えが始まりました。
インドネシアの在宅勤務状況とICTの利用についての調査(Rachmawati et al.(2021))によると、パンデミック当初は勤務形態への影響はほとんどありませんでしたが、2020年3月16日から4月9日にかけて、急激に在宅勤務が普及します。
最初にPPKMが実施された4月10日から6月4日にかけては、オフィスの密度が最大で−34.97%まで下落しました。
その後、規制が徐々に緩和され、いわゆるニューノーマルへの移行が進むと、密度は-20〜25%ほどの値で安定していました。
2021年に入り、感染者数が再び増加します。7月、感染者数が爆発的に増加すると、政府はジャカルタやバリにおいて、エッセンシャルワーカーを除いて100%の在宅勤務を義務付ました。
その後も、企業や省庁などには、PPKMのレベルに応じた指針に従い、在宅勤務を取り入れることが求められています。
2021年11月30日現在、インドネシアの各地域のPPKMレベルは1〜3(最大4)で、在宅勤務の指針は以下のように示されています。
表:在宅勤務率の指針(エッセンシャルワーカーを除く)
ジャワ島・バリ | それ以外の地域 | |
PPKM レベル3 | 75% | 50% ※クラスターが発生した場合は5日間閉鎖 |
PPKM レベル2 | 50% | 感染状況に合わせて決定 レッドゾーン 75% グリーンゾーン 25% オレンジゾーン 50% |
PPKM レベル1 | 25% |
参考:Rachmawati et al.(2021) “Work from Home and the Use of ICT during the COVID-19 Pandemic in Indonesia and Its Impact on
Cities in the Future”, Sustainability 2021, 13(12), 6760.
https://www.mdpi.com/2071-1050/13/12/6760/htm
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021070101096&g=int
https://covid19.go.id/p/regulasi/instruksi-menteri-dalam-negeri-nomor-61-tahun-2021
https://covid19.go.id/p/regulasi/instruksi-menteri-dalam-negeri-nomor-63-tahun-2021
在宅勤務導入がインドネシアの従業員に与えた影響
先述のRachmawati et al.(2021)によると、政府や企業の一部には、パンデミック以前から在宅勤務を導入する計画をたてていたところもあったようです。しかし、多くの企業では準備が不十分なまま在宅勤務が始まりました。
そのため、ネット環境などインフラ面の不備で仕事のストレスを感じた人も多かったようです。
The Jakarta Postの記事では、同僚とのコミュニケーションが減ったことや、勤務終了時間が曖昧になり仕事とプライベートの区別がうまくつけられないことが精神的負担になっていると紹介しています。
コロナ禍における在宅勤務環境が仕事の満足度にどのような影響を与えるかについて調べたDodi Wirawan Irawanto et al. (2021) でも同様の結果が得られています。
インドネシア政府によって定められた在宅勤務方針は、IT環境が整っておらず十分なサポートが受けられない場合、従業員の仕事への満足度を下げるという結果につながったとしています。
一方で、在宅勤務にはよい点もあげられます。同じ調査では、柔軟かつ自律的な働き方ができ、ライフワークバランスが保たれたと感じた場合、仕事への満足度もあがることが指摘されています。
また、通勤時間の短縮も在宅勤務によるメリットの一つです。例えば、ジャカルタ市民は通勤に代わって在宅勤務を行うことで、1日に3〜5時間もの時間を他のことに使えると言われています。
参考:Dodi Wirawan Irawanto et al. (2021) “Work from Home:
Measuring Satisfaction between Work–Life Balance and Work Stress during the COVID-19 Pandemic in Indonesia”, Economies 2021, 9(3), 96
https://doi.org/10.3390/economies9030096
https://www.thejakartapost.com/news/2020/04/08/coronavirus-means-working-from-home-for-many-but-some-say-its-easier-said-than-done.html
インドネシアにおいて使用された在宅勤務中のコミュニケーションツール
インドネシアの在宅勤務においては、IT環境の不備があったこと、同僚とのコミュニケーション不足が問題の一部となっていました。
では、在宅勤務中のコミュニケーションのためにどのようなツールが使用されていたのでしょうか。
Rachmawati et al.(2021) では、ミーティングや同僚とのやりとりのためのツールとして、ZoomやGoogle Hangouts、Webex、 WhatsAppなどが使われていると報告されています
主なツールは日本とそう変わらないと言えるでしょう。
一方で、在宅勤務中に職場からの情報を得るためのツールとしては、WhatsAppやメールのほか、インスタグラムやFacebookなどのSNSを使用している人も一定数いることがわかりました。
Web会議ツールを使用するにはインターネット回線が十分でないこともありますが、SNSが盛んなインドネシアでは、より気軽に同僚とコミュニケーションがとりたいという気持ちがあるものと考えられます。
出典:Dodi Wirawan Irawanto et al. (2021) を基に弊社作成
https://doi.org/10.3390/economies9030096
図:在宅勤務中に職場からの情報を得るためのツール
今後の動向
インドネシアでは現在もPPKMが継続中であり、当面の間は一定数の従業員が在宅勤務を続けることになるでしょう。
また、新たなコロナウイルスの変異株が見つかるなど、パンデミックが再び発生することも警戒しておかなければなりません。
アフターコロナの段階に移行しても、在宅勤務を続ける企業は多いと見る向きもあります。
特に都市部では、通勤時間がなくなることによる時間、および限られたオフィススペースの有効活用に効果的であると考えられているためです。
どちらにせよ、今後も企業には在宅勤務を念頭においた環境の整備が求められると言えそうです。
関連コラム:https://www.indonesiasoken.com/news/column-ppkm/
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