【CO2見える化レポート】④炭素隔離とは何か?ブルーカーボンとグリーンカーボンの可能性

二酸化炭素削減というと、自動車の排気ガスの排出量削減や石炭の使用抑制などが思い浮かぶ方も多いかと思います。こうした二酸化炭素の排出源へアプローチし、排出量を削減する方法のほかに、排出された二酸化炭素を吸収する方法があります。今回のレポートでは、炭素隔離と呼ばれる二酸化炭素の吸収のメカニズムや、炭素隔離に関係するブルーカーボン、グリーンカーボンについて、そしてインドネシアの炭素隔離に関する方針に関してご紹介いたします。

炭素隔離とは何か?


炭素隔離とは、二酸化炭素を大気中へ排出することを抑制するための方法で、炭素を個体や溶解した状態で安定させることを指し、気温上昇の抑制効果が期待されます。炭素隔離には「生物学的な隔離」、「地質学的な隔離」、「技術的な隔離」があります。生物学的な隔離はさらに森林による吸収源である「グリーンカーボン」と海洋生態系による吸収源である「ブルーカーボン」に分かれます。

【生物学的な隔離】
・森林や草原
世界の炭素排出量の約25%は光合成などによって森林や草原によって吸収されています。森林は二酸化炭素の大きな吸収源としてみなされ、「グリーンカーボン」とも呼ばれます。近年は山火事や森林伐採などによって、二酸化炭素の吸収源としての安定性が危ぶまれています。カリフォルニア大学デービス校の研究によると、森林よりも草原のほうが二酸化炭素の吸収源として安定性があることがわかっています。草原は山火事などによる被害の心配も少なく、炭素のほとんどを地下に隔離します。また、燃焼した場合も根や土壌に炭素が固定されたままになるため、安定した炭素隔離の方法であると言われています。

・海洋
海洋は、炭素排出量の約25%を吸収しています。高緯度の地域では海洋循環によって深海へ二酸化炭素が引きずり込まれ、貯留されます。沿岸部の生態系、たとえばマングローブ林、海藻藻場、塩性湿地などは二酸化炭素の吸収源として大きな役割をはたします。そのほか、貝殻やサンゴ礁の骨格なども炭酸カルシウムとして二酸化炭素を吸収します。これらは「ブルーカーボン」と呼ばれ、諸説はありますが大陸の森林の約5-10倍の二酸化炭素を吸収することができるため、近年はこのブルーカーボンへの期待が高まっています。

【地質学的な隔離】
地質学的な隔離とは、地下の地層や岩石に二酸化炭素を直接貯蔵することを指します。鉄鋼やセメントの製造、発電所において発生した二酸化炭素は回収後、長期貯蔵のために多孔質の岩石に直接注入されます。

【技術的な隔離】
科学技術の活用により、大気中の二酸化炭素をより効率よく吸収できる方法や二酸化炭素を資源として活用する方法などが模索されています。

・グラフェンの製造
二酸化炭素を原料として産業用素材のグラフェンを製造することができます。グラフェンはスマートフォンなどの電子機器の画面を製造するために使用されます。

・直接空気回収技術(DAC)
高度な技術プラントを使用することにより、大気中から直接二酸化炭素を回収します。この技術は1トンあたりの回収に500-800ドルと極めて高いコストがかかるため、大規模な実用化にはまだ至っておらず、低コスト化が今後の課題です。

参考:https://www.ucdavis.edu/climate/definitions/carbon-sequestration/technological
https://ocean-climate.org/en/awareness/the-ocean-a-carbon-sink/

インドネシアにおけるグリーンカーボンとブルーカーボンの活用


インドネシアは世界でも上位10カ国に入る広大な熱帯雨林や、世界のマングローブ林の5分の1の面積を保有し、海洋生態系なども豊富です。その生物多様性の豊富さから、インドネシアは二酸化炭素吸収の手段としてグリーンカーボンおよびブルーカーボンの活用を推進しています。

【グリーンカーボン】
インドネシアは広大な熱帯雨林の面積を保有していることで知られていますが、火災を起こしやすいアブラヤシプランテーションの開発や樹木の伐採などでの森林面積の減少が懸念されています。熱帯雨林は二酸化炭素の吸収源として大きな役割を果たしているため、熱帯雨林減少の危機を克服すべく、インドネシア政府は植林活動を推進しています。

2008年大統領令第24号に基づき11月28日はインドネシア植樹の日(Hari Menanam Pohon Indonesia)、12月は国家植樹月間(Bulan Menanam Pohon Nasional)として制定されました。インドネシア環境林業省のガイドラインによると、大木が密に生い茂る1ヘクタールの緑地は1日あたり1500人の人が必要とする0.6トンの酸素を生成でき、1ヘクタールあたり年間2.5トンの二酸化炭素を吸収できるとしています。

参考:https://dlh.probolinggokab.go.id/hari-menanam-pohon-indonesia-tahun-2021/
http://ditjenppi.menlhk.go.id/kcpi/index.php/aksi/mitigasi/implementasi/330-menanam-pohon-untuk-mengatasi-pemanasan-global
https://www.icctf.or.id/mulai-dari-karbon-biru-untuk-menyelamatkan-bumi/

【ブルーカーボン】
インドネシアはカナダに次いで世界に2番目に長い沿岸区域を持ち、世界最大の群島国家であることから、沿岸区域、マングローブ林、湿地、海藻藻場など、生物多様性に富んでいます。インドネシアのマングローブ林や海藻藻場などの沿岸生態系は世界最大規模です。

インドネシア中央統計局のデータによると、現在インドネシア全土には348万9141ヘクタールのマングローブ林がインドネシアの沿岸部の10万8000キロメートルにわたって存在します。マングローブ林の二酸化炭素吸収量は土壌の条件によっても異なりますが、土壌の有機炭素を通じて二酸化炭素が貯蔵された場合の吸収量は1ヘクタールあたり1060~1779トンに達する可能性があります。

また、インドネシア科学院のデータによるとインドネシアの潜在的な海藻藻場の面積は83万2000-180万ヘクタールであると推測されています。この海藻藻場とマングローブ林を合わせると、世界の二酸化炭素の17%を貯蔵できるとされています。インドネシア政府は2012年大統領規則第73号を通じてマングローブ林の修復の目標を提示しており、2045年までに394万ヘクタールまでマングローブ林を修復することを目指しています。

参考:https://www.icctf.or.id/mulai-dari-karbon-biru-untuk-menyelamatkan-bumi/
http://oseanografi.lipi.go.id/haspen/buku%20padang%20lamun%202018%20digital.pdf
https://www.bps.go.id/publication/2020/11/27/643ef35d3f0ddd761b85d074/statistik-sumber-daya-laut-dan-pesisir-2020.html

本レポートでは、二酸化炭素吸収を促す炭素隔離に焦点を当ててお伝えしました。生物多様性に富むインドネシアには森林や生態系を活用した炭素隔離に大きな利点があることが分かります。特にマングローブや海藻藻場の二酸化炭素吸収量は膨大であることから、ブルーカーボンの活用はインドネシア政府が力を入れている分野でもあります。

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弊社インドネシア総合研究所はインドネシア全土に様々な業界、教育機関、政府機関等のネットワークを保持していることから多岐にわたる調査を得意としており、日々アップデートされる環境対策法規制やプログラムなどに関して、専門家などの意見や政府機関からの情報を取り入れた調査も可能です。
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