【コラム】インドネシアにおけるオンライン教育の変容と課題

新型コロナウイルス感染症の大流行から、早くも4年が経とうとしています。パンデミックは世界中の様々な分野における変革のきっかけとなりました。特に教育分野においては、日本では学校のオンライン授業化に始まり、習い事としてのオンライン教育サービスは需要が拡大しただけでなく、ポストコロナ時代の社会にも定着しました。インドネシアの教育分野も同様です。本コラムでは、インドネシアの教育事情について、パンデミック期から現在に至るまでのオンライン教育の変遷をご紹介いたします。

対面からデジタルへ

パンデミックの発生により、インドネシアでは従来の対面式教育からオンライン学習への迅速な移行が必要となりました。数学、物理、化学の3教科に特化したインドネシアの家庭教師プラットフォームであるSinotif(シノティフ)は、この変革の典型です。同社の創業者であるHindra Gunawan(ヒンドラ・グナワン)氏は、パンデミック開始後僅か3ヶ月で従来の教育サービスを刷新し、自社の学習システムを100%オンライン化しました。世界情勢を先読みしたこの積極的なアプローチによって、シノティフはパンデミック禍の不況においても生き残ることができただけでなく、大幅な成長を遂げました。シノティフは、ジャボデタベック(ジャカルタ首都圏の総称)からインドネシアの20の州へとリーチを広げ、現在では世界13カ国の学生がそのサービスの恩恵を受けています。インドネシアにおけるオンライン教育へのシフトはシノティフだけのものではなく、インドネシアのオンライン教育・訓練セクター全体の成長の引き金にもなりました。柔軟性、費用対効果、アクセスのしやすさ、一人ひとりに合わせた学習内容など、オンライン教育の利点が人々に認知されるにつれ、オンライン教育は一時的なトレンドの域を超え、インドネシアの教育界に定着しつつあるのです。

参考:https://www.medcom.id/pendidikan/news-pendidikan/8koZLvDb-tren-belajar-online-rasa-tatap-muka-tetap-diminati-pascapandemi

オンライン学習の革新とAIの役割

インドネシアのバンテン州には、テルブカ大学(Universitas Terbuka, UT)というオープンユニバーシティがあります。オープンユニバーシティとは、入学要件が最小限または存在せず、独立した学習システムを提供する教育機関のため、多くでサポート学習や遠隔教育などの特別な授業方法が取り入れられています。遠隔教育システム(Pendidikan Jarak Jauh, PJJ)はインドネシアのテルブカ大学においても導入されており、「セミオンライン監督試験(Ujian Semi Online Proctoring, USOP)」と、「テイクホーム試験(Take Home Exam, THE)」における人工知能(AI)の統合という2つの画期的な取り組みが行なわれています。「USOP」は、従来の試験会場以外でも、遠隔地から試験を受けられる柔軟性を学生に提供するものです。学生は、インターネットへのアクセスさえあれば、様々な場所からリアルタイムの試験に参加することができます。一般的に、USOP受験は、聖地巡礼、海外勤務、妊娠、試験当日のアクシデントなど、例外的な状況や緊急事態に見舞われた学生が対象となります。「THE」は、AI試験監督を統合した試験方法のことです。AIが学生の解答の類似性を検出するため、剽窃問題への対処などが効率的に行われるようになります。これらのイノベーションは、より多くの学生にとって利用しやすいものとなるだけでなく、費用対効果も高く、教育全体の質向上に繋がっています。テルブカ大学の取り組みは、インドネシアの遠隔教育に革新をもたらしたとして、現在国内外で高く注目されています。

参考:https://www.medcom.id/pendidikan/news-pendidikan/MkMQwajk-terapkan-ai-dalam-pembelajaran-ut-lakukan-2-terobosan-ini

教育の多様性への対応

一方で、教育分野でのデジタル化実施に際し、インドネシアの多様な教育事情を考慮することも免れません。パンデミックによって、オンライン教育の必要性だけでなく、地域によって教育における需要や課題が異なることも浮き彫りになりました。具体的には、教師や生徒の能力、インターネットへのアクセス、技術インフラなどの要素です。パンデミック禍において、インドネシア政府は教育のデジタル化を推進するための措置を開始しましたが、インドネシアの学校全体では未だ技術インフラに大きな隔たりが残っています。一部の学校、生徒、教師は依然としてテクノロジーやインターネットにアクセスできず、教師は対面式の在宅学習を実施せざるを得ないという状況も報告されています。中でも、教師のテクノロジー活用能力の向上は、インドネシア国内の地域格差を考慮した慎重な計画を必要とする継続的な課題として指摘されています。こうしたギャップを埋めるため、インドネシア政策研究センター(CIPS)は、インターネット接続の拡大やインフラ整備の支援に民間セクターを参加させることを提案しています。政府と民間部門の協力により、リソースの共有が最適化され、双方に利益がもたらされることにより、教育機会の拡大が更に促進されることが期待されています。

参考:https://www.medcom.id/pendidikan/news-pendidikan/zNArlnzb-digitalisasi-penting-tapi-perlu-perhatikan-keragaman-lanskap-pendidikan-nasional

まとめ

新型コロナウイルスのパンデミックが拍車をかけたインドネシアの教育の変革は、オンライン学習の新時代を切り開きました。シノティフのサクセス・ストーリーとテルブカ大学の革新的なアプローチは、インドネシアにおけるオンライン教育の可能性と利点を社会へ知らしめるものとなっています。一方で、包括的な教育のデジタル化のためには、インドネシアの各地域に存在する多様なニーズと課題にも留意しなければなりません。オンライン教育が国全体に行き渡り、インドネシアの学生にとってより技術的に進んだ未来を育むために、官民双方を巻き込んだ包括的なアプローチの必要性が認識されています。今後のインドネシアにおけるオンライン教育トレンドにどう変化が現れるか、注目する必要がありそうです。弊社インドネシア総合研究所では、学習塾や通信教育など、日本式教育サービスのインドネシア進出もサポートしております。ご関心をお持ちの皆様、是非お気軽にご相談くださいませ。

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