【コラム】インドネシアの高速鉄道『WHOOSH』から見える中国との関係

インドネシアは10月2日、東南アジア初となる高速鉄道(Kereta Cepat Jakarta-Bandung , KCJB)『WHOOSH』の運行を正式に開始しました。『WHOOSH(ウーシュ)』とは、インドネシア語の「Waktu, Hemat, Operasi, Optimal, Sistem, Hebat(時間短縮、最適運行、信頼できるシステム)」の頭文字を取り名付けられたものです。この高速鉄道は、中国のインフラ構想「一帯一路(the Belt and Road)」プロジェクトの一環として行われ、その大部分は中国の国有企業によって出資されています。工事期間は約7年半、総工事費用は約73億ドルにも及んだと言われています。本コラムでは、インドネシアにとって非常に大掛かりなプロジェクトとなったこの高速鉄道『WHOOSH』について、インドネシアと中国の関係も交え、詳しくご紹介いたします。

開発背景

この高速鉄道事業の受発注は、2015年に遡ります。安全性を第一に掲げる日本の案に対し、中国は早期完工とインドネシア側に国の財政負担が生じない低コスト案を掲げ、日本と中国の激しい競争の末、最終的にインドネシアが中国の案を採用し、発注を行いました。2016年初めに着工し、当初は2019年に完成する予定でしたが、土地調達や建設費の高騰に加え、新型コロナウイルス感染症の流行、建設中の死亡事故など、紆余曲折を経て当初の計画より4年遅れた2023年10月に開業しました。その過程で、当初55億ドルと見積もられていた総工費が最終的には72億ドルへと膨れ上がり、中国側がインドネシアに対し国庫負担を求めたため、当初の予測とは裏腹にインドネシア政府にとって出費の大きいプロジェクトとなってしまったのです。インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が開業式で述べた「(高速鉄道建設は)高くついたが、非常に価値のある経験となった。国内初の高速鉄道建設で経験を積めば、将来のインフラ開発におけるミスは減り、コストも下がるだろう」という発言からも、インドネシア側の経済的負担があったことが伺えます。

参考:https://edition.cnn.com/travel/article/indonesia-first-bullet-train-china-funding-intl-hnk/index.html#:~:text=The%2086%2Dmile%20(138%2D,between%20Jakarta%20and%20Bandung%20from

高速鉄道の概要

この様に莫大な費用をかけて建設が進められた高速鉄道は、ジャカルタとバンドンを結ぶ約140キロの区間を運行しています。最高運転速度は時速350キロに達し、ジャカルタからバンドン中心部まで1時間以内で行くことが可能になります。現在、全路線に4つの駅があり、ジャカルタ側からHalim(ハリム)、Karawang(カラワン)、Padalarang(パダララン)、Tegalluar(テガルアール)駅の順に停車します。列車は8両編成で、乗客定員は601人となっています。列車には3つの座席クラスがあり、それぞれ異なるアメニティやサービスが提供されます。車内Wi-FiとUSB充電サービスは全クラスにて提供されますが、最上クラスであるVIPクラスでは、より広い座席、荷物置き場、フットレスト等が設置されており、より快適な旅を謳歌することができます。公開試乗会では、快適で便利という肯定的な意見のほか、チケットが高すぎるという批判的な意見も見られ、運賃が無料である10月中旬以降は従来の一般的な移動手段である長距離列車やバスを利用するという市民も見られました。

参考:https://databoks.katadata.co.id/datapublish/2023/10/02/kereta-cepat-whoosh-resmi-beroperasi-berapa-harga-tiketnya

経済効果と利用客の獲得への課題

今回の高速鉄道開通により、沿線では経済効果が高く期待されています。バンドンはグルメ観光地として、また戦略的な工業地帯として知られているため、観光客やビジネスマンの往来が増えると予想されています。また、郊外のハリム駅や、カラワン駅の近くにおいても、ホテルやショッピングモールのある新しい商業地域が次々と開発されています。一方、終点パダララン駅からバンドン中心部までは約20kmの距離があり、現在同区間において唯一の公共交通機関であるバスでは移動に一時間強かかるため、同区間の公共交通機関の整備がされない限りは、自動車や、長距離列車など、バンドン中心部まで直結の交通手段を選ぶ人々に高速鉄道を利用してもらうことは難しいという指摘も上がっています。

今後も続く高速鉄道の開発と中国の関与

インドネシア政府は、10月1日の運行開始から来年1月にかけて、徐々に運行本数を増やすことを目指しています。高速鉄道を所有するインドネシア・中国高速鉄道会社(PT Kereta Cepat Indonesia China, PT KCIC)のDwiyana Slamet Riyadi取締役が中国国営メディア各社に語ったところによると、バンドンから更に東のクルタジャティ、ジョグジャカルタ、ソロ、スラバヤなどの主要都市まで鉄道を延長することも計画されています。最終目標として路線延長が検討されているスラバヤは、ジャカルタから約700km離れた東ジャワ州の州都であり、国内第2の都市であるため、ジャカルタと結ばれれば、利便性や経済効果が大幅に向上することになります。尚この延長工事に関し、インドネシアは日本に協力を打診したものの、日本側は中国との技術的な違いや、インドネシアとの過去の軋轢への懸念から申し出を断ったため、今後ともインドネシアの高速鉄道開発には中国が大きく関与していくものと見られています。実際に、今回のインドネシア側の高速鉄道の開発継続意思の表明は中国側に肯定的に受け入れられており、一部では「依存」とも批判されている、インドネシア政府の積極的かつ公然と中国に投資を求める姿勢が一段と顕在化しています。

参考:https://asia.nikkei.com/Business/Transportation/Indonesia-s-first-high-speed-rail-opens-5-things-to-know
https://time.com/6319443/indonesia-high-speed-rail-china-bri/

本コラムでは、インドネシアで7年の歳月を経て遂に開通した高速鉄道『WHOOSH』について、列車の概要及びインフラ開発に見える中国の関与についてご紹介いたしました。開通間もない現時点(10月5日)では列車の運賃は発表されていませんが、予想されている運賃は25~30万ルピア(2400~2900円)と、日本の新幹線と比較するとかなりお手頃です。また、大幅な移動時間の短縮は、外国人観光客にとっても大変喜ばしいことです。今後インドネシアへ渡航される方は、是非高速鉄道で地方の都市へと足を運ばれてみてはいかがでしょうか。インドネシア総合研究所では、現地視察手配承っております。インドネシアへ渡航される皆様のご不安を取り払えるよう、サポートいたします。ご関心をお持ちの方はお気軽にお問い合わせくださいませ。

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