【コラム】養鶏事業レポート③―養鶏場の効率化とテクノロジー~インドネシアのナンタラ・ファームの先進的な取り組み~

インドネシアで一番主要なお肉というと鶏肉です。インドネシアでは9割程度がイスラム教徒と言われていますが、イスラム教では豚肉を食べることは宗教的な禁忌にあたるため、価格面や宗教面での制約が少ない鶏肉が人気なのです。以前「【コラム】養鶏事業レポート①-インドネシアの鶏肉市場と養鶏事業」でもお伝えしたように、インドネシアでは鶏肉の生産量・消費量は右肩上がりに伸びており、養鶏産業の効率化は重要なトピックです。今回のコラムでは、以前よりご紹介しているインドネシアの西ジャワ州で先進的な養鶏業を営むナンタラ・ファームの養鶏へのテクノロジー導入と効率化の取り組みに関してご紹介いたします。

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インドネシアの養鶏場ナンタラ・ファームの養鶏ビジネスモデル

【養鶏のビジネスモデル】

畜産業者 ヒナ+飼料 畜産業態 販売
独立 前払い
(運転資本が高額)
独自経営 独自に販売
(全リスクが経営者負担)
提携 後払い/委託
(運転資本がゼロ)
独自経営 販売会社に委託
(リスクは販売会社負担)

養鶏事業には、消費者の食卓に供給されるまでの一連の流れで上流・中流・下流の一連の流れがあります。上流ではヒナの繁殖やふ化、飼料製造などが行われ、中流のプロセスではヒナや飼料が投入されます。中流のプロセスでは鶏舎での飼育がおこなわれ、ヒナから肉・卵の採取が可能な鶏へ成長するまで飼育されます。下流では消費者の手元に届くまでの処理がされます。伝統市場の場合は生きたまま売られ、小売店などの場合は屠殺・冷凍処理の後に市場に出されます。また、この一連のプロセスにおけるコスト面では独立経営の養鶏場と提携の養鶏場では異なっています。ヒナや飼料などの運転資本は独立経営では前払いで高額であるのに対して、提携の養鶏場では後払いで委託形態のため、運転資本はゼロです。下流の販売プロセスにおけるリスクに関しても、独立経営では経営者が全リスクを負担するのに対して提携形態では販売会社がリスクを負担します。
ふ化から肉の販売までの養鶏の一連のプロセスの生産性向上・効率化を目的として、ナンタラ・ファームでは、中流プロセスでは「ナンタラ・ファームテック(Nantara Farm Tech)」、下流プロセスでは「ナンタラ・マーケットアップ(Nantara Market App)」という独自の技術導入をしています。

参考:資料「Nantara Farm Technology & Market App」

インドネシアの養鶏場ナンタラ・ファームが導入する最新の鶏舎

ナンタラ・ファームでは、今後のさらなる事業拡大を目指して、鶏の飼育数を増加させていく計画ですが、そのためには整備されて効率的な管理ができる鶏舎が不可欠です。ナンタラ・ファームで導入する最新の鶏舎とはどのようなものなのでしょうか。

【鶏の飼育サイクル】

1週目 2~3週目 4~5週目 6週目 7週目
ヒナの誕生 幼鶏は内臓器官を発達させる 筋肉が発達 十分に成熟
鶏肉を採取
鶏舎の清掃や消毒を実施

まず、養鶏場の運営に重要な養鶏の基本的なサイクルをみてみましょう。養鶏は鶏の生育に合わせて行われますが、1羽の鶏が生まれてから消費者の元に肉として届くまでのサイクルは7週間です。一般的に、鶏の寿命は野生下では10年ほどと言われていますが、養鶏場で肉や卵をとるために飼育されている鶏の場合は、効率や採算を重視する「経済寿命」があらかじめ決められており、野生下よりも非常に短いサイクルとなっています。インドネシアおよびナンタラ・ファームでも採算性を考慮して1~7週のサイクルで養鶏が行われています。

参考:https://nantarafarm.id/profil-nantara-farm/
http://zookan.lin.gr.jp/kototen/tori/t121_4.htm

【ナンタラ・ファームが導入する養鶏場】

ナンタラ・ファームでは、より効率的で収益性の高い養鶏事業の実現に向けて、養鶏場の管理システムの開発をバンドン工科大学との提携で実現しました。この提携事業には40億ルピア(日本円で約3,900万円)が投入されました。

<最先端の養鶏場の効果>
① 2階建ての鶏舎で、1棟の養鶏場で4万5,000羽の鶏を飼育可能
② 鶏の致死率を半減(一般的な致死率=1~4%)
③ 収益性を300%増加(1棟あたり126億ルピア≒1億2,000万円)

自動給餌・給水システム

冷却パッド

排気ファン

ナンタラ・ファームではバンドン工科大学との提携によって効率的な鶏舎管理システムを導入しましたが、その鶏舎の機能をご紹介いたします。最新の鶏舎は、第1に飼料や水を効率的に供給する自動給餌・給水システムを導入しています。そのため、給餌や給水のための人件費や労力を節約することができます。第2に、二酸化炭素とアンモニアを排出しながら新鮮な空気を取り入れるトンネル換気システムを採用しているため、鶏の健康維持や死亡率を抑制することができます。第3に、温度・湿度・酸素センサーをコンピューター制御でコントロールしているため、鶏舎の鶏の健康状態を把握して最適化します。このように、給餌の手間を省力化し、商品となる鶏の数を最大限に維持できるため、養鶏場の収益性が高くなるのです。

マーケティングアプリ「トゥルナクネシア(Ternaknesia)」と「ソバトゥルナク(Sobaternak)」の導入

ナンタラ・ファームでは、養鶏場の鶏舎管理システムの他に、「ナンタラ・マーケットアップ(Nantara Market App)」と呼ばれる、販売や経営の観点での効率化のテクノロジーを導入しています。そのアプリケーションとは、「トゥルナクネシア(Ternaknesia)」と「ソバトゥルナク(Sobaternak)」です。この2つはそれぞれ異なる利用者を想定しており、独自の機能を持っています。

これらのアプリケーションの開発に際して、インドネシア国内各地の大学と連携しています。獣医学、畜産学、金融学、経営学、情報学など多種多様な専門分野の知見を結集させながら、養鶏場の経営の効率化を目的としたアプリケーションは開発されました。

ソバトゥルナク(Sobaternak) 畜産業者が効率的に自身の農場の経営管理ができるようなアプリケーション。家畜個体の登録や管理、畜産に関する知識を深めたり、畜産の学習ができるような動画やコラムが配信されている。
トゥルナクネシア(Ternaknesia) イスラム教義に則り屠殺されたハラールで高品質な生鮮肉、冷凍肉・食品、卵などの畜産物を消費者が円滑に購入できるようにするアプリケーション。随時割引プロモーションなども行われている。

参考:https://sobaternak.com/
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.ternaknesia.app&hl=ja&gl=US

これらのアプリケーションの導入によって、従来の提携業者は東ジャワ州のみでしたが、ナンタラ・ファームではインドネシア国内で25州にまたがる提携業者ネットワークを構築することに成功しました。また、今までアプリケーションで販売された家畜は2万頭ですが、システム上にはその2.5倍の5万2,000頭もの家畜の登録があり、業者は豊富な選択肢の中から家畜を購入することが可能になりました。また、ハラール認証に関する消費者への透明性も今後はより機能を充実させていく見込みです。アプリケーションによる効率化で業者や消費者のネットワークを拡大することができ、事業拡大や収益性の向上に大きな効果が期待されています。

今回のコラムでは、インドネシアで養鶏場を営むナンタラ・ファームがビジネスモデルのどの部分でテクノロジーを導入し、養鶏ビジネスを効率化しているかに関してお伝えいたしました。農業や畜産業は多大な労力や土地を必要とする事業ですが、すべての事業者にとって多くの人材を農業や畜産業に投入することは容易ではありません。日本でも農業・畜産分野での効率化や担い手不足の問題解消のためのアグリテックは成長市場ですが、インドネシアでもアグリテックは成長しており、農業・畜産の技術革新は日々起こっています。インドネシアで今後も大きな成長が見込まれる養鶏や農業分野への投資やアグリテックなどの技術移転にご関心がおありの事業者の方々、ぜひ弊社までお問い合わせくださいませ。

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