【コラム】ハラール認証マークの改変から見えるインドネシア政治

参考写真①以前のハラール認証マーク(左)と新しいハラール認証マーク(右)

インドネシアでは、2014年にUU-JPH (ハラール製品保証法)が公布されて以来、ハラールの義務化の流れが進んでいます。この法律はジョコ現大統領へと政権が交代する直前の2014年10月17日、ユドヨノ前大統領により承認され、更に同日インドネシア共和国法として公布されたものです(参考写真②)。

この法律でインドネシア国内に流通する製品のハラール認証の取得が義務付けられ、認証の条件を満たさない所謂ハラーム製品についてはその旨を明示することが義務付けられました。当時の政治状況を鑑みると、台頭するイスラム原理主義派の主張をくみ取ったが故に、この様なやや保守派に肩入れした法律を採用するに至ったものと考えられます。

参考:https://www.youtube.com/watch?v=qps5lXNrwb0

参考写真②演説をするスシロ・バンバン・ユドヨノ前大統領(Getty images)

退陣間際のユドヨノ政権によるUU-JPH公布を以て、国内では賛否両論が巻き起こりました。特に、ハラール認証義務化から製品管理の厳粛化を予測した経営者協会からは大きく反発を受けたと言われています。この法律はインドネシア共和国憲法の下に位置付けられているUU(法律)の形で公布されましたが、実は一見厳しく規制されている様に見えて明確な罰則が適用される訳ではなく、実際はPP(Peraturan Pemerintah:政令)あるいはPerpres(Peraturan Presiden:大統領令)という形で公布されなければ、ほぼ施行されないに等しいくらい強い強制力がある訳ではないという実情があります。(参考写真③)。

そのため、UU-JPH反対派であり、そうした法事情を理解している経営者協会により、PPやPerpresでの公布を免れるよう、根回しが行われていたと言われています。このようにして最終的にUUの形を取り公布されたUU-JPHですが、やはり法の施工には時間がかかっており、先に紹介したBPJPHの設置が公布から3年後の2017年、具体的なハラール製品保証の実施はそこから更に2年後の2019年からであったということからも、インドネシアのなかでもこの法律の位置づけが伺えます。また、インドネシアの法律については、昨年9月に掲載しました「【コラム】インドネシアの法体系」で詳しく紹介しておりますので、ぜひご一読ください。

参考写真③インドネシアの法体系(インドネシア総合研究所作成)

公布時のスピードとは対照的に一向に進展がないUU-JPHの施行ですが、それにはジョコウィ政権の宗教に関する政治的特性が大きく影響しています。第二次ジョコウィ内閣の方針の一つに、「(イスラム)過激派の穏健化」(Deradikalisasi)というものがあるためです。

具体的には、元MUI重鎮のMahruf Amin氏を副大統領に任命したり、イスラム保守・急進派であり、大統領選で争った野党勢力のPrabowo氏を国防大臣として敢えて内閣に迎え入れたりすることで、過激派の牽制と政権の安定を図っていると見られています(参考写真④)。

その他にも、2019年から2022年の間にイスラム防衛戦線(FPI)のリーダーを裁判にかけFPIを解散させたほか、穏健派イスラム勢力ナフダトゥル・ウラマー(NU)出身のGus Yaqut氏を宗教大臣に任命するなど、穏健派であるジョコ大統領の過激派抑制の動きはあちこちで見られます。今回のハラール認証マークの改変もその一つの現れであると考えられるでしょう。

参考写真④ジョコウィ大統領(右から2番目)と手を組むPrabowo氏(左から2番目) (Getty images)

このように、イスラム過激派勢力を排除する時代に生まれたハラール認証保障法ですが、穏健派のジョコウィ政権でその社会的・政治的な影響力を抑える事が出来ています。ジョコウィ大統領の任期は2024年までと、後残り2年となっていますが、現在の政治運営のなかで過激派の動きをスマートに制御できているジョコウィ大統領は、2024年以降誰が大統領になってもインドネシアの政界内で内部分裂が起きないよう長期的なこの国の政情安定化の基盤作りに力を注いでいます。

揺れる世界情勢の中でこれからの成長が見込めるインドネシアへの進出は、派閥間の争いの抑制ができており、今後も政情不安のない政治基盤を有し、且つ多く人口が形成する大規模マーケットの魅力があると言えるでしょう。

弊社インドネシア総合研究所は、インドネシアと日本の架け橋となり、インドネシアへのビジネス展開を検討されている企業・個人事業者の方々のお手伝いをしております。是非お気軽にお問い合わせください。 

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