【コラム】インドネシアにおける加糖飲料の大量消費と規制動向
人の体はエネルギーを補給するために糖を必要としますが、お砂糖のたっぷり入った甘い飲み物が私達の体にもたらす健康被害については、日々医学者や栄養士により警鐘が鳴らされています。
世界トップ10の医療ニュースサイトであるMedical News Todayによると、心臓病、腸がん、膵臓がん、高血圧、高コレステロール、腎臓病、肝臓病、網膜、筋肉、神経へのダメージなど、砂糖の摂り過ぎによる危険性は計り知れません。
インドネシアにおいても、加糖飲料は、糖尿病や肥満など、非感染性疾患の原因の一つとなっています。また、加糖飲料が貧困層や子供でも簡単に且つ安価で入手できてしまう製品であることも、加糖飲料の高い摂取量に繋がっています。
インドネシア保健省は2020年より、財務省と連携し、加糖飲料に対する物品税の導入について協議を進めていますが、物品税の導入は果たして上述の様な問題の打開策となりえるのでしょうか。今回のコラムでは、インドネシアにおける加糖飲料規制の最新動向について、専門家によるウェビナーの政策提言から詳しくご紹介させて頂きます。
ヘルスケア健康・医療分野を中心とした各種調査研究を行っているインドネシアのシンクタンクCISDI(Centre for Indonesia’s Strategic Development Initiatives)は、2022年8月23日に「Public Discussion」と題したウェビナーを開催し、加糖飲料に関する規制の実施について政府へ一刻も早い協議を訴えました。
トピックは「パッケージにおける加糖飲料の制御の未来」です。同ウェビナーでは、保健省非感染性疾患予防管理局長のElvieda Sariwati氏、CISDI研究員のGita Kusnadi氏、ユニセフ栄養専門家のDavid Colozza氏、英国バーミンガム法科大学院博士研究員のCitta Widagdo氏がスピーカーとなり、講演を行いました。
ユニセフのColozza氏は、2020年のユニセフ調査データから、インドネシアにおける加糖飲料の消費量は世界的に見ても非常に多く、特に貧困層の間でHFSS (High Fat Sugar Salt: 高脂肪・高糖分・高塩分)食品または飲料の消費量が多いことを指摘しました。
背景として、インドネシアでは加糖飲料が非常に安価なため、低所得者から高所得者まで、誰でも手軽に消費することができること、更に不健康な食べ物や加糖飲料等の飲み物の手の込んだマーケティングが横行し、消費者の購買意欲を惹きつけていることが挙げられます。
中でも子供たちはHFSS食品や加糖飲料に曝されやすく、学校の食堂で売られている軽食の大半はHFSS食品と加糖飲料です。またそれらの飲食品に発がん性の高いサッカリンやシクラメートなどの人工甘味料が含まれていることも明らかになっています。
こうした状況はジャカルタ等の都市部だけに限らず、国家医薬品食品監督庁(BPOM)スマラン事務所が行なった調査では、中部ジャワの学童向けの飲食品や軽食の約66.7%が栄養・健康上の要件を満たしていないという結果が出ています。インドネシアにおける加糖飲料の大量消費が持つ国民の健康面に及ぼす悪影響は、同国政府が慎重に捉えるべき深刻な問題であるということが伺えます。
バーミンガム法科大学院のWidagdo氏は、加糖飲料の物品税規制を実施している国が既に世界で54カ国あることに言及しました。それらの国では、商品ラベルでの警告表示、学校での販売禁止、景品付きプロモーションの禁止、夜9時前のテレビコマーシャル放送の禁止など、幾つかの追加政策が実施されています。
一方規制のないインドネシアでは、民放テレビ局4局全てで、砂糖入り飲料の広告が広く放映されており、これらの広告の放映は、子供向け番組が放映される土曜・日曜の18:00-21:00に最も多く放映されています。そのため、インドネシア政府が本腰を入れてこの問題に対処するには加糖飲料の物品税の導入と併せて、例えば上述の様なテレビCMへの規制等、抜本的且つ徹底した複数の対策が必要であると考えられます。
CISDI研究員のKusnadi氏は、過去20年間でインドネシアにおける加糖飲料の消費量が15倍も増加したこと、それに伴い肥満や過体重が増加傾向にあることを指摘し、加糖飲料の物品税を直ちに導入する必要性を強く訴えました。
インドネシアは、国民一人当たりの加糖飲料の消費量が年間20.23Lと、東南アジアで第3位の加糖飲料消費国です。世界保健機関WHO は、安価であるが故に多くの低所得層にまで広く、大量に消費されている加糖飲料の販売価格を最低20%は引き上げる政策を実施するよう、2016年から度々インドネシア政府に勧告し続けています。
マレーシア、ブルネイ、タイ、フィリピンなどの近隣諸国では既に加糖飲料規制の優れた実践効果が検証されていることから、インドネシア政府も早期にそれら結果を出している他国の対応並の政策が必要なのではないでしょうか。
保健省非感染性疾患予防管理局局長のSariwati氏は、依然として大量の安価な加糖飲料が市場に出回り人気を博しているため、インドネシアにおける加糖飲料規制政策の実施への道のりは未だ長いとの見解を示しました。また物品税導入には1年以上の長い時間がかかることもその理由の一つです。
一方で、インドネシアでは加糖飲料の摂取を控えるような呼びかけを実施する啓蒙活動も行われているほか、今年に入ってからは保健省が財務省と加糖飲料の物品税について密に協議していることからも、何らかの規制が導入されるであろうことは間違いないようです。また大企業や組織など各方面からの協力無しには有効な加糖飲料の規制実現は難しく、彼らの反発を招かないためにも、現在インドネシア政府は各層の支持獲得に動いている模様です。
市場規模の大きな商品カテゴリーに規制を設けることは、経済的にブレーキをかける要因となりえるといったマイナスの影響と隣り合わせです。その点がインドネシア政府にとっても難しい舵取りとなるところです。
しかし国民の健康面の問題は政府として優先して対応すべき課題ではないでしょうか?
今回のコラムでは、インドネシアにおける加糖飲料の大量消費による健康被害から、規制実施の動向を詳しくお伝えさせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか。飲食が健康に与える影響は大きく、また非感染性疾患の症例数増加は政府や医療機関にも甚大な負担をもたらします。
上記の様な専門家の政策提言を踏まえ、今後インドネシア政府がどのような規制へ舵を切るのか、引き続き注目していく必要がありそうです。
インドネシアでは、様々な分野において法律が頻繁に改正されることが多く、特に健康・ヘルスケアに関わる分野は政府が重きを置いている分野であるため、常に最新の情報を確認する必要があります。
また、ヘルスケアに関しては、特に富裕層による関心が高く、日本風のピラティスやヨガなどの運動から、日本の自然派化粧品・健康食品などは、「日本ブランド」として非常に人気を集めやすいことも特徴です。
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