【コラム】インドネシアのコメ農家と最新コメ流通事情

インドネシアの食文化に欠かせない存在であるコメは、ナシゴレンのように主食として調理するだけでなく、揚げてスナックにしたり、製粉して餅やケーキのようなお菓子にしたりするなど様々な場面で食べられています。

インドネシアにおける2020年の米の年間消費量は一人当たり94.9kgで、これは日本の年間消費量56.5kgの約1.6倍です。

参考:https://ekonomi.bisnis.com/read/20200909/12/1289448/konsumsi-beras-ditargetkan-turun-177-juta-ton-pada-2024
http://www.nohken.or.jp/KOUENKAIKIROKU/No.8_2020/kobetsuPDF/2020-3_aoyagiitsuki.pdf

今回は、そんなコメ大国インドネシアのコメ生産を支えるコメ農家について、農業の形態と流通の構造に着目してご紹介します。

インドネシアにおけるコメ生産

まずは、インドネシアのコメ生産の現状について簡単にご説明します。
インドネシアにおけるコメの総生産量の推移は以下の通りです。

図:Databoks ”Volume Produksi Padi Indonesia (2012-2022)” より弊社作成
https://databoks.katadata.co.id/datapublish/2023/04/20/produksi-padi-indonesia-cenderung-menurun-dalam-10-tahun-terakhir
(最終アクセス:2023年6月13日)

インドネシア中央統計局(BPS)のデータによると、インドネシアの米の生産量は近年減少傾向にあります。
2017年まではかなり上昇傾向にありましたが、度重なる洪水や東ジャワのスメル山の噴火、害虫による被害などの自然災害が重なり、生産量の低下やほかの作物への切り替えにつながったとされています。
しかし、いまだインドネシアのコメ生産量は世界3位に位置しており、インドネシア政府はコメの完全な自給を食料安全保障の重要な施策の一つとしているため、今後も稲作はインドネシアの農業の中で欠かせない存在であり続けることが予測されます。

参考:https://www.cnbcindonesia.com/news/20220302084900-4-319433/produksi-beras-nkri-turun-kok-bisa 
(最終アクセス:2023年6月13日)

インドネシアにおけるコメの生産についてはこちらの記事でさらに詳しく解説していますので、こちらも合わせてご覧ください。

インドネシアのコメ農家

インドネシアにおける稲作の歴史ははるか昔にまでさかのぼり、8世紀ごろには稲作をしていたことがわかっています。伝統的な稲作の方法がいまだに残っており、伝統的な手法で手作業で行われる農業が主流です。

先述したバリ島などでは、限られた土地を最大限有効活用する手段として、棚田が伝統的に利用されてきており、観光スポットとして海外からの観光客から人気を博しているため、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

↓バリの棚田風景

コメ生産量世界3位を誇るインドネシアのコメ農家ですが、90%以上が小規模の家族経営となっています。その一戸当たりの平均的な作付面積は0.8ヘクタール程です。実はコメ農家に限らず、インドネシアの農家の93%が小規模家族経営で、主に都市部から離れた地方に集中しています。

日本の農業でも、同様に小規模の家族経営が多く、一戸あたりの作付面積の平均は1.43ヘクタールであるという点は、インドネシアと共通点がみられると言えます。

ただ、インドネシアの平均的な小規模家族経営の農場では、農場内での活動が年間収入に占める割合はわずか49% に過ぎず、これはアジアの小規模農家としては最も低い部類に入ります。
さらに、インドネシアのコメ農家には、知識の不足、インフラの不足、種子の質の低さなどの課題があることが指摘されてきました。

インドネシア政府は2000年代から対策を打ち出し、灌漑施設の整備や高価値の商品作物の栽培促進などの事業を実施しました。

その結果、生産量が伸び、コメ農家の生活も改善されました。一例として、年間に収穫できる回数の増加が挙げられます。赤道上に位置し熱帯雨林気候であるインドネシアは、一年を通して暖かく、雨季と乾季に分かれています。
そのため、雨季と乾季では雨量が異なっており、乾季には稲作をすることができませんでした。しかし、2000年代の灌漑施設の整備によって水量を調整できるようになり、年2回作付けができるようになった地域では収入の増加につながりました。

ただ、地域によって政策の実行度合いには差があり、いまだ農家の収益性や生産効率には課題が残っているのも実情です。

参考:
https://www.fao.org/3/I8881EN/i8881en.pdf 
https://www.indonesia-investments.com/id/bisnis/komoditas/beras/item183
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2020/04/200423-44040.php 
https://www.adb.org/publications/summary-indonesias-agriculture-natural-resources-and-environment-sector-assessment

インドネシアのコメ市場

インドネシアのコメ農家の収入に大きく影響しているのがコメの流通ルートと販売価格です。ここでは、インドネシアにおけるコメ流通の仕組みについて紹介します。

インドネシアの農作物流通市場は、仲介業者が非常に多く、サプライチェーンが長いのが特徴です。
農家が市場までの運送手段となる車を所有していない場合も多々あり、そのため仲買人を介した伝統的な形態の取引がいまだに重要なものとなっているのです。近年、インドネシアの都市部の大型スーパーマーケットなどでは農家との間で独自のサプライチェーンを構築している場合もありますが、一般に普及するには至っていません。

日本のコメの流通においては主に農家→農協→卸売業者→小売業者→消費者というような流れが一般的であることを考えると、以下に示したインドネシアのコメ流通経路の長さがより伝わるのではないでしょうか。

<一般的なインドネシアのコメ流通ルート>

こうしたサプライチェーンの長さによって、生産者価格と消費者価格の間に大きな開きがあることが指摘されているほか、また、流通全体の利益のうち、卸売業者と小売業者がそれぞれ 9.84 パーセントと 11.35 パーセントという高いマージンを獲得しています。

参考:https://www.fao.org/3/cb4979en/cb4979en.pdf (最終アクセス:2023年6月20日)

このような構造的な問題の解決には、既存のサプライチェーンの短縮などの必要性も指摘されていますが、それらに加えて、ECなどの新たな販路の可能性の検討もさらに重要になってくるでしょう。

現在インドネシアの農業技術や生産効率は、政府の施策や日本を含む諸外国の支援などもあり、徐々に向上しています。現時点ではまだ農家側に様々な問題が山積している状態ですが、こうした状況が改善し、さらに生産効率が向上すれば、国内需要を十分満たし、さらに有数のコメの輸出国になることも考えられるでしょう。

弊社ではインドネシアのコメに関するセミナーの実績もございます。
また、市場調査などもご対応可能ですので、ご興味をお持ちの方はお気軽にお問い合わせ下さい。

インドネシアのコメ生産に関する過去のコラムはこちらからご覧ください。


株式会社インドネシア総合研究所
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Tel: 03-6804-6702

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