【コラム】インドネシアの華人の歴史とビジネス①
皆さんは「インドネシア人」と聞き、その姿についてどのような印象をお持ちでしょうか?色鮮やかなヒジャブを綺麗に身に着けモスクで祈りを捧げる人、或いはプルメリアの花の髪留めと民族衣装を身に纏い、ゆったりとした自然の中で過ごす人など…様々なイメージが思い浮かぶことと思いますが、私達日本人と似た中国系のお顔を思い浮かべる方は少ないのではないでしょうか。
実はインドネシアは世界で最も華人が多い国で、その数は600万人から1000万人と言われています。(移民の土着化が進み中国系という人種の定義や自認が曖昧になったため、正確な数は不明)。一方、人口比率でみるとインドネシアの全人口に対する華人割合は僅か3%前後であり、インドネシアの華人は「世界的に見れば大規模な民族集団であるにも関わらず国内ではマイノリティ」という興味深い特徴があります。
今回のコラムではそんなインドネシアの華人について紹介していきます。
中国系移民の文化が混じって受け継がれてきたインドネシアの伝統料理ミーゴレン
そもそも「華僑(かきょう)」や「華人(かじん)」は何が異なるのでしょう。どちらも中華系移民を指す言葉として用いられていますが、一般的に「華僑」は中国系移民のうち移民先国の国籍を取得していない人のことを指し、「華人」は中国系移民のうち現地の国籍を持つ人を指します。華僑は落葉帰根、華人は落地生根というわけです。つまり、インドネシアの華人は、歴史・文化・血縁上は中国と繋がりがあるものの、れっきとしたインドネシア国籍を持つインドネシア人なのです。彼らの多くはマレーシア、シンガポール、タイ、ベトナムと同様、17世紀頃から19世紀に東南アジアに移住した中国南部の福建省出身者の子孫です。
現在のKota tuaに残るバタヴィア建築
17世紀に始まったオランダ植民地時代、オランダ人は華僑・華人を「東洋人」として特別視し、中国系商人を植民地当局と先住民の仲介者として利用しました。華僑・華人は商人や職人としてだけでなく、また農作物や税金の徴収に欠かせない仲介者としても、インドネシア全土で長い間重要な経済的役割を担っていたのです。華僑・華人はオランダ人と同等の扱いを受けることも、インドネシア先住民と同化することもない中立的な存在でした。
そして彼らは両者に経済的な脅威を与える危険な存在として、現地の人々からは反感や反植民地感情を、オランダ植民地当局からは注意や敵意を向けられていたのです。こうした族群対立意識が社会に存在する中、1740年にバタヴィア(オランダ植民地時代のジャカルタ)でオランダ植民地軍と先住民の攻撃により1万人以上もの中国系住民が犠牲になった「華僑虐殺事件(Geger Pacinan)」が発生しました。
この事件は18世紀植民地主義における歴史的な大事件の一つで、後世に渡り華僑・華人と他の民族集団を二分するきっかけとなった出来事と記されています。
中国系住民の大虐殺の様子
冒頭で現在のインドネシアの華人の人口を紹介しましたが、インドネシアでは、1930年にオランダ植民地当局によって民族集団を記録した最後の人口調査が行われて以来、2000年に当時のワヒド大統領によって華人(Cina)を含む民族(Suku Bangsa)の項目を設けた人口センサスが行われるまで、凡そ70年間民族集団別の人口調査は行われていません。1930年の調査では自身を華人であると回答した人の全人口に対する割合は2.03%であったのに対し、2000年の調査では僅か0.86%に大きく落ち込んでいます。
この数字の変化には、華人が自分たちを中国人として特定することを拒否し、中国系であるという民族的アイデンティティを放棄したという社会的背景が大きく影響しています。この空白の70年間、インドネシアではオランダ植民地支配の終結やインドネシア共和国としての独立等、様々な歴史的なターニングポイントがありましたが、植民地時代に不満の矛先を向けられながらも経済界における存在感があった華人に、この70年間で一体何があったのでしょうか。
マイノリティである華人に与えた具体的な影響や現状について、次回のコラムで紹介していきます。
華僑・華人の経済界における存在は数世紀にわたる確かなものであり、21世紀の現在も、インドネシア経済の民間部門は中国系が中心となっています。インドネシアでビジネスをする際は華人と接触することも多いでしょう。インドネシアでビジネスを展開するには、こうした背景を理解しておくことが欠かせません。
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