【コラム】インドネシアのカリマンタン、マルク、パプアにおける伝統市場活性化のインパクト分析①

Anggit Rizkianto on Unsplash

 伝統市場は、特にインドネシアのような発展途上国において、経済を牽引する重要な役割を担っています。そんな伝統市場の競争力を、成長著しい近代的な小売業に負けじと回復させるべく、インドネシアでは2015年から2019年にかけて、政府により伝統市場活性化政策が行われてきました。本コラムより、3回の連載に分けて、「カリマンタン、マルク、パプアにおける伝統市場再活性化の影響に関する伝統市場の概要 2022 年分析」(インドネシア中央統計局,2023)を基に、伝統市場の最新の姿を捉えるとともに、これまで行われてきた伝統市場活性化政策の影響を分析していきます。連載1回目の本コラムでは、伝統市場の概要、及び伝統市場活性化政策の背景や施工方法について詳しくご紹介いたします。


Devi Puspita Amartha Yahya on Unsplash

インドネシアにおける伝統市場の役割

 貿易は、インドネシアの経済に大きな貢献を与える支配的なセクターです。インドネシア中央統計庁(BPS)は、2022年第3四半期において、貿易部門が国内総生産(GDP)に占める割合は12.74%で、製造業、農業に次いで第3位であることを挙げ、この貢献は伝統な市場のような従来の取引施設における取引と切り離せないことを指摘しました。2007年インドネシア共和国大統領令第112号で述べられている様に、伝統市場は、政府規制の焦点である三大取引施設の1つです。インドネシアの伝統市場は、零細・中小企業(Usaha Mikro Kecil dan Menengah, MSME)の成長・発展を促進し、地域経済の持続可能性を支えることを可能にする伝統経済の共同体としての機能を持ち、日用品の流通におけるマーケティング・チェーンの一部であるほか、地方独自収入(Pendapatan Asli Daerah, PAD)であるとともに、幅広い雇用機会をもたらす場でもあります。このように伝統市場はインドネシア経済及び社会にとって非常に重要な役割を持つため、その整理と更なる発展が重要視されているのです。


Fikri Rasyid on Unsplash

調査背景及び調査概要

 一方インドネシアでは、ショッピングセンターやコンビニエンスストアといった近代的な小売業が、ここ10年で急成長を遂げています。便利で快適なショッピングセンター等の近代的な大型店に対する消費者の関心が高まり、伝統市場の存在が薄れ、消費者の伝統市場離れが進んでいるのです。こうした現状を受け、伝統市場の競争力を回復させるため、インドネシア政府は幾つかの措置を講じましたが、その一つが、2015年から2019年にかけて約5000の伝統市場を活性化させる政策、即ち伝統市場活性化政策でした。この政策は、貿易に関する2014年法律第7号に従い、伝統市場を清潔で安全、快適な取引施設とし、更に地域社会のニーズに沿ったより良いアクセスとサービスを提供できるようにすることを目的としています。そして、その結果分析として、本コラムで紹介している伝統市場の概要2022年分析調査がカリマンタン、マルク、パプアの各州に限定し行われました。本調査は、インドネシアのジャワ、バリ、ヌサ・トゥンガラ(総称ジャバルヌスラ)における伝統市場調査2021の後プロジェクトとして行われたものです。一連の調査結果は、インドネシア国家基準に基づく伝統市場の概要と、市場管理者、商人、消費者の認識によるその実現可能性を提示するほか、物理、経済、経営、社会文化という4つの観点で測定される市場活性化指数によって、伝統史上活性化政策の影響を示すものとなっています。インドネシア国家開発企画庁、貿易省といった多くの関連ステークホルダーは、この分析結果から、対象となった伝統市場の物理的・非物理的条件の発展を評価し、インドネシア全体における伝統市場の今後の更なる発展を強化させていく方針です。


Irham Setyaki on Unsplash

伝統市場の概要

カリマンタン、マルク、パプアの伝統市場で売られている主な商品は、食料雑貨・生活雑貨(北カリマンタンとパプアでは農作物・プランテーション製品)です。これらの伝統市場では、キオスク(壁で仕切られきちんと構えられた店)とロス(商品を並べただけの屋台)が中心となっています。各地方自治体は、貿易大臣規則第70/M-DAG/PER/12/2013第2章第3条に従い、これらの伝統市場とショッピングセンター等の近代的小売店の数と距離を決めています。カリマンタン、マルク、パプアの伝統市場の80.39%は、最も近い近代的小売店から0.5km以上の距離を保っています。

カリマンタン、マルク、パプアの伝統市場では、経営者及びオーナーの81.77%を男性が占めています。男性経営者の平均年齢は47歳、女性経営者の場合は46歳です。男性経営者では高等学校卒が43.92%と最多なのに対し、女性経営者の場合は大学卒が最多で69.70%と、数少ない女性経営者には高学歴者が多いことが分かります。伝統市場に従事する清掃員やセキュリティ、運営スタッフ/管理人等になると、男性が占める割合は71.21%に下がります。特に、運営スタッフ/管理人は男性59,84%、女性40.16%と、男女比は凡そ3:2です。一方、販売員になると、女性が占める割合は57.93%へと上がります。販売員の平均年齢は男性が43歳、女性が44歳です。消費者においては、女性の割合が72.28%と非常に高く、その多くが40歳前後となっています。以上のことから、カリマンタン、マルク、パプアの伝統市場では、経営者→その他伝統市場従事者→販売員→消費者の順に、男女比が男性中心から女性中心となる構造をとっていることが分かります。

カリマンタン、マルク、パプアの伝統市場全体では、61.05%が各市場についての管理データを作成・管理しています。管理データとは、販売所/店/キオスク/ブース/屋台/その他不法占拠者等の数に関する管理記録及び報告書のことです。一方で、パプアと西パプアのみに注目すると、70.93%の伝統的市場では、こうしたデータ管理が行われていません。伝統市場活性化政策では、買い物の利便性の向上等物理面での改善だけではなく、こうしたデータの管理を含む、伝統市場管理・運営の在り方も、改善が求められる課題として挙げられています。


Airdone on Unsplash

伝統市場活性化政策の施行方法

 伝統的市場の競争力を回復させるべく施行されたこの伝統市場活性化政策では、2015年から2019年まで、共同管理基金(Tugas Pembantuan, TP)と特別配分基金(Dana Alokasi Khusus, DAK)が各伝統市場に支給されました。共同管理基金(TP)とは、政府から地域または村落へ、州政府から地区または市町村へ、地区または市町村から村落へ、特定の任務を遂行させるために支給される基金のことであり、受給側はその任務の遂行状況について譲渡側に報告し、責任を負う義務があります。特別配分基金(DAK)は、州政府から年次財政計画に基づき特定の地域に配分される資金で、地域の問題を解決するための活動、且つ国の優先順位に沿った特別な活動に資金を提供することを目的としているものです。伝統市場活性化政策は2015年から2019年に渡り5年間かけて行われましたが、TP、DAKを基にして行われた伝統市場の活性化活動の74.3%は、一年目に行われました。2年目以降も続いた活動は10%前後に止まっています。この事から、政府からの給付金が付与されて一年目以内に、多数の改善活動が着手され、特に比較的短期間で改善できる伝統市場の物理的改善が多くなされたことが読み取れます。


Andrea Huls Pareja on Unsplash

本コラムでは、2014年法律に基づき2015年から2019年にかけてカリマンタン、マルク、パプアにて行われた伝統市場活性化政策及びその調査について、同政策の背景及び概要、伝統市場の概要、調査概要について詳しく紹介いたしました。次回のコラムでは、伝統市場活性化政策により同地域の伝統市場が具体的にどのように変化したのかをご紹介させていただきます。弊社インドネシア総合研究所のコラムでは、インドネシアの最新の統計データを基に、様々な産業分野における現地の最新事情をご紹介しております。他のコラムも是非合わせてご覧くださいませ。また、コラムで取り扱った内容に関連する事業に関するお問い合わせやご相談も受け付けております。ご関心をお持ちの方は、是非お気軽にお問い合わせフォームより弊社インドネシア総合研究所へご連絡くださいませ。

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