【コラム】インドネシアのカリマンタン、マルク、パプアにおける伝統市場活性化のインパクト分析②

前回のコラム「インドネシアのカリマンタン、マルク、パプアにおける伝統市場活性化のインパクト分析①」では、2015年から2019年にかけてインドネシアで行われた伝統市場活性化政策、及び伝統市場の概要についてご紹介いたしました。まだご覧になっていない方は、是非そちらのコラムもご覧ください。連載2回目となる今回のコラムでは、同活性化政策による変化について、カリマンタン、マルク、パプア地域を対象としたインドネシア中央統計局の調査結果を基に、詳しく分析していきます。

全体的な変化

インドネシアの伝統市場活性化政策の効果は、貿易施設の開発と管理のガイドラインに関するインドネシア共和国通商大臣規則2019 年第 02 号第 19 条第 1 項に基づき、市場活性化指数というものを用いて図られています。市場活性化指数は0から100のスケールで、物理、経営、経済、社会文化の 4 つの側面に分類され割り出されています。物理的側面は、建物、施設、支援インフラの物理的状態の改善度合いに基づいて算出されたものです。経営的側面は、その市場のマネジメント方法、管理データの記録管理、ゾーニング(市場内の空間を目的別且つ効率的に区分けすること)の実施、販売員の育成及びエンパワーメントなど、市場管理の実践度合いに基づいて割り出されたものです。経済的側面は、商品回転率(一定期間において店舗の商品在庫が何回売れたか)、売上高、消費者数、賃料、土地賦課金(地方政府が伝統市場から徴収し伝統市場のために使われる税金)などにおける変化に基づいて計算されたものです。社会文化的側面は、市場で発生する社会的相互作用、市場で買い物をする際に消費者が体感する地域の伝統や知恵といった文化的価値、消費者から寄せられる信頼感、利便性や安全性などに基づいて推定されたものです。調査の結果、伝統市場活性化政策の前後で、カリマンタン、マルク、パプアの伝統市場では、市場活性化指数が45.16ポイントから51.61ポイントまで上昇したことが分かりました。また、市場活性化指数において各側面のウエイトが全体に占める割合は、以下の図の通りです。

市場活性化指数において各側面のウエイトが全体に占める割合(弊社作成)
(Statistics Indonesia p67/137より)

物理的側面における変化

上の図からも分かるように、インドネシアの伝統市場活性化政策にて、最も大きな改善がなされたのは物理的側面でした。カリマンタン、マルク、パプアの伝統市場では、従来のインフラ設備が大幅に改善され、より清潔で快適なものになったことが報告されています。具体的には、店同士の仕切りがない状態からコンクリート壁の導入へ、仮設屋根から常設屋根へ、土埃の舞い上がる床から乾いた清潔な床へといった改善や、ゾーニングの実施、営業日数の増加、店舗面積の拡大、通路の拡大などです。活性化を経て、以前は存在しなかった施設やインフラが利用できるようになり、市場の利便性が向上したことが明らかになりました。
一方、本来売上向上や業務効率化のために行われるべきゾーニングですが、調査の結果、同地域では各店舗の賃貸価格の違いによって市場フロアやエリアが分類される傾向にあり、商品カテゴリ別に分類することは稀であることも明らかになっています。経営者や管理者のためだけでなく、消費者の利便性を考慮した物理的な改善の必要性が指摘されています。
その他のインフラ整備においても、いずれも設置数は上昇しています。詳しくは以下の図をご覧ください。

伝統市場活性化前後における各インフラ設備数の変化(弊社作成)
(Statistics Indonesia p51/137より)

経営的側面における変化

続いて、経営的側面における変化を見ていきましょう。
伝統市場活性化の前後で、カリマンタン、マルク、パプアの伝統市場にて確立した市場マネジメント体制を持つ割合は全体で61.94%から66.64%へと上昇しました。そのうち特に大きく改善が見られたのは、適切なマニュアルに沿った市場の管理体制(78.40%)、賃料や土地賦課金等を含めた適切な会計処理(76.60%)、その市場において商売を行う店舗の種類や数、具体的な商品等の適切なデータ管理(76.20%)、新型コロナウイルス蔓延防止対策の積極的導入(76.20%)の4つの項目です。
インドネシアの伝統市場活性化を経て改善が見られた経営的側面ですが、市場のマネジメントがより秩序立ったものになるよう、管理体制の整備に続き、管理データの利用可能性の再編成も重要です。そのために、経営者及び管理者など市場の管理職従事者の教育が必要となります。一般的に経営者の教育水準と経営指標には関係性があることが言われていますが、調査によると、現在カリマンタン、マルク、パプアの伝統市場における管理職従事者の11.12%が低学歴(小学校卒以下)です。整った管理体制下で収集した管理データをより効率的に活用して行くために、管理層の教育及びトレーニングの必要性が今後の課題として挙がっています。

経済的側面における変化

続いて、インドネシアの伝統市場活性化において経営的側面とほぼ同率で比重が置かれた経済的側面について見ていきましょう。伝統市場活性化政策を経て、伝統市場における各店舗の59.69%が、商品価格の変動は以前より安定し良好になったと回答しました。また、銀行やマイクロファイナンス(貧困層や低所得者層向けの、小規模の貸し付け・貯蓄・保険・送金などの金融サービス)等、何かしらの資本へのアクセスを持つ伝統市場の数も14.76%増加しています。一方、所属する自治体外での売上高は3.09%上昇に止まり、オンラインショッピング機能を提供している市場は多くないことから、市場のデジタル化が今後の課題として指摘されています。
その他、伝統市場活性化政策が経済的側面にもたらした代表的な変化は以下の通りです。

伝統市場活性化政策後の経済的側面における変化(弊社作成)
(Statistics Indonesia p61/137より)

社会文化的側面

最後にご紹介する社会文化的側面は、残念なことに、伝統市場活性化政策の中で結果としてウエイトが8.78%と最小となった項目です。伝統市場活性化後の物理的側面・経済的側面・経営的側面での発展は比較的良好であるものの、消費者という社会的側面への配慮が欠けていたことが今回の調査にて明らかになりました。しかし、ショッピングモールやスーパーマーケットなどの近代的な小売店が台頭する中で伝統的市場を存続させ続けるためには、消費者の存在は不可欠です。そのため、各伝統市場が属する地域の文化、社会集団、社会階級、家族構成等の特性を鑑み、消費者行動を重視した市場へと発展することが、今後優先的に改善されるべき点として挙げられています。
それにおいて、地方自治体の役割が重要視されています。経済的側面における活性化指数算出の要素の一つである土地賦課金は、最終的に地域のため、即ち消費者に還元されなくてはなりません。地方自治体が、消費者は伝統市場活性化に重要な役割を持つコミュニティーの利益享受者であることを認識し、インドネシアの伝統市場の生態系インフラを改善することにより、人々から徴収された資金がそれに見合った成果と利益を提供できるようにすることが必要とされています。

連載2回目となる今回のコラムでは、2015年から2019年にかけて行われたインドネシアの伝統市場活性化政策が、カリマンタン、マルク、パプアの伝統市場にもたらした具体的な変化について、物理的側面、経営的側面、経済的側面、社会文化的側面の4つの観点別にご紹介いたしました。調査の結果から、同地域においては、物理的側面における活性化が依然として重要な要素であり、市場にとって基本的なニーズであることが読み取れました。経営的側面や経済的側面にもポジティブなインパクトをもたらした市場活性化ですが、これらの改善が有効に活用されるように、より優れたマネジメントのための有能な管理者の育成、即ち経営的側面の更なる強化が重要です。また調査では、上記3つの側面と比較すると、社会文化的側面における改善が低迷している現状も明らかになりました。

インドネシアの伝統的な市場を、快適で安全とポジティブなイメージを持つ魅力的なショッピングスポットに生まれ変わらせることは、伝統的な市場を愛するインドネシアの地域住民の願いでもあります。社会文化的側面における活性化を促進し、管理者、市場関係者、消費者の相互作用を高め、伝統市場のエンパワーメントを後押しして行くことが今後の課題となりそうです。各側面の調和による、地域経済基盤としての伝統的市場の機能回復や、地域社会の福祉向上も期待されています。

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