【コラム】インドネシアの国会で可決されたオムニバス法案(雇用創出法)とは何か?続編

2020年10月5日に可決された「雇用創出法」について、労働者の処遇と外資規制に関連する部分については、既に弊社コラムでご紹介しましたが、今回は、「外国人による不動産所有」及び「環境関連規制」に関連する部分について、ご紹介いたします。

参考コラム:

 

本題に入る前に、同法に対する反対運動がインドネシア全土で加熱する状況については各種報道にある通りですが、ジョコウィ大統領が、「同法は、インドネシアが経済成長を加速するために担う必要のあるリスクである」という見解を公表していることをご紹介しておきます。

基本的な考え方としては、インドネシアの労働者の大多数(70~80%)は(教育レベルの低い)非熟練労働者である以上、雇用機会を急激に増やすためには、「過剰な規制」と呼ばれるものを撤廃し、特に国際的に認められた「ビジネスのし易さを示す指標(the Ease of Doing Business index)」を劇的に改善する必要がある、というものです。

同法の適法性に関して疑問が表明されている点については、「SNSを通して偽情報を拡散して国民の不安をあおるのではなく、法的な問題については憲法裁判所での合憲性審査等に訴えて争うべきである」という立場を政府は強調しています。

ただし、実際に合憲性審査が行われると、同法の違憲性が証明され、撤廃されてしまうと指摘する専門家もいます。

参照:https://bisnis.tempo.co/read/1396751/cuitan-jokowi-soal-dukungan-bank-dunia-terhadap-omnibus-law-berkembang-viral
https://www.thejakartapost.com/paper/2020/10/18/jokowi-not-afraid-to-take-risks-with-jobs-law.html

↑オムニバス法案に反対しデモを行うインドネシアの人々

 

不動産の外国人による所有について

従来、外国人による(集合住宅等の)区分所有権の保有は、インドネシア国内に住所を有する外国人の住宅の所有又は占有に関連する法律2015年第103号にて規定されていました。

 

具体的には、同法第2条にて以下のように定められていました。

 

法律2015年第103号 第2条

1. 外国人は、使用権という権利形態で、住居を所有又は占有できる。

2. 本条第1項にて規定する、インドネシアに居住し、家屋又は住居を居住できる外国人とは、インドネシアの法規制に基づき、一時居住許可を保有している外国人のことである。

3. 本条第2項にて規定する家屋又は住居は、外国人が死亡した場合、相続することができる。

4. 本条第3項にて規定する相続人が外国人の場合、当該相続人はインドネシアの法規制に基づき、一時居住許可を保有していなければならない。

 

従って、今までは「完全な所有権」とは区別される、「使用権」というカテゴリーの権利しか保有できない状態でした。今回の雇用創出法では、外国人の区分所有権に関する規定が以下のように変更されました。

 

雇用創出法 第143条

集合住宅の各ユニットに関する所有権は、区画された個別平面に関する所有権であり、共有部分、共有対象物、共有地への共同の権利を伴った権利である。

 

雇用創出法 第144条

1. 区画された個別平面への所有権は、以下のものに付与されることができる:

a. インドネシア市民

b. インドネシアの法人組織

c. 法律の定めに従い、適正な許可を持つ外国市民

d. インドネシアに代理組織を持つ外国法人組織

e. インドネシアに所在する、又はインドネシアに代理組織を持つ、外国の代理組織及び国際機関

2. 集合住宅の各ユニットに関する所有権は、移転されることができ、あるいは担保として設定することができる。

3. 集合住宅の各ユニットに関する所有権は、法規制の定めるところに基づき、住宅ローンの担保に供することができる。

 

雇用創出法 第145条

1. 集合住宅は、以下のような土地に建設することができる:

a. 国有地における建設権、又は使用権;あるいは

b. 運用権を設定した土地における建設権、又は使用権。

2. 本条第1項の項目aにて規定された集合住宅用の土地に関する使用権は、資格認定書を取得することにより権利の延長を与えられる。

3. 本条第1項の項目bにて規定された集合住宅用の土地に関する使用権は、資格認定書を取得することにより権利の延長及び更新を与えられる。

 

上述の144条にあります通り、外国人でも一時居住許可があれば、集合住宅の区分所有権を取得することができることになりました。

 

環境関連規制について

環境に関連する基本的な法規制としては、環境の保護と管理に関する法律2009年第32号がありましたが、同法の幾つかの条項が雇用創出法において改訂されており、そうした変更条項の一部は大きな反対を引き起こしています。

雇用創出法第21条では、環境に関連したビジネス上の許可を取得しやすくするために、2009年第32号法令の諸条項について、改訂あるいは削除する旨が説明され、同法22条以下で具体的な条項の改訂が示されています。

今回の改訂の中で特に重要なのは、各種ビジネス・ライセンス取得の前提となっていた環境影響評価(尼語:AMDAL)に関する基本的な考え方が以下のように改訂されたという点です。

以下の点は、環境保護団体などから最も重大な批判を集めているポイントでもあります。

1. 環境保護そのものは、製造業などビジネス上の意思決定の一部とは見なされない。

2. 企業活動に関連する環境関連許可を当該企業が取得する形式が、環境に影響を与える企業活動が政府によって認可される形式に変更される。

3. 環境影響評価の調査を必要とする活動を定める、9つの基準が削除された。

4. 環境影響評価は、政府機関が実施することとし、企業が第三者機関を雇用して実施することはない。

5. 環境影響評価委員会は解散する。

6. 投資に関する環境上の実行可能性関連情報へのパブリックなアクセスは廃止する。

7. 環境保全的観点からの企業の監視と行政処分の実施は中央政府の責任において実施する。

8. 行政処分の種類に関する条項は法令から削除される。

9. 企業活動による環境破壊を訴追する道が閉ざされる。

 

上記③にあるように、環境影響評価の必要性を規定していた9つの基準が廃止されることになりますが、今まで評価を必要としていた活動は以下の通りです。

1. 土地及びランドスケープに変化を与える活動

2. 再生可能であるか否かに関わらず、天然資源の利用を伴う活動

3. 環境汚染を引き起こす可能性のあるプロセス及び活動、及び/又は天然資源の利用において、環境への悪影響及び資源の規模縮小を引き起こす可能性のある活動

4. その結果が、自然環境、人工的環境、社会及び文化的な環境に影響を与える可能性のあるプロセス及び活動

5. その結果が、天然資源及び又は文化遺産の保全エリアに影響を与える可能性のあるプロセス及び活動

6. 植物、動物、及び微生物を新たに導入する活動

7. 生物学的、非生物学的資材の製造及び使用

8. 国家の安全保障に影響を与える、又はその可能性のある活動

9. 環境に対して大きな影響を与える可能性のある技術の応用

 

今回の改訂の大きな特徴の一つは、環境に関する認可を与える主体が、従来の地方政府から中央政府に移管されるという点です。

例えば、2009年第32号法令の第20条第3項では、以下のように規定されていました。

 

法律2009年第32号 第20条第3項

以下の条件が満たされる場合、廃棄物の環境への放出が認められる。

・環境基準に適合していること

・環境省、州知事又は市長/県知事から権限に基づく許可が与えられていること

 

雇用創出法による改訂

以下の条件が満たされる場合、廃棄物の環境への放出が認められる。

・環境基準に適合していること

・中央政府から許可を受けていること

 

環境関連規制に関しては、基本的に中央政府による審査・認可に一元化されるという方針が明確に見て取れます。

しかしながら、広いインドネシア全土の廃棄物について、中央政府が一元的に許可を発行するという仕組みの運用上の困難が懸念されます。

さらに、2009年第32号法令の中でも特に有名な、同法第88条も改訂されています。この条項は、「絶対責任条項」と呼ばれていましたが、その中身は、「特定(B3)の産物を利用する活動又は特定(B3)の廃棄物を算出する、及び/又は環境に甚大なる脅威を与えるものは、その過失が証明されなくとも、生じた損害に対して絶対的責任を負う」というものでした。

改訂後の条項は、「特定(B3)の産物を利用する活動又は特定(B3)の廃棄物を算出する、及び/又は環境に甚大なる脅威を与えるものは、その事業及び/又は活動に起因する損失に対して絶対的な責任を負う」となっています。

良く知られているのは、この第88条は、森林破壊や森林火災を引き起こしたものを取り締まるために政府が利用していた条項であり、環境省はこの条項に基づいて、環境破壊者から18兆ルピアに上る補償金を引き出す評決を得てきた、という事実です。

すべての評決が執行されているわけではないとはいえ、同条項が環境関連法令の規制力を担保してきたと認識されている以上、これが改訂されることによる影響が心配されていることも事実です。

雇用創出法につきましては、可決後の条文の修正について違憲の疑いが指摘されており、実際に憲法裁判所での違憲性審査に持ち込まれるのか、など今後の動向を注視して行く他ない状況となっています。

インドネシアは規制が分かりづらく、更に変更・改正も多いため、最新の正しい情報が取得が難しいのが現状です。

インドネシアでの調査やインドネシアの最新情報については弊社までお気軽にお問い合わせください。

 

株式会社インドネシア総合研究所
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