【コラム】インドネシアの漁業人材育成と教育機関

近年日本の漁業は若手人材不足と高齢化に直面していますが、そんな中で存在感を示しているのが、インドネシアからの漁業技能実習生や特定技能人材です。

実は、日本の漁業技能実習生の約99%はインドネシア人で占められていると言われており、技能実習生以外のマルシップ漁船と呼ばれる外国人船員を乗せた日本の漁船でも多数のインドネシア人が活躍しています。

とりわけ、技能実習制度では、水産業は他の職種と比べても技能実習生側にもメリットがあるため、就労が進んでいるようです。一般的に技能実習生は日本での実習で学んだことをインドネシア帰国後に生かしづらいという課題もあり、制度本来の技能移転や人材育成といった目的が果たされていないこともあります。しかし、漁業分野のインドネシア人技能実習生の場合は、日本からインドネシアに帰国した後も漁業に従事し、日本で得たスキルを活かしてキャリアアップしているケースが多く、技能実習制度が本来の人材育成事業として機能しているのです。

日本の漁業分野でますますの存在感を見せるインドネシア人材ですが、その背景には、インドネシア全土に広がる、水産高校をはじめとした水産業系の職業教育機関の存在があります。
今回の記事では、インドネシアからの漁業技能実習生を輩出する水産高校及び水産系の職業訓練校について、インドネシアの主要な学校をご紹介しながら説明します。

インドネシアの海洋・水産系教育機関の概要

インドネシアの海洋・水産業人材の育成は中等教育と高等教育に大別され、中等教育としては水産高校(SUPM)、漁業教育訓練センター(BPPP)、高等教育としては水産大学(STP)、海洋水産ポリテクニック(Politeknik KP)、海洋水産コミュニティーアカデミー(AK-KP)などが存在します。(ポリテクニックとはインドネシア独自の教育機関で、中間管理技術者の養成を目的とした専門性・実用性の高い教育を行っており、大学卒と同じ扱いになります。)
こうした水産分野の公立の教育機関はインドネシアの海洋水産省が管理しています。

1万3千以上の島から構成される島嶼国であるインドネシアは、海洋面積も広く漁業も盛んです。インドネシア政府は今後一層漁業を発展させ、産業規模を拡大させていくために、人材の育成にも力を入れています。政府の取り組みの一環として、水産高校などを含む公立学校では授業料の減免などが行われています。こうした施策を通じて、経済的に恵まれない学生も高いレベルの技能を身につけられるようにすることで、貧困から脱却する機会となることも期待されています。

各教育機関にはそれぞれ様々な水産関連の教育プログラムが用意されており、学生たちは専攻を選択して学びます。専攻の例としては以下のようなものが挙げられます。

  1. 海洋漁業・航海技術
  2. 海洋水産工学
  3. 水産物加工
  4. 漁業普及
  5. 水産養殖技術
  6. 水産資源管理

中等教育、高等教育の間で専門性には差があるほか、学校によって学べる専攻の選択肢は異なりますが、こうした海洋・水産分野の教育機関は、専門性の高いエリート人材を輩出していると言えるでしょう。

インドネシアの主要な海洋・水産教育機関

画像出典:Politeknik KP Karawang (https://poltekkpkarawang.ac.id/home/)

先述したように、インドネシアの水産分野の公的教育機関はインドネシアの海洋水産省によって管理されています。その他に私立の水産高校なども存在していますが、公立の教育機関の方が総じてレベル、人気共に高いようです。公立の海洋・水産分野の教育機関のうち、主要な水産高校、漁業訓練センター、ポリテクニック、水産大学は以下の通りです。特に、以下に挙げた水産高校とポリテクニックは、海洋水産教育センター(PPKP)の傘下にある特にレベルの高い教育機関となっています。インドネシア全国、様々な島に広く分布しており、多くがその特質上沿岸部に位置しています。このほかにも、多く水産系の学校が全国に存在します。

①中等教育機関
・ラドン水産高校 (アチェ)
・パリアマン水産高校 (西スマトラ)
・コタアグン水産高校 (ランプン)
・テガル水産高校 (中部ジャワ)
・ポンティアナック水産高校 (西カリマンタン)
・ボーン水産高校 (南スラウェシ)
・ウェヘル水産高校 (マルク)
・ソロン水産高校 (西パプア)

・ベラワン漁業教育訓練センター (北スマトラ)
・スカマンディ機器トレーニングセンター (西ジャワ)
・テガル漁業教育訓練センター (中部ジャワ)
・バニュワンギ水産教育訓練センター (東ジャワ)
・アールテンバガ漁業教育訓練センター (北スラウェシ)
・アンボン漁業教育訓練センター (マルク)

②高等教育機関
・カラワン海洋ポリテクニック (西ジャワ)
・ソロン海洋ポリテクニック (西パプア)
・ビトゥン海洋ポリテクニック (バンテン)
・クパン海洋ポリテクニック (東ヌサトゥンガラ)
・パンガンダラン海洋ポリテクニック (西ジャワ)
・シドアルジョ海洋ポリテクニック (東ジャワ)

・ジャカルタ海洋大学 (ジャカルタ)
・ボゴール海洋大学 (西ジャワ)

参考:https://edukasi.sindonews.com/read/862837/211/sederet-sekolah-kedinasan-perikanan-di-indonesia-lulusan-banyak-diminati-perusahaan-asing-1661137705?showpage=all (最終アクセス:2023/10/20)
https://sekolahkedinasan.net/sekolah-usaha-perikanan-menengah/(最終アクセス:2023/10/20)
https://sippn.menpan.go.id/instansi/172610/badan-penvuluhan-dan-pengembangan-sumber-daya-manusia-kelautan-dan-perikanan/pusat-pendidikan-kelautan-dan-perikanan 
(最終アクセス:2023/10/20)

インドネシアの漁業人材育成の課題と日本での就労

水産高校など教育機関の整備が進み、人材の育成が順調そうに見えるインドネシアですが、そうした教育機関を就労した人材には国内の就労には課題が残っています。卒業生は専門性の高い技術や知識を習得していながら、インドネシア国内でスキルを生かして就労できる機会が十分でないという状況に陥っているのです。インドネシアでは労働集約的な産業が多数残存しているため、水産高校やそれ以上の教育を修了した卒業生は高学歴すぎるとして雇用を忌避される場合すらあるようです。

こうした現状から、インドネシアの水産高校などの卒業生は、相対的に賃金が高い海外での就労を目指す状況にあります。そうした流れの中で、日本の技能実習制度にも優秀なインドネシア人材が集まっているのです。加えて、インドネシアから漁業人材の多くは、水産高校などに入学した時点から漁業で生計を立てることを選択しているため、帰国後に経験を活かし漁業関連での起業や技術者として活躍を目指すケースが多くなっています。また、技能実習生として来日したのち、特定技能人材としてビザを更新し日本で長期間就労することで、日本人船員と同様に高いスキルを身に着けて重要な業務を担うインドネシアの人材もいます。

日本の漁業が慢性的な人手不足に直面する中、インドネシアで海洋・水産に関する教育を受け海外で働くインドネシア人材の重要性は今後ますます高まっていくでしょう。日本政府も、労働力としての外国人人材の受け入れを今後ますます進めていく方針です。特にインドネシアを含む東南アジア諸国に対しては、日本政府も人材面での交流を重視しています。今年9月にジャカルタで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会合では、岸田首相が今後3年間で5千人を対象にインフラ、デジタル、海洋、電力供給などの分野の人材育成を行うことを表明しました。

また、業種によっては賃金の未払いやパワハラなどの人権侵害が長らく問題になってきた技能実習制度や、特定技能制度について、日本政府は今後運用の適正化のため制度見直しを行う方向です。労働環境の改善が実現されれば、人材面での日本と海外の結びつきはますます深まっていくと考えられます。

参考:https://www.sankei.com/article/20230906-DDJNTWTR7JJRNFMNWMOCNBFSAY/ (最終アクセス:2023/10/20)
https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/845/ (最終アクセス:2023/10/20)

弊社インドネシア総合研究所では、皆様のインドネシアでの水産関連事業の展開をお手伝い致します。また、弊社代表のアルビーはインドネシアの国軍附属高校出身で政府関係者や海軍とも結びつきがあり、インドネシア海洋水産省への訪問・意見交換などでも実績がございます。インドネシアでの水産業ビジネスや調査へご興味をお持ちの方は、是非お気軽に弊社インドネシア総合研究所へお問合せくださいませ。

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