【コラム】最近のインドネシアの映画産業の動向(2022年)

過去のコラムでもご紹介しましたが、近年のインドネシアの映画産業は右肩上がりの成長を続けていました。2019年には映画館の来館者数が6000万人を突破し、前年比15.4%増を記録しています。

特に、レバランの時期は映画館にとっての書き入れ時で、多くの家族連れで賑わいを見せていました。2020年も、1月から3月にかけて1,250万人が映画館を訪れており、この流れが継続すると見られていました。

ところが、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う活動制限により、2020年は3月から10月にかけて、また2021年も7月から9月にかけて、インドネシア国内の映画館は営業停止を余儀なくされました。映画館のみならず、映画制作に関わる人々にとって、パンデミックが大きな打撃となったのは想像に難くありません。

今回のコラムでは、最近のインドネシアの映画産業の状況についてお伝えします。

参考: https://www.thejakartapost.com/life/2020/05/08/how-covid-19-is-affecting-indonesian-cinema.html
https://katadata.co.id/maesaroh/indepth/612c3258038ce/nasib-film-indonesia-usai-terpukul-covid-seperti-turah-atau-gundala

インドネシアの映画館の現在の営業状況

まずは、インドネシアの映画館の現在の状況について見てみましょう。

2021年12月現在、インドネシアの映画館は以下のようなルールのもとで営業されています。

・観客数は定員の50%まで
・観客の年齢制限(12歳以上)※一部の劇場では保護者同伴なら12歳未満も入場可能。
・飲食禁止 ※一部の劇場では販売再開。
・「PeduliLindungi」(ワクチン接種状況等を入力するアプリ)を使用すること。

上記のアプリで、カテゴリーがグリーン(ワクチン接種完了)もしくは、イエロー(1回目の接種完了)に分類されている観客が入場可能となっています。

一時期は入場制限が定員の25%だったことを鑑みると、感染状況やワクチン接種状況をふまえ、映画館に対する制限は以前よりやや緩和されていることがうかがえます。ただし、今後の状況によっては再び厳しい規制が行われる可能性も否定できません。

参考:https://www.traveloka.com/en-id/explore/activities/panduan-nonton-di-bioskop-selama-pandemi/96521
https://www.cgv.id/en/events/all
https://21cineplex.com/movie-news

動画配信への転換

外出制限下で厳しい状況におかれた映画業界ですが、動画配信サービスへの転換が活路となっています。コロナ禍において、インドネシアにおいても自宅で動画配信サービスを利用する人が激増しました。2021年、インドネシアの動画配信サービス普及率は16%、収益は4億1100万USドルに達すると見込まれています。また、2025年には、その普及率が20%にまで成長すると予想されています。

一方で、インドネシアでは外国映画の比率が高い上に、「違法ダウンロード」が幅をきかせているという問題も残っています。

インドネシア政府は、インターネット上で配信される映画への検閲などについてルールを定め、映画産業の保護や動画配信サービスの普及を後押しする方向に動き始めています。ただ、膨大な量の動画数に対し、検閲が追いついていないのが現状です。

インドネシアでは、公開される映画は映画検閲庁(LSF)により検閲を受けることになっています。しかし、2020年に動画配信サービス上で公開されている映画で検閲を受けたのはわずか599作品で、全体の1.5%にとどまっています。動画配信サービスは今後も継続的に伸びていくと予想されており、検閲の在り方が問われていると言えるかもしれません。

参考:https://www.kominfo.go.id/content/detail/37105/pemerintah-dorong-industri-film-manfaatkan-platform-digital/0/berita
https://mediaindonesia.com/humaniora/390957/lsf-minta-dukungan-kominfo-sensor-film-di-netflix-cs
https://tirto.id/lsf-sensor-599-film-di-netflix-hingga-disney-plus-selama-2020-gadv
https://en.antaranews.com/news/189593/covid-19-netflix-provides-rp71-billion-for-indonesias-film-workers

インドネシアの動画配信サービスについては、過去コラムもご参照ください。

映画によるインドネシアの農村経済活発化に期待の声

インドネシア政府が力を入れようとしているのは、動画配信サービスだけではありません。インドネシアでは、都市部と農村部の地域格差が未だに大きく、若年層は仕事を求めて都市部に集まる傾向にあります。しかし、その傾向が続けば、格差は広がる一方で、農村部の衰退は免れません。最近では農村部でも革新的な取り組みが行われつつあるものの、人々の注目
を集めるには至っていません。

そこで期待されているのが、地方の農村部を舞台にした映画の影響力です。アブドゥル・ハリム・イスカンダル地方開発移住大臣は、2021年12月に公開されたインドネシア映画「Kembali ke Desa(村に帰る)」の公開にあたり、このような映画によってインドネシア国民が農村部に注目することを期待していると述べています。農村部の持続可能な開発・発展こそが、今後のインドネシアの経済発展の鍵になると考えているためです。

同映画のエグゼクティブプロデューサーであるParamitha Rusady氏も、ミレニアル世代がこの映画を見て、自分達が村で生まれ育ったことに誇りを持てるようになってほしいと述べています。

参考:https://en.antaranews.com/news/203669/minister-expects-more-village-centric-indonesian-movies-in-future
https://kabarindah.com/kembali-ke-desa-film-nasional-yang-ingatkan-pentingnya-desa-dalam-pembangunan-indonesia/

インドネシアの映画祭

そのほかに、インドネシアではさまざまな映画祭も行われています。監督、その他製作陣のクリエイティビティや多様性を促進するものとして、尊重されるべきだとの声もあがっています。

コロナ禍の2021年においても、インドネシアではさまざまな映画祭が行われました。国内最大級の映画祭であるインドネシア映画祭も、11月に41回目の開催を実現しています。また、ムスリムの人間観をテーマとしたマダニ国際映画祭は、2年連続でインドネシア政府の援助を受けてコロナ禍においても開催されました。

ちなみに、日本映画についても、国際交流基金が主催する日本映画祭が毎年行われており、多くの観客を集める人気イベントとなっています。ジャカルタをはじめとした5都市を巡回しての開催でしたが、2020年度はコロナ禍においてオンラインで開催されました。2022年2月も、再びオンラインでの開催が予定されています。

参考:https://en.antaranews.com/news/201713/film-festival-can-be-platform-to-celebrate-cinematic-diversity
https://en.antaranews.com/news/201661/culture-ministry-supports-for-madani-international-film-festival-2021
https://en.antaranews.com/news/190985/indonesian-film-directors-highlight-importance-of-film-festivals
https://jff.jpf.go.jp/ja/join/jff-news/indonesia2020/
https://id.japanesefilmfest.org/about-jff-2/

 

以上見てきたように、インドネシアの映画業界はコロナ禍で打撃を受けたものの、動画配信サービスの普及により活路を見出していると言えます。また、単なる娯楽としてだけではなく、地方格差などの社会問題において啓蒙的な役割を担うことも期待されています。

こうした動きを見ると、インドネシアの映画業界は、より多様なテーマの映画制作や地方における映画祭の開催など、関連事業も含めてさらに発展していく可能性がありそうです。

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インドネシアにおける映画事業についてより詳細に知りたい方は、ぜひお問い合わせください。

 

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