【コラム】インドネシアにおけるスマートシティ動向
近年「スマートシティ」や「IoT」という単語を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。
新型コロナウイルスの影響を受けて、多くの人々は外出することや様々な経済活動などを行うことが以前と比べて少なく、そして難しくなっているのが現状だと思います。
インドネシアにおいても首都ジャカルタなどでは今も尚、大規模な社会的制限であるPSBBが実施されています。
オンラインで物を購入したり、支払いをキャッシュレスで行うことが増加している状況下においてスマートシティはまさにもってこいの「新しい生活様式(ニューノーマル)」であると言えるのではないでしょうか。
今回のコラムでは、インドネシアにおいてどのような形でスマートシティ化に向けての取り組みがなされているのか、そこで生じている課題にはどのようなものがあるのかを実例を交えながらご説明させていただきます。
スマートシティとは
スマートシティは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の先端技術を用いて、共通の利益を効果的かつ効率的に解決・人間と地域社会の生活の質を向上させること・継続的な経済発展を目的として設計された新しい都市のことを指します。
ここ数年で話題となっている「スマートシティ」は世界中でプロジェクトが進められており、インドネシアも例外ではありません。
この背景には、現在約77億人いる世界人口が2050年には95億人になると予想されている中で、エネルギー消費が爆発的に増えることが懸念されていることに加え、今までSF映画のような空想世界でしか描けなかった都市を創ることができる技術が発達してきたためにスマートシティに向けた取り組みが様々な国と地域で行われています。
スマートシティへのインドネシア政府の意向
インドネシア通信情報省は、2017年から内務省、国家開発企画庁、公共事業・公営住宅省、大統領参謀局、財務省、経済担当調整省および行政・官僚改革省と共にインドネシア国内に100のスマートシティを作り出すための取り組みを行っています。
インドネシア政府は2019年までに100のスマートシティを開発するイニシアチブを取り、2017年に25地域、2018年に50地域、2019年に25地域と全100都市に対して、他の地域でスマートシティを実装するためのロールモデルになることを期待してスマートシティ開発を行ってきました。
通信情報省の記事によれば、通信情報大臣であるJohnny G. Plateは上記の取り組みを高く評価しており、「100のスマートシティに向けた動きは、デジタル国家になるというこの国(インドネシア)の夢を実現するための良いスタートだと思います」と述べています。
(参照;https://aptika.kominfo.go.id/2020/10/mengenal-lebih-dekat-konsep-smart-city-dalam-pembangunan-kota/)
2019年にスマートシティ開発のためのマスタープランを無事に完了した以下の25の地域には「スマートシティ100に向けた運動賞」が授与されました。
2. マゲラン市(中部ジャワ州)
3. バトゥ市(東ジャワ州)
4. クディリ市(東ジャワ州)
5. マディウン市(東ジャワ州)
6. タンジュンピナン市(リアウ諸島州)
7. デポック市(西ジャワ州)
8. ジャヤプラ(パプア州)
9. アンボン市(マルク州)
10. ボンタン市(東カリマンタン州)
11. チレゴン市(バンテン州)
12. バリクパパン市(東カリマンタン州)
13. クパン市(東ヌサ・トゥンガラ州)
14. バニュマス県(中部ジャワ州)
15. クラテン県(中部ジャワ州)
16. シトゥボンド県(東ジャワ州)
17. タンゲラン市(バンテン州)
18. スラゲン県(中部ジャワ州)
19. ドゥマック県(中部ジャワ州)
20. ケブメン県(中部ジャワ州)
21. バンジャル市(西ジャワ州)
22. グヌンキドゥルリージェンシー(中部ジャワ州)
23. ウォノソボ県(中部ジャワ州)
24. タバロン県(南カリマンタン州)
25. パダンパリアマンリージェンシー(西スマトラ州)
出典:インドネシア情報通信省WEBサイトより
https://aptika.kominfo.go.id/2019/11/gerakan-menuju-100-smart-city-langkah-awal-wujudkan-digital-nation/
現在は、以下の6つの柱に従って優先地域および地方の観光地域に焦点を当てて取り組みを実施しています。
1. スマートな環境:従来の要素を残さずに、清潔でゴミがなく、整然としたエリアになるように準備すること
2. スマートエコノミー:観光地域とその周辺の自治体においてキャッシュレスでのICTの実装を確実にすること
3. スマートブランディング:観光地域の地方自治体が観光客増加の支援を行うこと
4. スマートガバメント:観光地域の地方自治体が優れた公共サービスを提供するために高品質の電子ベース政府システム(SPBE)を実装すること
5. スマート社会:観光地域のコミュニティとその周辺地域が優れたホストになること
6. スマートな生活:平和かつ安全なロジスティックの提供を通じて、コミュニティや観光客にとって有益で快適な社会にすること
インドネシアにおけるスマートシティのコンセプト実装例
以下の表ではインドネシアにおけるスマートシティのコンセプト実装例を紹介しています。
既に様々な場所や分野においてスマートシティのコンセプトが使用されており、今後も実装の数は増加していくのではないかと予想できます。
電子政府 | 立法、司法、公共レベルでのサービスのためのオンライン政府システム |
E-Budgetting | 予算編成における透明性と説明責任をサポートする政府プログラム |
スラバヤにおけるE-Wadul | スラバヤ政府が提供するものでスラバヤ市政府に関連する苦情または要望を提出できる |
ジャカルタにおけるスマートシティのウェブサイト | DKIジャカルタ州政府によって作成されたウェブサイト。ジャカルタのスマートシティサービスに関連するすべての情報が記載されている |
バンドンにおけるコマンドセンター | 公共サービスを改善し、政府の意思決定管理を促進するためのコマンド |
INAPROCによる全国調達ポータル | 政府調達政策機関によって構築および管理された商品/サービスの国内調達に関する情報に関連する電子情報システム |
入国管理局によるオンラインパスポートサービス | オンラインでパスポートを作成するための登録システム |
UKP-PPPによるLAPORサイト | 要望や苦情を関連機関にオンラインで提出するためのウェブサイト |
ジャカルタにおけるスマートシティ
ジャカルタにおけるスマートシティのコンセプトは以下の図のようになっています。
ジャカルタのスマートシティは、情報通信技術(ICT)利用を最適化して都市の様々なリソースをより効果的かつ効率的に特定、理解、管理するスマートシティの概念を応用したものであり、政府は公共サービスを最大限に活用し、問題を解決し、持続可能な開発を支援することができると考えています。
スマートシティにおける様々な項目の中でもジャカルタでは洪水に関する最新情報やジャカルタ全域で影響を受けた地域の地図など首都に関する様々な情報を求めるジャカルタ在住者のニーズに応える多目的モバイルアプリケーション「JakartaKini(JAKI)」に力を入れて取り組んでいます。
2020年2月上旬の時点では、ソフトウェアのベータ版がGooglePlayストアから82,756回ダウンロードされているようです。
(参照;https://www.thejakartapost.com/news/2020/02/11/jakarta-working-on-smart-city-mobile-app.html)
JAKIはジャカルタスマートシティ(JSC)チームによって管理されており、アプリの主力機能であるJakResponsは住民がヘルスケア、交通渋滞、洪水や火災などの災害に関連する問題について報告書を提出するための迅速な対応システムとして機能しています。
住民はゴミ問題から交通違反まで幅広い物事に対して報告書を提出することができ、他のユーザーが提出した最新の報告書を見ることもできます。
スマートシティに向けての課題
一見順調に進んでいるように見えるインドネシアのスマートシティ化ですが、様々な課題が残っています。
・技術的な問題。人材能力が低い
・地元の指導者のコミットメントが欠如している
・ICTの適切なインフラストラクチャーを構築するためには巨額の資金が必要
上記のような課題を解決するために必要なこととしては、全ての関係者と協力して、革新的で協調的な政策を策定することが必要であるとされています。
どうしても大きな変化が伴う政策であるため、非政府組織(NGO)などのサードパーティと協力をした上で、スマートシティを実装するための社会化と厳格なルールを定めていく必要があります。
また、そのほかにも技術力の低さを補うために、政府は協力的な姿勢をみせることが大切だと言われています。
上記以外にも、情報のデータ管理やセキュリティ面、情報技術インフラといった点にも課題が残っています。
情報のデータ管理であれば、スマートシティを実装するには、都市のさまざまなソースからのデータが必要であるため、さまざまな種類のデータを処理するには、さまざまな速度で効率的なビッグデータ管理システムが必要です。
そのため、全てのデータを保存保管できるデータセンターの構築が必要不可欠となります。
セキュリティ面に関しては、スマートシティ化をするにおいて様々なデータが必要となってくるために、そのデータをウイルスやハッカーなどの脅威から守らなくてはいけません。
情報技術インフラに関しては、インフラストラクチャーの欠如は、スマートシティの目標を達成する上での重大な障壁であることから信頼性が高く、拡張可能なITインフラストラクチャーを整備する必要があります。
それにより、市内全体の情報システムを統合するためのネットワークを高速化することができます。
日本企業のインドネシアスマートシティ化への参画
先程の課題の部分で資金不足が課題であると説明させていただきましたが、日本の企業が既にインドネシアスマートシティ化へ参画(投資)をしています。
今回は南スラウェシのマカッサルと東カリマンタンの新首都での取り組みについて紹介させていただきます。
南スラウェシのマカッサルでは、医療サービス、セキュリティ、人民運動の3分野に焦点を当てたスマートシティ開発を行っています。
マカッサル市長のRudyDjamaluddin氏は、マカッサルの日本総領事館長である宮川勝利氏とマカッサル市役所で会合を開き、マカッサルのスマートシティ化について日本の企業との協力可能性について議論を交わしました。
マカッサル政府は、ASEANのスマートシティの日本協会(JASCA)と協力しており、マカッサルでスマートシティに関する会議を開催し、マカッサル政府と両国の民間団体との協力を強化するために、インドネシアと日本のスマートシティプロジェクトに取り組んでいます。会議にはスマートシティ開発に携わった日本企業50社が参加しました。
東カリマンタンのインドネシアの新首都では、都市開発に日本の企業であるソフトバンクが最大400億米ドル投資することが報じられています。
ソフトバンクグループの創設者兼最高経営責任者である孫正義氏は、、新しいスマートシティ、最新のテクノロジー、クリーンな都市、そしてAI(人工知能)を備えた都市というものを私は支援したいと思っていると述べ、最大400億米ドル(日本円でおよそ4兆円)の投資をすることを明らかにしました。
現在の首都ジャカルタから東カリマンタンに首都を移動させるとなると多くの費用がかかることは容易に推測でき、その総額は327億米ドルにも達するとされています。
参照;https://www.thejakartapost.com/news/2020/01/10/softbank-group-in-talks-with-jokowi-to-fund-new-capital-city.html
https://www.nst.com.my/world/world/2020/01/557470/japans-softbank-invest-rm162-billion-indonesias-new-capital
まとめ
スマートシティとしてのインドネシアの発展は今後、ICT技術の導入や官民パートナーシップを実施する上で広く支持されていくでしょう。
スマートシティの拡大においては今後も中央政府、地方自治体、業界関係者などすべての関係者の協力が必要不可欠となります。
まだまだ拡大、改善することができるであろうインドネシアにおけるスマートシティ化に今後も目が離せません。
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