【コラム】インドネシアの不動産業界最新情報~2021年第1四半期

2021年3月、新型コロナウィルスの新しい変異株がインドで発見されました。

この新しい変異株は2021年のインドでの感染を急拡大させ(感染者数のピークは5月9日)、当地での経済活動を完全に麻痺させるに至り、少しばかり回復の兆しを見せ始めていたインドの不動産需要に再度ダメージを与えましたが、ワクチン接種の進展などにより感染状況がピークを過ぎて減少してきた現在、経済状況全般の回復と連動して、不動産市況の活性化も期待されています。

他方でインドネシアの状況ですが、インドが感染者数の減少傾向を示しているのとは逆に、2021年6月の時点では再び感染が急拡大している状況です。

新型コロナウィルスの感染拡大は、2020年の一年間を通して不動産業界に深刻なダメージを与えてきました。大規模な社会的規制(略称PSBB)という人々の移動を制限する措置が導入されていた期間は、業界によって差はあるものの、移動制限が売上の減少に直結する業界における影響は深刻でした。

しかし、移動制限が多少緩和され、ニューノーマルと呼ばれる時期に入ると経済活動は徐々に活発化していき、政府による経済刺激策も少しずつ効果を示していったと捉えられています。

データから、ジャボデタベック首都圏の商業不動産セクターは、ホテル需要を筆頭に2020年第3四半期に明らかな回復の兆しを見せているといえます。

出典:Bank Indonesia WEBサイトより(閲覧日:2021年6月21日)
https://www.bi.go.id/id/publikasi/laporan/Pages/PPKom_Triwulan_IV_2020.aspx

 

インドネシア中銀の報告によりますと、インドネシア経済全体は2020年にマイナス成長を記録したものの、商業不動産の需要自体は比較的安定しており、2020年第4四半期の実績は、前年の同四半期に比較すると0.52%のマイナスですが、第3四半期に比すると0.01%の微増となっています。

出典:Bank Indonesia WEBサイトより(閲覧日:2021年6月21日)
https://www.bi.go.id/id/publikasi/laporan/Pages/PPKom_Triwulan_IV_2020.aspx

 

商業不動産について、2020年一年間の平均需要指数は対前年比で下落し、現時点でも大幅な改善の兆しは見られません。この状況は新型コロナウィルスの感染拡大により在宅勤務が広がり、店舗の営業時間等が制限される中で、事務所及び店舗の賃貸が明白に縮小したことに起因しますが、ホテル及び賃貸アパートといったセグメントについては自主隔離需要及び観光需要の限定的な増大により、改善の兆しも見られます。

ただし、インド由来の変異ウィルスがインドネシアにおいても感染を拡大していることを受け、需要停滞の条件が継続すると予想されており、インドネシア政府が感染抑制のために断固たる措置を採用すればするほど、こうした状況がさらに長引く可能性があります。

 

2021年第1四半期における住宅価格指数等概況

インドネシアを代表する住宅情報ポータルサイト、Rumah.comの公表している住宅価格指数は、2021年第1四半期においてインドネシアの様々な地域で値下がりを記録しましたが、インドネシアの住宅市場全体としてはその需要レベルは一定の安定性を示しているとみられています。

何故なら、価格指数の下落についてはコンドミニアム価格の下げ幅が大きいことが主要因となっており、同四半期における戸建住宅の平均価格は小幅でも上昇しているからです。

こうした状況の中でも、不動産のオンライン検索指数が2020年第4四半期及び2021年第1四半期と連続して上昇していることが、不動産業界全体がある程度楽観的な見通しを持っていることの背景となっています。

 

価格指数概観

<コンドミニアム価格の下落を主因として住宅価格が全体として下落>

2021年第1四半期終了時点で、Rumah.com社の住宅価格指数は110.3であり、前期比0.37%の下落となりました。下表から見られる通り、コンドミニアム価格の下落が主な要因です。

戸建住宅 コンドミニアム
2020年第2四半期 114.9 114
2020年第3四半期 116.1 112.8
2020年第4四半期 115.6 112.5
2021年第1四半期 116.3 109.9

上記の表から見られる通り、Rumah.com社の住宅価格指数は、2021年第1四半期の戸建住宅に関しては116.3であり、前期比0.6%の上昇、前年比0.5%の上昇でした。

他方で、既に指摘した通り、コンドミニアムの価格指数は前期比2.3%の下落、前年比5.3%のやや大幅な下落となっており、戸建に比較してコンドミニアム価格の下落幅の大きさが際立っています。

住宅価格指数はインドネシアの多くの地域で下落傾向にあり、ジャカルタ特別州は前四半期比で0.4%、ジョグジャカルタ特別州は4.21%、東ジャワ州は1.64%の下落を記録しています。

 

2021年第1四半期 コンドミニアム市場概観

上述の通り2021年第1四半期のコンドミニアムの需要動向としては依然として停滞しており、販売価格もそれに伴って下落を示しています。ただし、政府の支援策は住宅用不動産セクターにも波及しつつあり、外国人による区分所有権取得を可能とする緩和措置も導入されました。この措置がコンドミニアムの需要増加につながることを期待するデベロッパーは多いのですが、パンデミックの収束が見通せない限り、需要増が数字に表れるには時間がかかる可能性があります。したがって、総体としては現在の需要停滞は当面続き、当面ある程度の市場回復は見られるとしても、回復基調は非常に緩やかなものと想定されます。

 

マクロ経済概観

インドネシア中央銀行は2019年半ば以降、政策金利を下げ続けており、その結果として元来6.0%だったものが現時点では3.5%にまで下がっています。

この政策金利低下に連動して住宅ローン金利も下がれば住宅需要の掘り起こしに貢献する可能性はあるものの、現時点では住宅ローン金利自体は十分に下がっているとは言えません。

2020年を通して、ハイレベルの流動性供給が行われていたことは明白ではあるものの、経済活動が全体として停滞していたため、流動性供給が経済活動の活性化につながったとは言えません。したがって政府としては、幅広い裾野産業を抱えている業界にインセンティブを集約することで高い乗数効果が見込まれるような刺激策を模索しており、不動産業界は明らかなターゲットの一つとなっています。

 

不動産セクターを再活性化するための更なる金融緩和策

インドネシア中銀は、住宅ローン融資額の住宅販売価格に対する割合(以下、LTVと略記)を100%に緩和し、注文住宅に関する支払い条件の規制も撤廃しました。

しかしながら、不良債権化のリスクを考慮して、住宅ローン供給銀行が10%の頭金支払いに固執している状況がある以上、中銀による規制緩和のインパクトは十分に発揮されているとは言えません。LTVの上限撤廃、つまり頭金比率の低下・撤廃、及びその他の支払い条件に関する緩和により、金融的には住宅は非常に購入しやすくなっています。

<住宅ローン関連規制の緩和>

項目 旧規則(2018年施行) 新規則(2021年施行)
LTV(住宅ローン融資額の価格に対する割合) 85~95%:ただし、二件目以降の住宅については、別途規定 100%(不良債権率5%以下の銀行)
90~95%(不良債権率5%以上の
銀行)
二件目以降の住宅にも制限なし
融資実行の時期 住宅建設の進行段階による 制限なし(銀行が自由に決定できる)

(出典:インドネシア中央銀行)

 

さらに、財務省は新たな財務大臣規則「21/PMK.010.2021」を導入し、付加価値税(通常は10%)の減免・免税措置が住宅用不動産(コンドミニアムと戸建住宅の双方)で50億ルピア(日本円で約4,000万円)以下の価格のものについて適用されると定めました。

具体的には、販売価格20億ルピア以下の住宅に関しては付加価値税が免除され、20億~50億ルピアのものは付加価値税が半減(5%)されます。この特例措置は、2021年3月から8月までの半年間適用されますが、適用される住宅は既存ストック、つまり既に完成している住宅で一件目の住宅(申請者が初めて購入する住宅)に限定されます。

ブカシ地域の不動産市況の展望について

ブカシは渋滞の激しさがつとに有名ではありますが、多くのデベロッパーによって有望な不動産開発地域だと目されていることを反映して、現在数多くの住宅開発プロジェクトが外資系、内資系等様々なデベロッパーによって進められています。

ジャカルタに比較的近い地域で、手の届く価格の住宅を購入したい人々にとっては、ブカシは有力な選択肢となっています。

2020年第3四半期におけるブカシの住宅価格指数は119.6となり、過去3年間における最大値を記録し、ブカシの住宅市場は2020年を通して、他地域には見られない価格指数の継続的上昇を見せました。確かに上昇幅は非常に小さなものにとどまっていますが、インドネシアのほとんどすべての地域で価格の下落が見られる中でのこの上昇は注目に値すると言えます。

以上のような価格の動きは、市場全体が不透明感に覆われている時期においてもブカシエリアを希望する消費者の購買力には大幅な変動は見られないことを示しています。

ブカシ以外のジャカルタ郊外地域では、パンデミックの影響により価格の下方修正を余儀なくされる例が散見されました。他方で、ブカシにおける住宅検索指数は、2020年第3四半期に前期比15%の増加、前年比では2.6倍に増加し、価格指数上昇と併せて、消費者のブカシ地域への注目度の高さを示しています。

インドネシア全土において不動産市場が停滞している状況下で、ブカシの不動産市場がある程度の活況を呈していることは、デベロッパーの供給と消費者の需要の間に大きなギャップは存在していないこと、より具体的には、インフラ開発の動向を睨んで、売り手と買い手の双方がブカシのポテンシャルを積極的に評価している状況が見て取れます。

引用文献:
Bank Indonesia. (2020). Commercial Property Development. Jakarta: Bank Indonesia. Retrieved
May 11, 2021, from https://www.bi.go.id/id/publikasi/laporan/Pages/PPKom_Triwulan_IV_2020.aspx
Indonesia Property Expo. (2021, February 16). News. Retrieved May 12, 2021, from Indonesiapropertiexpo.com: https://www.indonesiapropertiexpo.com/news/inilah-5-daftar-proyek-rumah-murah-di-bekasi
Kompas.com. (2021, April 26). Science. Retrieved May 11, 2021, from Kompas.com:
https://www.kompas.com/sains/read/2021/04/26/182900223/10-orang-indonesia-terinfeksi-varian-covid-19-india-ini-5-fakta-mutasi?page=all
Mishra, S. (2021, April 16). Coronavirus. Retrieved May 11, 2021, from Housing.com:
https://housing.com/news/impact-of-coronavirus-on-indian-real-estate/
Rumah.com. (2021, April 5). Property News. Retrieved May 12, 2021, from Rumah.com:
https://www.rumah.com/berita-properti/2021/4/197723/bekasi-terus-diburu-pengembang-kejar-target

 

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