【コラム】インドネシアの不動産セクター2020年の概観 Part1
2020年は新型コロナウイルスのパンデミックにより、インドネシアの様々な市場環境が大きな影響を受けました。
中でも、インドネシアの不動産セクターは今どのような状況なのでしょうか?
今回は、インドネシアの不動産セクターの2020年の概観を、Part1とPart2に分けてご紹介いたします。
住宅百万戸プログラム
「住宅百万戸プログラム(以下、OMH)」は、2015年4月にジョコウィ大統領によって導入された政策であり、特にインドネシアの低所得者層にとって深刻であった住宅不足の解決、具体的には、購入可能であり尚且つ適正な住宅施設を大量に供給する、という目標を掲げている政策です。
以下に述べるように、年間100万戸供給という目標は2018年に初めて達成されましたが、当初は実現不可能と思われていました。
*注:MBR=低所得世帯(月収≤IDR4million)
出典 : 公共事業国民住宅省
政策名が端的に示す通り、当プログラムは毎年100万戸の住宅供給を目指しており、当該政策が定義する低所得世帯(月収400万ルピア以下)向けの住宅が60~70%、それ以外の世帯向けの住宅が30~40%という内訳になっています。
上記の公共事業国民住宅省のデータが示す通り、2015年から2020年までの累計で約530万戸の住宅供給がなされたことになります。
プログラムが開始された2015年から17年までは、目標としての年間100万戸の供給が達成できず、その後、政府機関、金融機関、コミュニティ、民間企業などの間での調整を進めた結果、2018年に目標が達成され、さらには翌19年に目標戸数が125万戸に引き上げれましたが、この目標も達成されるという結果となりました。
出典 : 公共事業国民住宅省
2018年、1,132,621戸の住宅が本プログラムによって建設され、政策目標が初めて達成されたましたが、目標値から13万戸余りも多く建設できたことを受けて、翌2019年には建設目標自体が125万戸に引き上げられました。
そして19年中に1,257,852戸が建設され、再度目標値が達成される結果となりました。
ジョコウィ政権の中核的プログラムの一つであるOMHが、2015年から19年まで順調に住宅建設戸数を伸ばしてきたことは、上記グラフからも一目瞭然ですが、2020年はコロナ・パンデミックの影響により、建設戸数の大幅な収縮を余儀なくされています。
(2020年データは、同年10月末までの建設戸数を示しています)
OMHプログラムの最近の展開について
2019年:公共事業国民住宅省のデータによると、2019年中に本プログラムにおいて建設された、1,257,852戸の住宅のうち、低所得世帯向けが938,405戸、それ以外の世帯向けが312,691戸となっています。
2020年:公共事業国民住宅省は、2020年10月31日までのOMHプログラムによる住宅建設戸数が601,637戸であることを発表しました。内訳は、低所得者世帯向けが434,828戸、それ以外の世帯向けが166,809戸です。
出典:公共事業国民住宅省
不動産セクターにおける最近の展開について
新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミックは、インドネシア経済全体に深刻なダメージを与えてきましたが、最も重大な悪影響を受けたセクターの一つが、不動産セクターに他なりません。
「大規模な社会的規制(PSBB)」が施行されていた期間中は、人々の移動が大幅に制限され、経済活動自体が物理的に制限される形になりました。
しかしながら、政府も徐々に各セクターの業績回復に資する政策を立案し始め、不動産セクターを含む幾つかのセクターに関しては、回復の予兆ともいえる動きが見られます。
不動産セクターに特に関連の深い施策としては、住宅ローンの債務者に対する金利補助金に関する財務省規則2020年138号、及び国民経済回復プログラムの実施における金利補助金の提供ガイドラインに関する財務省規則2020年第85号の修正条項があります。
2020年3月、インドネシア政府は低所得世帯を対象とする住宅金融支援策を1兆5000億ルピアに増額することを決定しました。
また、パンデミック状況下でもOMHプログラムを着実に実施するため、政府は同プログラムのパートナーとして国営銀行のBTN(国民貯蓄銀行)を指定し、低所得世帯向けの連棟住宅、集合住宅について、住宅ローンの低金利化、月賦支払い額の低額化を推進すると表明しています。BTN社長のパハラ・ヌグラハ・マンスリ氏は、2020年11月4日のプレスリリースで、OMHプログラムの中で活用されてきた住宅金融支援スキームのFLPP、SSB、BP2BTについて同行が引き続き窓口となって実施することを説明しました。
BTNによると、同行が供給してきた住宅ローンは、2015年474,099戸、2016年595,540戸、2017年666,806戸、2018年755,093戸、2019年735,749戸となっています。
しかしながら、2020年はコロナ・パンデミックの影響で9月末の時点で93,448戸分の住宅ローン供給に留まっており、融資額も15兆6000億ルピアとなっています。
不動産セクターにとっては、BTNによる住宅ローンの供給は住宅金融上の基礎インフラとも言えるものであり、OMHプログラムへの同行のコミットメント強化が期待されています。
上述のパハラ氏は、2025年までに年間の住宅ローン供給戸数を150万戸に増加させることを目指すと述べています。
2020年第3四半期における回復の兆候
2020年の前半、特に第2四半期における大幅な落ち込みを記録しましたが、下図に示す通り、商業不動産(コンドミニアムを含む)需要指数は2020年第3四半期において若干の回復を示しています。不動産業界全体としては、この動向について2021年第1四半期以降の業績の回復傾向を示すものと捉えています。
第3四半期に特に顕著な上昇を見せたのは、ホテルとコンベンションホールであり、これは前期の大幅な落ち込みからの反動とも捉えられますが、回復基調を示すものであることは広く支持されています。コンドミニアムの需要も回復しつつあるとは言え、依然として低水準で推移しています。
出典:インドネシア中銀
ジャカルタ首都圏における商業不動産の動向
ジャカルタ首都圏に限って述べるとしても、第3四半期はコンドミニアムを含む商業不動産に関して、微かにではあっても需要の増加傾向が見られました。
ジャカルタに限定しても、第3四半期に最も需要を伸ばしたのはホテルであり、ホテルの需要増に引っ張られて、商業不動産セクター全体の需要指数は第3四半期でプラスに転じました。
出典:インドネシア中銀
同時に注目すべきことに、地域をボゴール、デポック、ブカシに限定すると、コンドミニアムを含む商業不動産の需要指数は第3四半期に急上昇を示していますが、この上昇をけん引したのは、他地域と同様にホテルです。
出典:インドネシア中銀
上記のようなホテル・セクターの需要増加は、ホテルによる種々のプロモーション戦略の結果であると理解されています。パンデミックにより稼働率が極端に低下したホテルは少しでも需要を喚起するために、大幅な値引き、ワーケーション・プラン、ワーキングフロムホテル・プラン、ヴァーチャル結婚式パック等、ホテルによる様々な工夫が実を結びつつある、と考えられています。
何故ホテルなのか?
大規模な社会的規制(PSBB)等の都市封鎖的な措置が徐々に緩和された結果、ホテル・セクターの需要は、種々のプロモーション戦略が提案される前の段階で、少しずつ上昇に転じ始めました。
しかし、一旦極端に低下した宿泊客を呼び戻すために、各ホテルは先を争うように値引き競争に着手しました。また、Eコマースのプラットフォームにおけるホテル予約の際の支払いオプションの多様化、例えば「Buy Now Pay Later」オプションの採用などもネット予約の増加に貢献したと考えられます。
さらに、値引きや支払いオプションの多様化以外にホテルの需要増加に貢献したのは、「ワークフロムホテル」オプションの提案だと捉えられています。
当然ながら、パンデミック初期には「ワークフロムホーム」が広く実践されていましたが、特に多世代が同居する環境下においては「ワークフロムホーム」に対して困難を感じていた人も多く、ホテルが部屋とWi-Fiとプリンター等の必要機材を準備して「ワークフロムホテル」を格安でプロモーションし始めた際、彼らの抱えていた問題への解決策としてそれに飛びついた方も多くいたのでした。
また、移動制限が課されていた期間中は、ホテルにとって重要な収入源の一つである結婚式の開催も禁止されていましたが、大規模な社会的規制(PSBB)の緩和に伴い、条件付きで結婚式の開催が許可されたこともホテルにとっては良いニュースかもしれません。
ただし、結婚式開催の条件は厳しく、参加者の人数は会場の定員の25%以下、着席する場合の座席の距離は1.5m以上、座席の変更禁止、ブッフェスタイルの禁止等の条件が課されています。
これらの諸条件は、ホテルビジネスの観点からは非常に厳しいものですが、本年6月以降「ヴァーチャル・ウェディング」の活用がスナン・ホテル(中部ジャワ)のイニシアティブにより始め
られたことは注目に値します。
ホテルでの実際の結婚式に出席するのは当該カップルとその家族のみで、その他の参加者は事前にホテルから自宅に送られた料理を楽しみつつ、YouTube、Facebook、インスタグラム、Zoom等のオンライン・プラットフォームを通して結婚式に参加するというもので、ホテルにとって新しい収入源になる可能性があります。
参考WEBサイト:
Bank Indonesia. (2020). Perkembangan Properti Komersial (PPKOM).
Kementerian Pekerjaan Umum dan Perumahan Rakyat. (2020, November 3).
Tingkatkan Kepemilikan Hunian Layak, Realisasi Program Sejuta Rumah
Hingga Akhir Oktober 2020 Capai 601.637 Unit. Retrieved from
https://www.pu.go.id/berita/view/18970/tingkatkan-kepemilikan-hunian-layak-
realisasi-program-sejuta-rumah-hingga-akhir-oktober-2020-capai-601-637-unit
Kementerian Pekerjaan Umum dan Perumahan Rakyat . (2020, January 3). Capaian
Pembangunan Rumah Tembus 1,25 Juta Unit. Retrieved from
https://perumahan.pu.go.id/berita/view/227/capaian-pembangunan-rumah-
tembus-1-25-juta-unit
Kompas. (2020, July 29). Alokasi Tambahan Rp 1,5 Triliun untuk Perumahan Terkait 3
Program Artikel ini telah tayang di Kompas.com dengan judul "Alokasi
Tambahan Rp 1,5 Triliun untuk Perumahan Terkait 3 Program", Klik untuk
baca: https://properti.kompas.com/read/2020/07/29/191334. Retrieved from
https://properti.kompas.com/read/2020/07/29/191334021/alokasi-tambahan-rp-
15-triliun-untuk-perumahan-terkait-3-program?page=all
BUMN inc. (2020). Target Penyaluran KPR Bank BTN Naik Menjadi 300.000 Unit Per
Tahun. Retrieved from http://bumninc.com/target-penyaluran-kpr-bank-btn-naik-
menjadi-300-000-unit-per-tahun/?more=2
Rumah.com Indonesia (2020) Rumah.com Indonesia Property Market Index Q4 2020 |
Rumah.com
いかがでしょうか。続いてコラムPart2では、インドネシアの住宅価格指数、住宅供給指数の変動や、各地域の最新の状況やトレンドについてご紹介いたします。
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