【コラム】インドネシアの保健所 “プスケスマス”の機能とコロナの影響

インドネシアでは経済成長に伴う中間層の増加によって「健康」に対する意識が高まりつつあることから予防医療という概念が浸透し始め、2014年には国民皆保険の導入といった医療体制の変化などが起こっています。

また、今回の新型コロナウイルスの影響を受けて、インドネシアの医療や健康といった分野に関心を持った方は多いのではないでしょうか。

弊社の過去のコラムでもご紹介しましたが、インドネシアの医療機関はいくつか種類があり、その中でもプスケスマス(Puskesmas=Pusat Kesehatan Masyarakat)は地域の人々にとって初期医療の中心的な役割を担っています。

今回のコラムでは様々にある医療機関の中でもインドネシアの医療事業において欠かせない存在となっているプスケスマス(Puskesmas)についてご紹介します。

 

インドネシアの医療機関

インドネシアには政府や地方政府が管轄している病院、私立病院と大きく分けて2種類の医療機関が
存在します。以下はその割合をグラフで示したものです。

出典:インドネシア保健省、「インドネシア健康プロフィールデータ2018」より弊社作成
https://www.depkes.go.id/resources/download/pusdatin/profil-kesehatan-indonesia/Data-dan-Informasi_Profil-Kesehatan-Indonesia-2018.pdf

 

政府管轄と私立の病院の件数を比較すると、私立病院の方が件数が多くなっています。

地方政府管轄の医療機関は、管轄ごとにどれほど高度な医療を提供することができるかが分かれており、州立病院が地方政府管轄の医療機関の中で最も高度な医療を提供でき、それに続き、県立病院、市立病院の順となっています。

そのさらに下にはプスケスマス(Puskesmas)と呼ばれる保健所のような機関、ポシャンドゥ(Posyandu)と呼ばれる医師の常在していない総合保健サービス所などあります。

ポシャンドゥは、村規模の保健サービス所で、カデル(Kader)と呼ばれる地域のボランティアの女性たちが授乳期間中の妊婦や幼児へのビタミンA剤の配布、乳幼児へのワクチン摂取、高血圧の高齢者に向けた教育を行う場として存在しています。

以下の図はプスケスマス以下のインドネシアにおける医療機関を示したものとなります。

日本にはなかなかないような施設も多いため、イメージをするのが難しいかと思いますが、インドネシアの医療は地域のニーズに即したものが出来上がっている傾向にあります。

出典;https://improvingphc.org/indonesia-puskesmas-and-road-equity-and-accessを基に弊社作成

プスケスマスとは

インドネシアの県や市が運営する保健所で、検診、診療、出産や治療も対応可能な機関のことを指します。上記の写真はジャカルタにあるプスケスマスです。

一概にインドネシアのプスケスマスがこのようだとは言えず、ベッドの有無やスタッフの人数、設備の整い具合は地域・施設によって異なります。

インドネシア国民にとってプスケスマスは非常に重要な存在とされています。インドネシア全体におけるプスケスマスの件数は以下のようになっており、年々僅かではありますが増加の傾向にあります。

出典:インドネシア保健省、「インドネシア健康プロフィールデータ2018」より弊社作成
https://www.depkes.go.id/resources/download/pusdatin/profil-kesehatan-indonesia/Data-dan-Informasi_Profil-Kesehatan-Indonesia-2018.pdf

 

インドネシアでは、国民にプライマリー・ヘルス・ケアの提供や予防医療と治療医療の統合を行うことを目標に医療制度の変革や国民皆保険制度の導入などを行ってきました。

その中で、プスケスマスの持つ役割というものは時代の経過とともに変化するのではなく、長年ずっと地域社会と個人の両方に焦点を当てて、小規模の地域レベルで予防医療・医療促進・治療などの様々なケアを提供する場として機能しています。

具体的にプスケスマスは6つの主要サービスを提供しているとされ、健康増進・伝染病管理・外来診療・母子の健康と家族計画・公衆栄養学・環境医学がそれにあたります。

 

プスケスマスのスタッフ

保健省によるとプスケスマスでは、医師、歯科医師、看護師、助産師、公衆衛生・衛生学者、検査技師、栄養士、薬剤師、管理者、学生スタッフと実に幅広い分野のスタッフを必要としています。

以下の表はプスケスマスにおける人員配置基準のミニマムを示したものとなっています。

出典;An analysis of Indonesia’s primary health care supply-side readiness”Is Indonesia Ready to Serve?”を基に弊社作成
http://documents1.worldbank.org/curated/en/484351538653658243/pdf/130496-WP-P154841-PUBLIC-Is-Indonesia-Ready-to-Serve-21Sep2018-lores.pdf)

コロナ禍におけるプスケスマスの現状

新型コロナウイルスの影響により、医療従事者の感染者が多数確認された西ジャワ州ボゴールのプスケスマス4件では、サービスの閉鎖が数日間行われるといった事態も起きています。

現在、プスケスマスでは新型コロナウイルスのPCR検査を行うことが可能となっているため、各プスケスマスのデータを元に、インドネシアの地域別に新型コロナウイルス感染者の分布をマッピングすることができるのではないかと期待されています。

しかしその一方で、国内において均等な医療サービスを提供できる環境が整っていないインドネシアでは、特にプスケスマスのようなインドネシア全土に1万件近くある医療施設での防毒マスク・エプロン・手袋・医療用マスク・ゴーグルまたはフェイスシー ルド・ガウンといった防護具の不足が深刻化しています。

インドネシアでは現在もなお新型コロナウイルス感染者数は増加傾向にあり、ジャカルタや近郊の西ジャワなどの一部地域ではPSBB(大規模な社会規制)が発令されているなどしており、医療もひっ迫した状態にあります。

インドネシア保健省はプスケスマスに対して更なるPCR検査の実施を呼びかけており、医療崩壊なども心配されています。

また、今後新型コロナウイルスのワクチンが開発された際には、プスケスマスはワクチン接種ができる医療機関の一つとなる予定であるとインドネシア保健省は述べており、すでにプスケスマスでのワクチン接種のシミュレーションも行われています。

弊社の過去コラムでも度々ご紹介しております通り、インドネシアにおいて健康・医療分野は非常に重要な課題の一つです。今後もコラムにてインドネシアの健康事情や医療事情についてご紹介してまいります。

また、インドネシア保健省へのヒアリングや消費者調査など、インドネシアの医療分野における調査や専門家インタビューなどにご興味がある方、コロナ禍におけるインドネシアの最新事情に関してご興味がある方も、是非お気軽にお問い合わせください。

 

 

株式会社インドネシア総合研究所
お問い合わせフォーム
Tel: 03-5302-1260

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