【コラム】インドネシアにおける官民連携(Public Private Partnership)の歴史と日系企業の取り組み例

インドネシアでは、2000年代の地方分権改革後に官民連携スキーム=Public PrivatePartnership(PPP)が導入され、特にここ数年で集中的に利用され始めています。

インドネシアにおけるPPPの取り組みについては過去にもコラムでご説明いたしましたが、今後もインドネシアは国全体としてPPPに力を入れていくことが予想されます。

今回のコラムではインドネシアにおけるPPPの歴史や実施手順、日本企業のインドネシアとのPPP事業についてご説明させていただきます。

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目次

インドネシアにおけるPPPの歴史

インドネシアで最初にPPPが実施されたのは、1987年のタンゲラン-メラック有料道路プロジェクトです。

このプロジェクトが開始される以前は、インドネシアのすべての有料道路は国営企業として JasaMarga株式会社によって独占管理されていました。

1980 年以降、インドネシアでは電力に関する法令1985年15号や1987年第13号といった電力・有料道路のセクターを中心にインフラに対する民間投資に係る法令が制定されました。

スハルト政権期に制度整備が始まったものの、アジア通貨危機などの影響によりインフラ投資や制度整備が遅れを見せましたが、アジア通貨危機が起きるまでの約20年弱の間に累計で概ね200億ドルを超えるインフラの民間投資が行われました。

そのうち約半分が電力セクターへの投資となっており、その他電力セクター以外にも通信・テレコムセクターや交通セクターなどへの投資も見られました。

その後のユドヨノ政権では再びインフラ不足の解消のためPPPに関する制度整備が積極的に進みました。

2005年にはPPPに関する旧大統領令およびその修正のための大統領令が公布され、それらを通じてPPPの制度整備がなされました。

上記の法令では、公的保証制度、公的金融制度、Viability Gap Funding(VGF)などが導入されて民間事業者にとって魅力的な投資環境が整備されました。

2014年10月からのジョコウィ政権では、さらにこの流れを加速させて以前よりも積極的なPPP実施を行っています。

2015年3月にはPPPに関する大統領令(大統領令2015年第38号)が制定され、ジョコウィ政権はPPP事業における政府支援対象セクターの拡大、アヴェイラビリティ・ペイメントの導入などPPPによるインフラ整備を加速するための制度改善に取り組んでいます。

また、2017年2月にはインドネシアの国家開発企画庁(BAPPENAS)、経済担当調整大臣府(CMEA)、財務省(MOF)、内務省(MOHA)、国家調達庁(LKPP)、投資調達庁(BKPM)、 IIGFの7機関の合意の元、組織間の調整機能の役割としてPPP Officeが設置されました。

参照:https://www.jica.go.jp/priv_partner/case/field/ku57pq00002azzsv-att/Indonesia_PPP_Handbook.pdf
https://www.researchgate.net/publication/279227043_Public-Private_Partnerships_an_International_Development_vis_a_vis_Indonesia_Experience

 

NNA ASIAによれば、インドネシアの公共事業・国民住宅省は2021年にPPP事業25件の入札を行い、その総事業費は278兆3500億ルピア(日本円にして約2兆円)となるそうです。

様々なセクターの事業がある中で、最も事業費が多いセクターは262兆ルピアの高速道路と橋の建設と想定されています。

インドネシア公共事業・国民住宅省は、2020年から2024年に必要となるインフラ設備資金2058億ルピアのうち、その7割をPPP事業で賄おうとしています。

そして今後もその流れは活発化していくと見られてます。

 

大統領令2015年第38号(PPPに関する大統領令)の概要

2015年に発令された大統領令により、2005年発令の旧大統領令は廃止されました。ただし、大統領令2015年第38号に反しない限りで実施細則は有効とされています。

大統領令2015年第38号では、対象のセクターが拡大し、アベイラビリティ・ペイメントが導入されました。

その他にも、IIGFの設立、VGFの導入、事業者選定方法の改定などが行われました。

以下からは各々の詳細についてご説明いたします。

 

アベイラビリティ・ペイメントの導入

アベイラビリティ・ペイメントとは、PPP事業の契約において指定されている品質および基準に準拠するインフラサービスを提供するために、政府契約機関(GCA)が民間事業者に対して定額支払を約束する制度を指します。

この制度の導入により、民間事業者が適切な投資リターンを見込んでPPP事業へ参画することを目的としてます。

民間企業側の利点としては、インフラプロジェクト建設の費用を負担しなくてよい点、投資収益率の確実性、需要リスクに耐える必要がない点が挙げられます。

参照:http://kpbu.djppr.kemenkeu.go.id/en/availability-payment/

 

IIGFの設立

IIGFとはIndonesia Infrastructure Guarantee Fundの略称となっており、財務省100%出資により2009年末に設立された公的保証機関です。

IIGFはPPP事業における民間事業者のリスク軽減対策を遂行しており、GCAの契約履行を保証しています。

IIGFは信用力の向上、適切なPPP事業に対する政府保証、政府手続きにおけるガバナンスの透明性や継続性の向上の3点をミッションとして掲げています。

ただ、IIGFが保証するPPP事業には制限があり、大統領令において定められている以下のセクターとなっています。

運輸(鉄道・輸送インフラ)/ 道路/ 水資源・灌漑/ 水道(上下水道)/ 地域排水処理システム/廃棄物処理システム/ テレコム・情報/ エネルギー・電力/ 省エネルギー/ 都市施設/ 地域施設/ 観光/ 教育/ スポーツ・芸術・文化/ 医療/ 複合公共住宅

参照:https://www.jica.go.jp/priv_partner/case/field/ku57pq00002azzsv-att/Indonesia_PPP_Handbook.pdf
https://oneasia.legal/5865
https://www.env.go.jp/recycle/circul/venous_industry/pdf/ppp_indonesia.pdf

VGFの導入

VGFとはViability Gap Fundingの略称となっており、財務省から供与されるPPP事業に対する財政的支援を指します。

社会的便益が大きいにも関わらず、事業採算性の低い案件に対して財務省が建設費の一部を支援することで、PPP事業としてのその事業の成立を支援することを目的としています。

VGFは現金で支給され、特徴としては、VGFは全てのPPP事業に適用されるものではなく、以下の基準を満たしていることが必要とされています。

・経済的にみて実現可能性はあるが、財務的に実現可能性に欠ける案件
・利用者からの料金支払いが収入となる案件
・1000億ルピア(日本円にして約10億円)以上の案件
・PPPに関する大統領令/修正大統領令に規定された入札プロセスを経た案件
・事業期間が終了した際に、所有権が民間事業者から政府契約機関に移行する案件

参照:https://www.env.go.jp/recycle/circul/venous_industry/pdf/ppp_indonesia.pdf

 

事業者選定方法の改定

PPP案件の事業者選定は原則、公募入札方式で行われます。しかし、大統領令2015年第38号での改定により、直接指名も例外ではあるものの条件を満たした場合に限り適応することができることとなりました。

大統領令2015年第38号において上記のような様々な制度の導入や改定が行われたことにより、民間企業がより一層PPP事業に参画しやすい環境が整ってきたのではないでしょうか。

 

インドネシアにおいてPPP事業に関わる組織とその実施手順

インドネシアにおいてPPP事業を行うにあたり、関わる組織としては以下のようなものがあります。

KPPIP(インフラ整備加速化委員会):経済担当調整大臣、海洋担当調整大臣、財務大臣、国家開発企画庁大臣、土地都市計画大臣、環境林業大臣で構成され、戦略立案、政策調整、モニタリングを担当する

BAPPENAS(国家開発計画庁):PPP政策の促進、PPPプロジェクトの事業の市場性・収益性の検証、契約関係を担当

・CMEA(経済担当調整大臣府):公共事業省・土地都市計画庁・環境林業省等を統括し、インフラ・サミット等の会議開催、PPPに関するキャパシティビルディングなどを担当

・CMMA(海洋担当調整大臣府):運輸省・エネルギー鉱物資源省を統括し、港湾・空港・鉄道・電力施設等 のインフラ整備に関する政策立案および省庁横断的調整を担当

・MOF(財務省):PPP事業への財政的支援の仕組み・制度の整備や改善を担当

・MOHA(内務省):地方政府のPPP事業において、アヴェイラビリティ・ペイメントおよび中央政府の政府支援・政府保証を必要とする事業についての審査・承認の一端を担当

・LKPP(国家調達庁):大統領直轄の政府機関となっており、PPP入札手続き支援および監督を担当

・GCA(政府契約機関):PPP事業を計画・準備・実施する政府機関

・BKPM(投資調整庁)

・ATR/BPN(土地都市計画庁)

・IIGF(インフラ保証機関):財務省100%出資により2009年末に設立された公的保証機関

・インフラ金融機関

 参照:https://www.fujitsu.com/downloads/JP/archive/imgjp/group/fri/service/case/BC_1.pdf
https://www.jica.go.jp/priv_partner/case/field/ku57pq00002azzsv-att/Indonesia_PPP_Handbook.pdf

また、以前のコラムでも紹介させていただきましたが、再度簡単にPPP事業の実施手順についてもご紹介いたします。

 

PPPプロジェクト実施の手順

プロジェクトの関連省庁の大臣や行政機関長からKPPIPに提案を提出

KPPIPにおいて技術的・財務実行可能性を評価

財務省リスク管理担当部門においてコスト、リスクについての確認

財務大臣の承認

予算案の計上

国会審議にて議決

プロジェクトの関連大臣・行政機関の長が入札手続き開始

事業者決定

プロジェクトの関連大臣・行政機関の長が財務省リスク管理担当部門へ入札経緯の説明

財務大臣の最終決定

契約

 

インドネシアにおける日本企業のPPPの取り組み例

JICAなどの日本における独立行政法人機関だけでなく、既にいくつかの日本企業がインドネシアにおいてPPPを行っています。

今回のコラムでは、富士通株式会社とパナソニック株式会社の行おうと考えている(行ってい
た)取り組みについて説明させていただきます。

 

①富士通株式会社

日本と同様地震大国であるインドネシアであることから、インドネシア政府は国民や観光客に対して何か起こった際に災害情報を迅速に伝える必要性があるとされています。このような背景から、富士通株式会社は「ITを活用した災害情報提供サービス事業」に焦点をあててPPPの取り組みを考察していたようです。

参照:https://www.fujitsu.com/downloads/JP/archive/imgjp/group/fri/service/case/BC_1.pdf

②パナソニック株式会社

2015年3月16日、ジャカルタの在インドネシア日本大使館においてパナソニックが発明した太陽光独立電源パッケージである「パワーサプライコンテナ」を電源として活用する官民連携のプロジェクトが採択され、その署名式が行われました。

パワーサプライコンテナとは、新興諸国などに多く存在する無電化地域向けに開発されたもので太陽発電や電気を貯めておくことができる特殊な電池である鉛蓄電池に加えてエネルギーマネジメントシステム「パワーサプライコントロールユニット」を搭載しています。

山間部地域の教育環境改善を目的に行われたこのプロジェクトでは、電気の通っていない地域においてパワーサプライコンテナを導入することにより、LED照明やポンプなどの電気設備やパソコン、プロジェクター、テレビなどの教育ツールに電力を供給することが可能となりました。

参照:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000442.html
https://news.panasonic.com/j001644.000003p/topics/2014/38584.html

まとめ

インドネシアでは今後も積極的にPPP事業が行われていくと推測できます。

日本企業も続々とインドネシアのPPP事業に参画しており、制度も民間企業が参画しやすいように改定されています。今後もインドネシアのPPP事業には目が離せません。

 

弊社では、インドネシアの官民連携プロジェクトに関する最新情報や様々なテーマに関する調査やオンラインでのインタビュー手配なども承っております。

ご興味がある方はぜひお気軽にお問い合わせ下さい。

 

株式会社インドネシア総合研究所
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Tel: 03-5302-1260

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