【コラム】インドネシアにおける官民連携(Public Private Partnership)について

今年2020年7月1日より、世界銀行はインドネシアを下位中所得者層から上位中所得者層へと引き上げました。

この層区分は、各国における1人当たりの国民総所得(GNI)を基準に定められているものであり、世界銀行は上位中所得者層をGNIが4,046ドルから12,535ドルと定めています。

2019年にインドネシアはGNIが4,050ドルとなり、上位中所得者層の仲間入りを果たしました。

その一方で、インドネシアのインフラは未だに発達が不十分な部分も多くあります。

今回のコラムでは、インドネシアにおけるインフラ整備などで大切となってくる取り組みである官民連携(Public Private Partnership)についてご説明させていただきます。

 

官民連携(Public Private Partnership)について

官民連携は、行政と民間が協力して公共事業などを行うことによる公共サービスの質の向上を目的として行われています。

 

その発祥はイギリスですが、日本では1982年から民活政策の一貫として始まりました。

インドネシアにおいても、1980年代から制度整備が始まり、1990年前後からインフラに対しての民間投資が始まりました。

このように国や自治体等の公的機関と民間企業が資金を出し合ってインフラ開発を行うスキームを官民連携(Public Private Partnership、PPP)と言います。

官民連携自体の実装目的は、民間の資金を動員することによって持続可能な資金調達の代替手段となること、健全な競争を通じてサービスの量、質、効率を向上させること、インフラストラクチャの提供における管理と保守の品質向上などが挙げられます。

 

インドネシアにおける官民連携について

出典;世界銀行, Data, Indonesia(https://data.worldbank.org/country/ID)を基に弊社作成

インドネシアでは、先ほど述べた国民総所得(GNI)や上記のグラフより読み取れる国内総生産(GDP)の成長に伴い、電気・水・道路等のインフラ需要が増加しています。

このような状況の中で、インドネシアは国家予算や自治体の予算だけでインフラ事業開発を行う事が困難になり、公的機関と民間が協力し合ってインフラ開発を行う事が大事なポイントとなってきました。

事実、2015~2019年のインフラ資金需要の推計によると、インドネシア政府はインフラ資金需要全体の41.3%、合計で約4796兆ルピア(日本円で約3.5億円)しか達成できていません。

そのため、残りの資金ギャップは民間企業との協力を通じて補填されることが必要となります。

インドネシア政府は、2005年にPeraturan Presiden Tentang Kerjasama Pemerintah Swasta(2005年大統領令第67号)で官民連携に関する法律を定めました。

その時に一般用語のSwasta(民間・自営)という用語を使ったのですが、のちに2015年に Peraturan Presiden No.38 Tahun 2015 Tentang KPBU(2015年大統領令第38号)と法改正が行われ、またPrivateに当たる用語はSwastaからBadan Usaha(営利法人)へと変更されました。

ちなみに、国営企業はBadan Usaha Milik Negaraと表記されて、用語統一がなされましたSwastaからBadan Hukumに用語が変わる事で、コンプライアンスを重視したコーポレーションを示唆するという動きがみられます。

2015年の改正後は官民連携によるインフラ整備を加速するための制度改善が進んでいます。

2005年大統領令第67号と2015年大統領令第38号の変更点としては、以下の3点が挙げられます。

1つ目としては、官民連携事業の対象セクターが拡大された点です。従来の基盤インフラに加えて、教育やスポーツ、芸術、文化、医療など広く社会インフラ全般に対象を拡大しました。

2つ目としては、複数のセクターに跨がる案件に対する官民連携事業の対象セクターが拡大された点です。

例えば、アクセス道路の整備を要する港湾や空港開発事業などが挙げられます。

最後に3つ目としてはアヴェイラビリティ・ペイメント制度の導入です。

アヴェイラビリティ・ペイメント制度とは、交通需要に依存せず、運営や管理において提供するサービスに対する民間コンセッション会社のパフォーマンスに応じて対価が支払われる制度です。

2015年大統領令第38号5節では官民連携のスキームで行える事業は経済性の強いインフラ「経済インフラストラクチャ」と社会性の強いインフラ「社会インフラストラクチャ」と大きく分けて2つとなっており、以下の分野が含まれています。

1.運輸
2.道路
3.水資源と灌漑設備
4.水道
5.集中型排水処理システム
6.分散型排水処理システム
7.廃棄物処理システム
8.情報通信
9.発電
10.石油、天然ガス、再生可能なエネルギー
11.省エネ
12.都市関連設備
13.教育関連設備
14.芸術とスポーツ関連設備と施設
15.地域開発
16.観光分野
17.健康分野
18.刑務所まわり
19.国民向け住宅

 

インドネシアにおいて官民連携を実施する上でのスキーム

2015年大統領令第38号の中では、3つの段階を踏んだ上で官民連携の実施が確定すると明記されています。

 

①計画段階(実施可能なインフラプロジェクトを政府が特定、計算、分類)

官民連携プロジェクトを実施するにあたり、プロジェクトの採択を政府が行う必要があります。

そのために、予算計画の準備や資金調達スキーム計画とその資金源、評価のスケジュール、プロセス、および方法を含む官民連携プロジェクト入札計画などに関する調査が行われます。

その結果とコミュニティや機関との公開協議の結果を基にプロジェクトの採択が行われます。

②準備段階(プロジェクトの準備と実現可能性の評価)

準備段階では、プロジェクトの準備を完了するために事前実現可能性調査や環境調査、用地取得計画といった様々な調査が実施されます。

その中で、プロジェクトの資金や技術面の調査、政府支援や政府保証の申請、プロジェクト実施場所の申請、リスクマネジメント、プロジェクトを実施する民間企業の投資収益形態の調査などが行われます。

③トランザクション段階(プロジェクトが開始されるまでの政府と民間の間におけるオークション)

最終段階では、官民連携における契約を結ぶために様々な事項を決定し、契約の締結を行います。

この段階では、政府と民間セクターの実施事業体との間に官民連携協力契約が結ばれます。

契約を結ぶに当たり、マーケティングサウンディングや、プロジェクト実施場所の決定、プロジェクト実施に関心のある民間団体を選択するためのオークションを実施した後に実施事業者の選定、ファイナンスクローズなどといった過程を踏んだ上で、最終的にトランザクションが行われます。

 

インドネシアで現在行われている官民連携プロジェクト

「PPP Book 2019」では、投資家候補やその他の官民連携プロジェクトのステークホルダーに対してインドネシアで利用可能なインフラ投資に関する情報を提供しています。

 

2019年現在、PPP Bookに掲載されているプロジェクト数は20件となっており、そのうち上記のスキームで2段階目にあたる準備中のプロジェクト数は19件、それよりさらに進んだ事前資格審査段階のプロジェクト数は1件となっています。

以下は20のプロジェクト各々の簡単な概要を示したものとなっています。

プロジェクト 概要
事前審査段階 ハン・ナディム国際空港旅客ターミナルの拡張 2019年に最大で800万人の旅客を取り扱うことを計画

(実施業務)
・旅客ターミナル36,000平米
・機器(エアブリッジ8つ、手荷物処理システム、FIDS、ADGS)
・ITシステム
・エプロン・誘導路の工事

準備段階 リアウ非有料道路の保全 同州東部のスマトラ道路の一つ、三本の道路から成り国家経済成長と相関する国道

(実施業務)
・43kmの道路延長
・​投資収益は可用性支払方法を使用

ブカシの耐道路性試験センターと電動車両認証の実験場の設置 国際車両規則のためのUNECE基準を採用するための車両の認
証およびテスト場として計画(実施業務)
・高速トラック、ブレーキテスト、音響テスト、サイドスライ
プテストなどのテスト施設建設
ジャワとスマトラの自動車の重量測定実装ユニット (UPPKB)の調達 (実施業務)
・道路上の重量超過車両を制御するために、ジャワ及びスマトラの6箇所で、計量ブリッジ/トラックスケールの調達を計画
バウバウ港の開発 増大する需要を満たし、南東スラウェシにおける経済と観光の玄関口としての都市を目指すバウバウ地方政府の長期計画を支援する目的で開発を計画
メダン市交通局のLRTシステム/BRTシステムの設置 (実施業務)
・LRTシステムは17.4km及び11駅に沿ってメダン南西部のLau Cih市場の都市サブセンターとメダン市北東部のサブシティセンターを結ぶ、高架構造で建設予定
・BRTシステムはJalan SisingamarajaからJalan Gatot Subrotoまで18.3 kmの長さを横断し、31のバス停と2つのターミナルを経由
インドネシア国立がんセンター ダルマイス病院の建設 (実施業務)
・プロジェクトのための資金調達
・新しい建物の建設
・医療機器および非医療機器の調達と設置
・支援施設の管理と機器のメンテナンス(医学的および非医学的)
・非臨床支援サービスの提供
・非中核事業の管理
・公共部門への知識の移転とトレーニング
ピルンガディ病院の建設 ​メダン市の病院プロジェクト (実施業務)
・新建物の建設や既存建物の改修
・医療機器の調達
・病院管理システム (HMS) の調達
・建物と医療機器のフルサービスメンテナンスを計画
サム・ラトゥランギ大学病院の建設 自治体の土地に建てられた六階建ての教育病院(タイプC)となっており、​外来患者は毎日300人、入院患者は毎日約130人になる

(実施業務)
・病院のベッド数は最初の年で約100床、7年間で約250床に増加させる

ペカンバル水道のインフラ提供 信頼できる飲料水インフラを提供し、ペカンバル市の経済活動を支援することが目的

(実施業務)
​・既存のWTPと貯水池を500 lpsまで改修し、新しい取水施設TWPと容量250 lpsの貯水池を建設
・​ペカンバルの七つの地区で61,000の接続をカバー

レゴック・ナンカ地域廃棄物処理場の設置 (実施業務)
• 西ジャワのレゴック・ナンカにある6つの自治体(バンドン県、バンドン市、スメダン県、チマヒ市、ウェスト・バンドン県、ガラート県)から出される1,845トン/日の廃棄物の管理
​• 廃棄物の発電容量を決定し、PLNと購入契約を締結
​• 処理場の設計、建設、財務、運営、WTE発電所とそれを支えるインフラの維持
スラカルタ市の街灯の設置 スラカルタ政府は街灯の公共サービスを再び活性化させる目的で実施

​(実施業務)
・道路の全長は976 kmと推定。同市に必要な約31,890個のランプポイントの設置

ジョグジャカルタ-バーウェン有料道路の設置 ・スマラン-ソロ有料道路をジョグジャカルタに接続するためのジョグジャカルタ-バーウェン有料道路、実施背景は​幹線道路の交通量を減らすため

・このプロジェクトはインドネシア国家戦略プロジェクト(PSN) に含まれている

・有料道路はウンガラン-バーウェン回廊の工業地域とジョグロスマール (ジョグジャカルタ-ソロ-セマラン) 観光地域の開発を支援する役割を担う

スマランのLRTの設置 ​・スマランは既にBRTシステムで都市公共輸送を行っているが、​BRTには専用車線がないため、輻輳問題が依然として発生している
​・LRTは輻輳を低減する解決策の一つとして提案され、高架軌道で建設される予定
アチェの​ザイノエル・アビジン病院の開発 ・ザイノエル・アビディン総合病院は、ナングロアチェ・ダルサラーム政府が運営する公立病院
​・市民に医療を提供することを目的として、​より質の高い医療に対する需要の増加に対処するために病院の開発と改善を行う
・厚生省規則に準拠したA級病院を目指す
サレンバ刑務所の移転 ・ジャカルタ中央部にあるサレンバ刑務所を移転
・サレンバ刑務所の過剰収容を解決することを目的
ヌサカンバンガン産業刑務所の設置 ・刑務所と家畜飼育などの生産活動を組み合わせることで、地域の経済成長促進が期待される
・生産活動を組み合わせることで刑務所の価値を高めることを目指す
バンドン工科大学チレボンキャンパスの開発 ・チレボンキャンパス(1万平米)にITBキャンパスを整備し、チレボンの高等教育を支援するとともに、新入生を受け入れる
・世界クラスのインフラストラクチャを持つように設計
シプタット・マーケットの建設 ・既存の伝統的市場を活性化・近代化し、市場活動のための施設や支援インフラを整備
​・本プロジェクトの総面積は39,851平米(21,051平米の開発面積を含む)
ビントゥニ工業団地の建設 ​・ビントゥニ工業団地は、2018年大統領令第56号に基づく国家戦略プロジェクト
​・この工業団地は、メタノール、ポリエチレン、ポリプロピレンへのいくつかの天然ガスプラント処理から構成

​出典;REPUBLIC OF INDONESIA MINISTRY OF NATIONAL DEVELOPMENT PLANNING ”PUBLIC-PRIVATE PARTNERSHIP INFRASTRUCTURE PROJECTS PLAN IN INDONESIA 2019”を基に作成
https://www.infrapppworld.com/report/indonesia-ppp-book-2019

 

この表からも読み取れるように、実に様々な分野の官民連携プロジェクトが動いています。

そして、ここ数年インドネシアで行われてきた官民連携プロジェクト事業の振り分けを見てみると以下のようになっています。

PPP BOOK 2017 PPP BOOK 2018 PPP BOOK 2019
入札済み
プロジェクト
17プロジェクト 8プロジェクト 9プロジェクト
承認済み
プロジェクト
1プロジェクト 7プライベート 1プロジェクト
準備段階
プロジェクト
21プロジェクト 21プロジェクト 19プロジェクト
トータル
(承認+準備)
22プロジェクト 28プロジェクト 20プロジェクト

出典;REPUBLIC OF INDONESIA MINISTRY OF NATIONAL DEVELOPMENT PLANNING ”PUBLIC-PRIVATE PARTNERSHIP INFRASTRUCTURE PROJECTS PLAN IN INDONESIA 2019”を基に作成
https://www.infrapppworld.com/report/indonesia-ppp-book-2019

まとめ

今回のコラムでは、インドネシアにおいて官民連携がどのような役割を持っているのか、そしてどういったプロジェクトが実施中・実施予定なのかについて説明させていただきました。

プロジェクトのテーマは非常に多岐にわたっているため、今後もさらに色々なプロジェクトが進行していくと推測できます。

官民連携のような政府が絡んでくるプロジェクトとなるとインドネシアの法律などもしっかりと理解することが必要不可欠となります。

弊社では、インドネシアの官民連携プロジェクトに関する最新情報や様々なテーマに関する調査やオンラインでのインタビュー手配なども承っております。

ご興味がある方はぜひお気軽にお問い合わせ下さい。

 

株式会社インドネシア総合研究所
お問い合わせフォーム
Tel: 03-5302-1260

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