【コラム】インドネシアにおける温室効果ガス削減のための取組み
気候変動に対する危機感が強まる中、温室効果ガスの削減を目指した取組みが世界各国で行われています。
インドネシアでも、2021年10月に定められた「国税規制調和法」で、新たに炭素税(Pajak Karbon)が導入されることになりました。
今回のコラムでは、インドネシアの環境対策の現状と、気候変動に対する取組みについてご紹介します。
インドネシアのCO2排出量と削減目標
インドネシアは2016年、気候変動に関するパリ協定に署名しています。
しかし、Climate Action Trackerによると、現在のインドネシアの気候変動に対する取組みは、「非常に不十分(highly insufficient)」とされています。
これは、インドネシアの政策や取り組みが、むしろ気温上昇に寄与するものとなっており、パリ協定で定められた1.5℃目標に照らして非常に不十分であるということを表しています。
インドネシアは、2060年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言しています。
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量から、植林や森林の整備等で確保された温室効果ガスの吸収量を引いた合計を、実質0にするということです。
インドネシア環境林業省大臣によると、2030年から2040年の間にインドネシアの開発はピークを迎え、その後2050年から2060年の間は減退傾向が続くとの予測に基づいた時期設定だということです。
これを達成するため、エネルギー、廃棄物、産業、農業、林業の5つの分野での削減目標を定めています。
そのうち、林業・土地利用分野が24%、エネルギー分野が16%となっています。
では、具体的にどのような取組みが行われているのでしょうか。
参考:https://climateactiontracker.org/countries/indonesia/
https://www.oecd.org/env/oecd-green-growth-policy-review-of-indonesia-2019-1eee39bc-en.htm
https://news.yahoo.co.jp/articles/c8ef391beca0fea63f85fbaf0031d81c2ebd06e1
http://www.sitinurbaya.com/menteri-lhk-kepentingan-nasional-menuju-netral-karbon-2060-tanggung-jawab-bersama
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
取組み①森林火災と焼畑(Karhutla)対策
インドネシアでは、毎年乾季になると森林火災が発生しています。その原因の主たるものが焼畑農業です。
森林火災と焼畑は合わせてKarhutla(kebakaran hutan dan lahan)と呼ばれ、大気汚染や森林減少につながると指摘されてきました。
以下の図は、インドネシアにおける森林火災と焼畑による二酸化炭素排出量を示しています。
年によって差はありますが、特に森林火災の多かった2019年は、インドネシア全国で6億トン以上の二酸化炭素が排出されていることがわかります。
2020年、21年は減少に転じていますが、いかに火災の発生を抑えていくかは喫緊の課題です。
国家警察は、関係機関と協力し、森林火災と焼畑防止のための分析システムを立ち上げるなどの対策を進めています。
また、地方自治体の中で、独自の対策を講じているところもあります。
例えば、南カリマンタン州政府は、陸路では入りづらい森林火災の消化活動のために、空中消火のできるヘリコプターを配備し、火災発生時、迅速に対応できるよう体制を強化しているとKompas紙が伝えています。
Karhutla Monitoring Sistem “Emisi CO2 dari Kebakaran Hutan dan Lahan (Ton CO2e) Per Provinsi Di Indonesia Tahun 2016-2021”のデータに基づき弊社作成
http://sipongi.menlhk.go.id/hotspot/emisi_co2
参考:https://regional.kompas.com/read/2021/10/15/143840178/sudah-diantisipasi-kasus-karhutla-di-kalsel-selama-2021-diklaim-menurun
https://www.aa.com.tr/id/nasional/indonesia-tekan-kasus-kebakaran-hutan-untuk-turunkan-emisi-karbon/1954995
取組み②マングローブ林の保全
インドネシア環境林業省大臣によると、インドネシアにおいて60万ヘクタールのマングローブ林が破壊されています。
その原因として、マングローブ林が農業用地や住宅地として転用されていることや、違法な伐採、廃棄物による汚染などがあげられます。
マングローブは、熱帯雨林と比べても、特に地中でより多くの炭素を貯蔵できると言われており、その保全は、インドネシアが温室効果ガス削減目標を達成するにあたって、重要な役割を担っていると言えます。
インドネシアのジョコウィ大統領は、2021年中にマングローブ林34,000ヘクタールについて、再生あるいは植樹を進めることを目標にしています。
また、それによってエコツーリズムや地域観光を支援し、地域経済の活性化も見込んでいるとのことです。
さらに、メディアやエネルギー関連企業を傘下にもつIndikaグループが、インドネシア全国で21,000本分のマングローブの植林をするなど、企業の取り組みも報じられています。
参考:https://www.liputan6.com/news/read/4670081/menteri-lhk-kerusakan-mangrove-seluas-600000-ha-rehabilitasi-akan-dilakukan-sampai-202
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/world/mangrove/effect/relation.html
https://www.liputan6.com/regional/read/4683728/menanam-puluhan-ribu-mangarove-menuju-net-zero-emisi-2050
取組み③再生可能エネルギーへの転換
低炭素社会の実現に向けて、注目されるのが再生可能エネルギーです。インドネシアでも近年関心が高まっており、弊社の過去コラムでも、アブラヤシを原料とした再生可能エネルギーや、太陽光発電について取り上げてきました。
過去コラム:
ここ数ヶ月の間にも、再生可能エネルギー関連の条例が2本制定されています。
1つは、8月のエネルギー鉱物資源大臣令(2021年第26号)です。これは、2018年に制定された条例を改定したもので、屋上での太陽光発電で生み出された電気を、インドネシアの国営電力会社であるPLNが、その売電価格の100%で買い取ると定めています。
ただし、売買できるのは規定に沿った太陽光発電システムで発電されたものだけとなるので、規定には注意が必要です。
もう一つは、9月27日に発表された2021-2030年電力供給総合計画(RUPTL)です。
ここでは、2030年までに再生可能エネルギーを51.6%にするという目標が設定されており、今後の再生可能エネルギー導入の後押しになると期待されています。
参考:https://thediplomat.com/2021/10/a-turning-point-for-renewable-energy-in-indonesia
https://www.ashurst.com/en/news-and-insights/legal-updates/2021/sep/rooftop-solar-in-indonesia-further-progress-and-clarity-in-regulatory-framework
一方で、いわゆる「グリーンウォッシング」に関する批判の声がインドネシアでもあがっています。
グリーンウォッシングとは、エコであるという印象を与えるために、「サスティナブル」、「地球に優しい」などを意図的に過剰に、あるいは根拠なくうたう商品や企業の行為をさします。
このような行為は、消費者に謝った認識を与えるだけでなく、真に環境問題に取り組む企業の信用をも下げかねません。環境に配慮した取り組みを推進するには、企業が適切な情報開示を行うよう促すことも必要不可欠です。
今後、インドネシアでビジネス展開を考えるにあたっては、環境への配慮が今まで以上に重要な問題となるでしょう。
弊社では、再生エネルギーの調査等も行っており、各種セミナーの実施にも対応しております。
ご興味のある方はぜひ一度ご相談ください。
株式会社インドネシア総合研究所
お問い合わせフォーム
Tel: 03-5302-1260