【コラム】インドネシアの住宅の特徴と今後の展望
新型コロナウイルスが世界中に蔓延しておよそ1年が経とうとしていますが、その威力は衰えることを知らず現在もまだ感染を広げています。
その状況下において、人々は「家」にいることを強いられています。
家の中にいる時間が非常に増えたことで、住むための場所に加えて「活動するための場所」として住宅は捉えられるようになり、人々の生活に以前よりもさらに重要な地位を占めるようになってきました。
インドネシアにおいても同様の流れがおきています。
今回のコラムではインドネシアにおける「住宅」に焦点を当てて、その特徴や近年の動きについてご説明させていただきます。
インドネシアにおける住宅の特徴
インドネシアの住宅と一概に申し上げても、高層マンションからアパートメント、コスと呼ばれる下宿、一軒家などと様々なタイプの住居が存在します。
インドネシアの住宅の特徴の一つとしては、全世帯の半数以上の住宅が瓦屋根となっていることが挙げられます。
その建築材料としては主に亜鉛とアスベストが使用されているようです。
亜鉛の使用率は農村部より都市部が多くなっており、反対にアスベストの使用率は都市部が農村部より多くなっています。
未だ多くの住宅でアスベストが使用されているインドネシアにおいてその問題は深刻なものとなっています。
アスベストは発癌性があることは広く知られていますが、インドネシアにおける家庭でのアスベストばく露は、毎年数千人の死亡を関連があるとされています。
また、インドネシア政府は「最低生活水準」を満たす住宅の判断基準の一つとして住宅の床がタイル張りとなっているか否かを掲げています。
インドネシア中央統計庁(BPS)が2020年12月に出した「Indikator Perumahan dan Kesehatan Lingkungan 2020」によれば、インドネシアの全世帯の半数以上である約54%の世帯がタイル張りの床の家に住んでいます。
ただ、この割合はインドネシアの農村部と都市部でかなり異なっており、農村部は36.7%、都市部は67.15%となっています。
農村部ではタイルと同じ位の割合でセメントやレンガの床の家が存在しています。
出典;インドネシア中央統計庁(BPS)、Indikator Perumahan dan Kesehatan Lingkungan 2020を基に弊社作成 (閲覧日:2021年1月15日)
https://www.bps.go.id/publication/2020/12/31/68cf1c94411883822b83952f/indikator-perumahan-dan-kesehatan-lingkungan-2020.html
インドネシアでは過去3年間で、土床を持つ世帯の割合は減少しつつあります。土床のデメリットとしては衛生的にあまり良くないため、病気にかかってしまう危険性があることが考えられます。
また、「最低生活水準」を満たす別の住宅の判断基準として、一人当たりの床面積が挙げられます。
床面積は、各世帯の家族の密度レベルとも関係があり、居住者が適切に生活できるようにするための一人当たりの床面積は少なくとも7.2平方メートルと言われています。
インドネシアでは2020年時点では約78.5%の世帯が一人当たりの床面積が7.2平方メートル未満の住宅で生活をしているのが現状です。
中でも都市部と農村部でその割合には差があり、都市部は92.4%、農村部は60.7%となっています。年々この割合は減少傾向にあるものの、未だ多くの住居の一人当たりの床面積は7.2平方メートル未満となっています。
出典;インドネシア中央統計庁(BPS)、Indikator Perumahan dan Kesehatan Lingkungan 2020を基に弊社作成 (閲覧日:2021年1月15日)
https://www.bps.go.id/publication/2020/12/31/68cf1c94411883822b83952f/indikator-perumahan-dan-kesehatan-lingkungan-2020.html
また、Quintile(インドネシア語:Kuintil)と呼ばれるインドネシアの調査で用いられる階層分類方法では、一人当たりの床面積が7.2平方メートル未満の住宅の割合が以下のように示されます。
Quintileはインドネシアの全ての階層を以下のように5等分するので、Quintile1が最も一人当たりの床面積が7.2平方メートル未満の住宅の割合が高く、Quintile5が最も低くなっています。
・Quintile 1…最貧困層
・Quintile 2…貧困層
・Quintile 3…中間層
・Quintile 4…上位中間層
・Quintile 5…富裕層
スラム街
インドネシアの中でも特に首都のジャカルタは、インドネシア中から人口移動が集中している都市であり、スラム街が急速に拡大されている地域とされています。
スラム街は決して住む上で適切な設備が備わっているとは言えない場所であることが多く、国際連合児童基金(UNICEF)によると、スラムの世帯とは以下の項目が一つ以上欠如している世帯と定義しています。
参照;https://www.unicef.or.jp/osirase/back2012/pdf/SOWC_2012-Main_Report_JP_21Dec2011_summary.pdf
・改善された水へのアクセス
過度な身体的努力や時間を必要とせず、適量の水が手ごろな価格で入手できること
・改善された衛生施設(トイレ)へのアクセス
私用トイレまたは妥当な人数で共用する公共のトイレの形態で、排泄処理設備が利用できること
・住み続けられる保証
住居の確実な賃貸または所有の状態の証明として、または強制退去からの保護のために使用できる証拠または文書があること
・住居の耐久性
危険のない土地に永続的で適切な構造で施され、降雨、寒暖、または湿気といった気候条件が極度に至っても居住者を保護できること
・十分な生活空間
同じ部屋を共用するには最高3名までであること
JakartaPostによれば、ジャカルタの半分はスラム街で構成されているそうです。ジャカルタには高層ビルなどが多く存在しますが、市内の土地利用分布は不平等であるため、所有者がいない土地や川、鉄道近くの所有されていない区画において多くのスラム街が発達しているようです。
インドネシアと首都ジャカルタにおける持ち家の所有率
インドネシアでは、ここ3年間持ち家の所有率が比較的変化しておらず、約80%の世帯が自分の持ち家があるとされています。
2020年には、都市部での持ち家の所有率が72.04%、農村部は90.35%と都市部の方が農村部よりも低くなっています。都市部の世帯は持ち家に加えて賃貸やリースをしている世帯が15%近くいます。
インドネシアの様々な地域の中でも首都であるジャカルタは、持ち家の所有率が最も低い地域とされています。
ジャカルタの持ち家の所有率はおよそ45%となっており、ジャカルタにする世帯の1/3以上は賃貸で暮らしています。
その理由としては、人口の移動が激しいことや土地が高価格であることなどが挙げられます。
インドネシアにおける若者と住宅
インドネシアの代表的メディアKonpasによると、若者が「衣食住」の中でも「住」に対する優先順位が低下している傾向にあるそうです。
2017年に行われた調査では、インドネシアの七大都市に住む25〜35歳のミレニアム世代(一般的には1980年代から2000年代に生まれた人々)のうち住宅を所有している割合は39%で、残りの61%の人は未だ住宅を所持していません。
「経済的にはより安定的なはずの世代」と言われているミレニアム世代ですが、61%の若者が何らかの借金やローンを背負っており、そのうちの20%は住宅ローンを抱えているようです。
参照;https://properti.kompas.com/read/2018/04/09/155858321/61-persen-milenial-belum-punya-rumah
また、2016年の記事では5年後の2021年にはジャカルタに住むミレニアム世代が住宅価格の高騰により持ち家を購入することがかなり難しくなると言われています。
インドネシア政府の住宅や不動産に関する見解や動き
住宅のニーズの充足は国によって保護されなければいけないとされています。
インドネシアの国家計画文書や持続可能な開発目標(TPB)などのグローバルアジェンダでは、「健全な家と環境」を開発目標として位置付けています。
TPBには目標6「きれいな水と衛生」、目標7「清潔で手頃なエネルギー」、目標11「持続可能なコミュニティと都市」といった目標を含まれています。
また、インドネシアの国家中期開発計画(RPJMN)2020-2024には、2024年までに70%の世帯が最低限度の設備を備える住宅を所有すること、また、同年に適切な飲料水へのアクセスを100%とすることを目標としています。
インドネシア政府は包括的で住みやすい都市を作るために手頃で安全な住宅や居住地への人々のアクセスを増加させていく施策を行っています。
住宅の所有率を増やすため、インドネシア政府は低所得者向けの施策を含む、様々なプログラムを構築、実施しています。
今回のコラムでは、インドネシアにおける住宅を様々な観点から説明してきました。
「住宅」の重要性がより一層高まったコロナ禍において、インドネシアの住宅の中には最低生活水準に満たない住宅で生活をする人々も多く存在します。
弊社では、インドネシアの住宅や不動産に関する最新情報や様々なテーマに関する視察代行、オンラインでの調査代行なども承っております。
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