【コラム】インドネシアの新しいロブスター輸出政策
インドネシアは世界でも有数のロブスターの稚エビの生産国で、ロブスターの輸出量は世界12位です(出典:Tridge)。
ロブスターには数多くの種類がありますが、インドネシアで最も多く見られるのは、「Panulirus spp」 という種類です。インドネシアのほぼすべての海域でロブスターは豊富に存在しています。
インドネシアはロブスターの養殖を2000年に始めました。この点については、インドネシアは1992年養殖を始めたベトナム(東南アジアにおける最大の競争相手)に後れを取っています。
インドネシアにとってロブスターの最大の輸出相手は中国です。東南アジアにおける最大の輸出先はシンガポールです。
マレーシア、タイ、ベトナムへもインドネシアのロブスターは輸出されています。
2020年5月、エディ・プラボウォ海洋漁業大臣は前大臣(スシ・プジアストゥティ)が制定したロブスターの稚エビの輸出禁止措置を公式に撤回すると発表しました。
この政策転換は「インドネシア共和国領海内のロブスター(イセエビ属)、カニ類(ガザミ/ワタリガニ科ノコギリガザミ属及びガザミ属)の管理に関する海洋漁業大臣規則 2020年第12号」にて定められています。
この方針転換は、インドネシア国内に論争を引き起こしました。2016年に稚エビの輸出禁止が定められたばかりなのに、その正反対の政策への急激な転換は非常に論争的で、議論の余地があると受け止める方も数多く居るようです。
エディ大臣は、この方針転換には幾つもの理由があると主張しています。
主要紙Kompasのインタビューで、エディ大臣は、ロブスターの卵の生産はインドネシアにとって活用すべきビジネスチャンスであること、一尾のロブスターが50万個の卵を産むということを前提にすると、インドネシアのロブスターは270億個の卵を生産できる、という点を力説しています。
この膨大な数の卵の生産を考慮するとインドネシア総研、この卵の輸出は利益を生み出す一つの選択肢ではないかと考えられ、この政策転換は多くの国民に利益をもたらすものだと主張されています。
エディ大臣によると、ベトナムがシンガポールから輸入しているロブスターの稚エビの80%はインドネシア産であるとのことです。
この(シンガポールによる)仲介によって、稚エビの値段は1個50,000~70,000ルピアであるものが、1個139,000ルピアに値上がりしていると見られています。
この点だけに注目すると確かに、ロブスターの養殖で生計を立てている漁業従事者には恩恵がもたらされるかもしれません。
ロブスターの産卵後の生存率は非常に低く、エディ大臣は、卵から成熟したロブスターに生育する確率は、野生状態では0.02%、2万匹に1匹のみだと述べました。
換言すれば、ロブスターの卵を自然に放出することはロブスター自身にとっても、インドネシア経済にとっても有害であると、エディ大臣は考えているようです。
加えて、ロブスターの稚エビの禁輸措置解除が、生態系の持続可能性にダメージを与える可能性について、エディ大臣は否定的見解を表明しています。
さらには、輸出を合法化することで密輸活動を軽減、あるいは消滅させることにもつながると考えているようです。
↑インドネシアの市場で販売されるロブスター
反対意見
前海洋漁業大臣のスシ・プジアストゥティ氏は、2020年6月に行われたオンライン会議で、上述の政策転換に対して、「ロブスターの稚エビ輸出を禁止したのは、ロブスターの養殖に関する適切な技術がまだ確立されていないこと、資源の持続可能性を担保する技術もまだ確立されていないことに基づいたものである」と述べました。
また、ロブスター漁業に一定の制約を定めることは、インドネシアの海域での資源の利用可能性を維持するための最善の策だと信じている、と主張しました。
環境保護運動に従事する者や専門家は、新政策による方針転換を批判し、資源のモニタリング及び環境関連規制が適切に守られなければ、ロブスターの養殖を発展させるための不十分なインフラと相まって、資源としてのロブスターの保全にとって、またインドネシア漁業者の将来の漁獲量確保にとって重大な脅威をもたらす可能性があると強調しています。
彼らは、インドネシアは輸出のみを力説すべきではなく、伝統的な地域の漁業者を巻き込みながら、持続可能なロブスターの養殖を重視すべきであると主張しています。
直近の動向
冒頭の政策転換を受けた直後の数カ月間、ロブスターの輸出が急激に増加したことを受けて、海外での需要も伸びています。
現地の大手メディアTempo Indonesiaは、政府統計に基づき、2020年7月にロブスターの稚エビの輸出は1,789㎏、金額で367万米ドルに達し、同年6月の11万2,900米ドルから激増する結果となったことを伝え、8月は激増した7月からもさらに75.2%の増加を記録しています。
この急激な輸出の増加スピードは想定を上回るもののようにも見えます。短期的な輸出ブームと、上に述べたような持続可能性を確保することは、簡単に天秤にかけられる問題ではないとも言えますが、バランスへの配慮は重要だと考えられます。
環境的観点からの持続可能性
インドネシア国内でのこの問題に関する意見は上述のように分かれていますが、漁業の問題を考える場合はその経済的含意のみならず、環境的観点、海洋資源の持続可能性の観点からの考慮も欠かすことはできません。
持続可能な開発目標(SDGs)は、漁業セクターに関しても、両者のバランスについてできるだけ配慮しようとしているとも考えられます。
水産業は、天然海洋資源の捕獲であっても、養殖漁業であっても、雇用機会及び収入創出の観点から「貧困撲滅」というSDG1と関連しています。
「飢餓をゼロに」というSDG2の目標、「すべての人に健康と福祉を」というSDG3の目標に関連付けて言えば、安くて健康的な食糧の提供という意味において食糧安全保障に貢献しています。
本記事で取り上げている事柄との関連では、稚エビの輸出活動は、養殖活動のサイクル全体に対する意味が考慮されなければなりません。
この点に関しては、稚エビの捕獲量・輸出量に制限を設けるなどの措置により、海洋資源枯渇につながる過剰捕獲を制限し、すべてのステークホルダーがSDG14の「海の豊かさを守ろう」を実現できるような環境を整備すべきではないでしょうか。
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引用文献
Kompas Media. 2020. Kata Edhy, Larangan Ekspor Benih Lobster Banyak Merugikan Masyarakat.July 10.
https://money.kompas.com/read/2020/07/10/063638026/kata-edhy-larangan-ekspor-benih-lobster-banyak-merugikan-masyarakat?page=all.
Mongabay.2020. Ketika Susi Pudjiastuti Ikut Bahas Polemik Ekspor Benih Lobster. July 28.
https://www.mongabay.co.id/2020/07/28/ketika-susi-pudjiastuti-ikut-bahas-polemik-ekspor-benih-lobster/.
Tempo. 2020. Lobster Seed Exports Jump 75 Percent in August: BPS . September 21.
https://en.tempo.co/read/1388724/lobster-seed-exports-jump-75-percent-in-august-bps.
Tridge. 2018. Top Exporting Countries of Lobster.
https://www.tridge.com/intelligences/norway-lobster/export.
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