【コラム】ネガティブリスト改定 ~投資事業分野に関する大統領令2021年第10号について~

昨年10月にインドネシアの国会を通過したオムニバス法(雇用創出法2020年第11号)について、同法の実施細則は別途大統領令等によって定められることになっていました。

本年2月にようやく政令47本、大統領令4本が発布され、現状ではこれらの合計51本の法規制によってオムニバス法施行のために必要な諸規則は一通り整ったことになります(但し、更に省令や大臣通達などで補足的法規制が追加される分野もあり得ます)。

これらの法規制の一つ、投資事業分野に関する大統領令2021年第10号は、「ネガティブリストを改訂する大統領令」と呼ばれており、外資規制に特に関連の深い内容ですので、今回はこの大統領令を中心にご説明したいと思います。

本インドネシア大統領令は、2021年2月2日の日付で発行されておりますが、実際に公開されたのは2月中旬、施行は2021年3月4日からと規定されております。

また、上述の通り、本大統領令は2007年第25号投資法を修正するオムニバス法(2020年第11号法令)の外資規制部分に対応するものですので、外国投資が規制される事業分野に関する2016年第44号大統領令(所謂ネガティブリスト)を上書きするものになります。

 

同インドネシア大統領令の概要

第1条にて、本インドネシア大統領令にて言及される「投資」が、海外直接投資と国内投資の双方を含むものであることが規定された上で、第2条では、以下のように、例外を除き、原則としてすべての事業分野が投資(内資と外資)に開かれていることが明記されております。

 

第2条

以下を除き、すべての事業分野は投資活動に開かれている。

a. 投資に対して閉じられていると宣言された分野

b. 中央政府によってのみ実施可能な活動

 

投資に対して閉じられている分野については、2007年第25号投資法の修正法であるオムニバス法に以下のような規定があります。

オムニバス法 第77条

(1) 海外投資に対して閉鎖されていると宣言されている業種、又は中央政府によってのみ実行されうる活動を除き、すべての業種は投資に対して開放されている。

(2) 前項で言及された、海外投資に対して閉鎖されている業種は下記を含む:

a. カテゴリー1の麻薬の栽培と製造

b. あらゆる種類の賭博、カジノ

c. ワシントン条約(CITES)の付属書Iにて、絶滅の恐れのある動植物種に指定されている魚種の捕獲

d. 建築資材/石灰/カルシウム、水族館、及び土産品/宝石に利用するために、天然のサンゴ礁(生きているもの、死んでいるもの双方)を取得し、利用すること

e. 化学兵器の製造;及びf. オゾン層を破壊する物質の製造及び科学的合成

 

同インドネシア大統領令第3条では、投資に対して開かれた事業分野が以下のように分類されています。

a. 優先事業分野

b. 協同組合及び中小企業に留保される、あるいはそれらとのパートナーシップが求められる分野

c. 特定の条件が求められる分野

d. 上記a、b、cに該当しない分野

 

第4~6条では、上記a、b、cの各分野が説明されています。第4条では、投資が優先・優遇される分野として、やや抽象的ながら、以下のような基準が列挙されております。

a. 国家戦略プログラム/プロジェクトに指定されているもの;

b. 固定資本に関連する分野;

c. 労働集約的分野;

d. ハイテク・分野;

e. 産業上のパイオニア;

f. 輸出志向型分野;及び

g. 調査研究、及び技術革新に関連する活動

 

インドネシアにおけるこれらの分野への投資を検討している投資家には、財政上及びその他のインセンティブが準備されることも明記されています。ただし、注意が必要なのは、「優先事業分野」に該当するからと言って自動的に「外資比率100%」が可能であるとは限らない、ということです(この点は、後述する「リスクベース事業許可」とも関連します)。

この優先事業分野としては、同大統領令の添付リストIに245分野が列挙されています。

 

第5条では、「協同組合及び中小企業に留保されるか、それらとのパートナーシップが求められる分野」として、以下の基準が言及されています:

a. 技術を利用しない、あるいは単純な技術のみを利用するビジネス活動

b. 労働集約的な特定のプロセスに関連する、及び伝承された特定の文化遺産に関連するビジネス活動

c. 活動に必要な資本が、土地及び建物の価値を除き100億ルピアを超えない活動

この事業分野としては、同インドネシア大統領令の添付リストIIに89分野が挙げられています。

 

第6条は同条第1項において、第3条の項目cにある「特定の条件が求められる分野」が、協同組合及び中小企業を含む内資・外資の投資家に開かれていることを明記しつつ、「特定の条件」が以下のような種類に分類されることを定めています:

a. 国内投資家にとっての投資条件

b. 外国資本の所有に関する制限を伴う投資条件

c. 特別許可を伴う資本保護条件

この事業分野としては、添付リストIIIに46分野が挙げられています。

 

さらに、同大統領令第3条にて規定された、投資(内資及び外資)に対して開かれた事業分野について、第4~6条のその他の項目について若干の補足説明を述べたいと思います。

 

優先事業分野

インドネシアにおける優先事業分野の基準としては、上述の通り、第4条第1項のa~g項目に記述がありますが、その例としてはEコマースのアプリの開発(KBLI:62012)、ホテル事業(55111、55112)、デジタルエコノミー分野(データ処理、ホスティング等を含む)(63112)等があります。優先事業分野に該当する事業に関しては、法人税減額、機械・原材料輸入の際の関税免除など金銭的なインセンティブ、及び、許認可の簡易化、事業に必要なインフラの提供、エネルギー、労働力へのアクセスの確保等が挙げられています。

 

 

協同組合・中小企業留保分野

この分野が特に取り上げられているのは、小規模な手工業者等、零細な製造業を保護するための政策であると考えられます。陶器や装飾用陶芸品等、粘土/セラミックからの家庭用品製造(KBLI:23932)家庭用品の修理(95220)等が例として挙げられます。

 

また、協同組合・中小企業とのパートナーシップが要求される事業は、外資単独で事業を営むことができないので、協同組合・中小企業との合弁会社の設立や取引契約(協同組合・中小企業をサプライヤーとして起用する契約)が含まれます。事業分野の例としては、魚の養殖(KBLI:03211)、塩の製造(08930)が挙げられます。

 

特定の条件が求められる分野

従来、インドネシアにおける外資規制は、ネガティブリストと呼ばれる、事業分野ごとの外資の出資比率を定めた表によって定められてきましたので、この「特定の条件が求められる分野」は従来のネガティブリストに最も近いリストの形であると言うことはできます。

 

例えば、「観光客用国内海運(KBLI:50113)」については「外資最大49%」という注記がついていますので、外資比率の上限が49%に定められているということがわかります。

全体としては、新聞など情報発信分野、輸送分野、アルコール製造分野、インドネシアの伝統産業分野等について外資比率の制限が課されていることがわかります。

 

以上の事項をまとめますと、例えば日本企業がインドネシアに進出して現地法人を設立する際のチェックポイントとしては、まず添付リストIIIの条件付き46分野に該当するか否かを確認(外資の出資比率)、その後協同組合・中小企業に留保されている分野及びパートナーシップが要求される分野(合計89分野)を確認し、それらに該当しなければ、添付リストIで優遇措置が得られるか否かを確認する、という手順になります。

しかしながら、今回の政策変更における最大のポイントは、表面上は外資が規制される事業分野が大幅に減って外資規制が大きく緩和されたように見えるものの、実際には、外資の取扱いに関しては、多くの事業分野であまり大きな変更が無い場合も多いという点です。

この点に関連して、大統領令の第7条が温存された条件を述べており、また「リスクベース事業許可」という概念が導入され、それに関する政令も発布されたという事情があります:

インドネシア大統領令第7条では、外資企業はすべて「大企業」に分類されること、そして外資企業の最低投資金額は一つの事業分野(KBLI)当たり100億ルピア以上(土地・建物の金額を除く)でなければならない、と記されています。この総投資金額上の規定が、従前の条件のまま温存されたため、外資が投資可能な事業分野は増えたとしても、全体としては「投資の大幅な自由化」からは程遠い内容となった、という評価もあり得るでしょう。

さらにもう一つの重要なのは、特に外資企業にとって重要なのですが、オムニバス法の実施細則として導入された47本の政令の一つ、「リスクベース事業許可に関する政令2021年第5号」において、事業許可を取得する必要性が当該事業分野のリスクレベルに応じて判断される、という考え方が導入された点で、ローリスクと判断された事業分野に関しては、オンラインでの申告により即座に事業許可が出る場合もあると規定されています。

但し、外資企業が分類される大企業の活動に関してはほとんどがハイリスクに分類されるため、従来通り事業許可を取得する必要が高いとも考えられます。

この政令では、従来の現地法人設立における「いかなる場合も、オンラインでの事業基本番号(NIB)の取得に加えて、(事後監査とは言え)事業許可(Business License)の取得も必須」という従来の考え方が、「事業分野ごとにリスクの度合いを判定し、それに応じた許認可が必要」、つまり「低リスク」あるいは「中リスク」と判断される事業分野であれば、事業許可の取得が免除される場合もある、という形式に変更されました。

文字通りに受け取るならば、この変化はかなり画期的なものなのですが、大企業の企業活動のほとんどは「高リスク」に分類されており、さらに上述の通り外資企業はすべて「大企業」に分類されるので、日本企業等外資企業にとっては、「事業許可(AMDAL等環境関連のものを含む)」の取得が必要、という状況については大きな変化はないとも考えられます。

以上からお分かりになります通り、日本企業にとっては実はあまり大きな変化はない、という見方もできる状況ではありますが、個別の事業分野(KBLI)ごとに実施細則をチェックする必要がありますので、自社の事業分野などを確認されたい場合は、お気軽にお問い合わせください。

 

株式会社インドネシア総合研究所
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Tel: 03-5302-1260

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