【コラム】映画で見る独立以降のインドネシア

インドネシアではハリウッド映画を始めとする外国映画が人気ですが、国内映画産業も盛んであり、見逃せない作品が数多くあります。

特に、独立を遂げ、急速に政治体制や社会情勢が変貌した20世紀中盤から21世紀にかけて、国内の映画産業は国の政治事情や社会事情が反映されていることが分かります。

今回のコラムでは、独立以降のインドネシアを観察するという視点で、インドネシアの国内映画を見ていきましょう。

 

独立以降の映画産業の歴史

インドネシアでは、オランダ植民地時代に映画の製作が始まりました。しかし、当初は海外からの輸入映画が多く、国内の映画産業が育成されるには時間がかかります。

戦争時代、プロパガンダのための映画が作られるようになり、この傾向は独立以降の初代大統領スカルノの時代も続きました。

映画産業が転換期を迎えるのは2代目大統領のスハルトの時代です。軍を導入した強固な独裁政権の元では、反政府活動が行われないよう、厳しい検閲基準が敷かれました。

スハルト体制時は強固な統治を揺るがせないため、また、「パンチャシラ原則」に則り各民族、宗教、人種ではなく「インドネシア人」としてのアイデンティティを形成するため、映画の内容もこのような要素が含まれることとなりました。

しかしながら、スハルト体制後半は映画製作本数が激減し、映画産業は危機に陥ります。さらに、民主化直後は社会的混乱のため、製作される映画の数は少ないものでしたが、徐々に独立系映画の数が増加していき、そのジャンルも幅広いものとなりました。

今日では自由に映画が製作できる環境において、社会的、宗教的、民族的、政治的な映画が製作されています。

 

代表的映画の紹介

では、時代ごとに独立以降のインドネシア映画を紹介していきます。

 

【スカルノ政権期】

”Tamu Agung”(1955、Usmar Ismail)

(画像:Biran, Misbach Yusa. 2009.
Peran Pemuda dalam Kebangkitan Film Indonesia. Ministry of Youth and Sports of Indonesia: Jakarta.)

インドネシアの架空の村、Sukaslametへお偉いさんが訪れるため、村はバタバタと準備を進めます。

とある村人は商人から毛生え薬をもらい、気を良くして村へその商人を招待。村の人々はこの商人をゲストとして盛大にもてなしてしまいます。このゲストの風貌はどことなく当時の大統領、スカルノに似ており、映画を通してスカルノの政権や行動を風刺しています。

 

【スハルト政権期】

“Max Havelaar, atau Lelang Kopi Perusahaan Dagang Belanda”(1976、Fons Rademakers)

インドネシアとオランダが製作した合作映画です。オランダ本国による統治時代、植民地行政官であったMax Havelaarは汚職が蔓延した社会の中で現住民が過酷な状況に置かれている姿を目の当たりにし、解決しようと奔走する姿が描かれています。

スハルト政権期に政府が公開を認めた映画は、共通の敵「植民地支配者」に対して戦う勇姿が紹介されているものであったため、このMax Havelaarは1987年まで長らく公開が認められませんでした。

 

“Langitku, Rumahku”(1990、Eros Djarot)

同じくスハルト体制時代に公開された映画です。小学校に通っている少年が、学校に通えない貧しい少年と交流を深めていく物語です。この映画は当時大きな社会問題となっていた「経済格差」や政治的な問題となっていた「独裁政権による長期支配」について問題提起しているシーンがあります。

幸い、スハルト政権の検閲には引っかからなかったようですが、表現の自由が制限された中で製作されたメッセージ性の高い映画だと言えるでしょう。

 

【民主化以降】

”Ada Apa Dengan Cinta?”(2001、Rudy Soedjarwo)

ジャカルタの高校を舞台とした青春映画であり、仲良しグループといつも一緒にいる主人公のCintaと一匹狼で詩を書く才能があるRangaの恋愛模様が書かれています。

スハルト体制が終わってから数年後に製作され、物語ではRangaの父親が独裁体制下で政権批判をしたために自宅が放火されたり、オランダからの独立運動を扇動するために活動していたChairil Anwarの本をよく持ち歩いていたりと、政治的要素も含まれています。

この映画は若い世代を中心に大ブームを起こし、2014年にはインドネシア版LINEのCMで主人公のその後が描かれ、2016年には続編映画が公開されました。

 

”Arisan!”(2003、Nia Dinata)

都市部に暮らす上流階級の人間模様を描いた作品です。”Arisan“はインドネシアの習慣である交流会のことを指しており、メンバーが順番にホストを務め、ホストはメンバーから徴収した費用を使い料理をもてなします。抑圧されたスハルト体制期とは異なり、裕福であることを隠す必要がなくなった民主化の時代だからこそ、このテーマを扱うことができたと考えられます。

本作品は初めて同性愛を扱った映画としても話題を集めました。

 

”Ayat Ayat Cinta”(2008、Hanung Bramantyo)

エジプトのカイロを舞台に主人公のFahriがムスリム女性と結婚することを目標に、人生で良いことがあっても悪いことがあってもイスラームの信念に基づき乗り越えていく様子が描かれた、宗教的な恋愛映画です。

本作で敬虔なムスリム女性を演じ、人気を博した女優のRianti Cartwrightですが、2010年にキリスト教男性と結婚するために改宗。インドネシアで論争を巻き起こしました。

この映画も人気を博し、2017年に続編が公開されました。

 

”Laskar Pelangi”(2008、Riri Riza)

(画像 Laskar Pelangi, Riri Riza, 2008)

スハルト時代のバンカ・ブリトゥン州を舞台に、貧しい少年たちが学校に通い始め、教師と共に前向きな夢を持ち、成長していく姿が書かれた小説の映画版です。上記のAyat Ayat Cintaは史上最高の興行収入を記録しましたが、同年、本作はその記録を塗り替えました。

小説・映画共にインドネシア国民に勇気を与え、国際的にもHong Kong International Film FestivalやUdine Far East International Film Festivalで受賞しました。

 

まとめ

インドネシアの映画は国の歴史と社会情勢から切り離すことができません。是非皆さんも機会があればインドネシアで製作された映画をご鑑賞下さい。

インドネシアの現代映画は国際的にも多くの受賞経歴があり、また最近では、2018年11月には前ジャカルタ特別州副知事であったアホックの人生にクローズアップした映画も公開され、非常に話題を集めました。今後もインドネシアの映画産業から目が離せませんね。

 

株式会社インドネシア総合研究所
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