【コラム】規制緩和・行政改革の一環としての「脱官僚化」:ジョコウィ大統領の政治公約の展開

昨年2019年10月、ジョコウィ大統領が2期目を迎えた時、彼は再就任スピーチで「インドネシアを、2045年までに世界のトップ5の経済大国に成長させることが私の夢である」と力説しました。

これは、一人当たりGDPを現在の台湾の水準まで高めることを意味しています。

※目標までの長い道のりを牽引するためにジョコウィ大統領は、熟練労働者の形成、インフラ整備、規制緩和・行政改革の実施、天然資源依存の軽減、を重要政策分野として進めていくことを約束しました。

参考ウェブサイト:https://www.ft.com/content/322c7f9b-310a-4c4f-ae6e-598328f59028

 

二期目の大統領任期が1年を経過した2020年10月、ジョコウィ大統領はこの1年間を、外資を誘致するための規制緩和・行政改革は進んでいるものの、公共事業、インフラ開発関連のアジェンダは予定通り進んでいない、と自己評価しました。

特に重要で大規模な公共事業の一つは、言うまでもなく、ジャカルタからカリマンタン島への遷都ですが、コロナ禍の影響もあり、この計画はいまだ実質化しているとは言えない状態です。

インフラ開発は、ジョコウィ政権の追求する主要な政策目標であることは間違いありませんが、大きな遅れが指摘されています。

今年度予算の中で、首都移転に割り振られていた予算は新型コロナウィルス対策へと振り替えられ、2024年から開始される予定であった各政府機関の移転ですが、移転計画自体の実行可能性に疑問符がつけられる事態となりました。

その上、ジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道の開通は2022年以降へと延期されざるを得ない状況です。

インドネシア全土を網羅するはずの高速道路網の開発も複数の地点での工事中断が報告されています。

他方で、規制緩和・行政改革の一つの柱は雇用創出法(オムニバス法)ですが、この法律は本年10月に国会を通過したものの労働組合やイスラム指導者などからの厳しい批判を受けていることも事実です。

とは言え、世界銀行は最近、雇用創出法を「インドネシアの競争力を高めるための重大な改革に向けた努力であり、インドネシアの長期的な繁栄への希望を支えるものである」と称賛しました。この新法によって、海外直接投資に関連するすべての手続きは紙ベースの手続きからオンラインでの手続きに変更され、何カ月もかかっていたものが数日に短縮されると期待されています。

公務員の給与システムも大幅に簡略化される予定です。

ジョコウィ大統領は、規制緩和・行政改革のもう一つの目玉として、脱官僚化を掲げており、その具体的なアプローチとしての官僚組織のスリム化等が発表され、注目を集めています。

ただし、官僚組織のスリム化自体はジョコウィ政権が継続的に取り組んできた政策目標であり、以下に述べるように、最近突然浮上した課題ではありません。

「脱官僚化(debureaucratization)」とは、複雑で時間を要する官僚機構上の手続きを簡略化し、効率的に結果をもたらすプロセスと定義されております。

2020年11月26日付の大統領令2020年第112号では、(ジョコウィ政権になって既に廃止した政府機関に加えて)「脱官僚化」として29の政府機関を廃止・解散することを言明しました。

手始めに10の政府機関の解散について事前調査は完了しており、2020年11月29日に機関名が公表されました。

その他の19の機関については、根拠法令の改正が必要になるので議会に諮った上で、2021年中の解散になると見られています。11月29日に公表された、「廃止する政府機関
」には、国家学術研究評議会、食糧安全保障評議会、スラバヤ・マドゥーラ地域開発機構、国家スポーツ認証・標準化機構などが含まれます。

 

「脱官僚化」前史

上述の通り、政策としての「脱官僚化」は、ジョコウィ政権第一期中に開始されたものであり、最近始まったばかりの取り組みではありません。

彼は2015年9月に経済政策パッケージを実施することを通して行政改革に着手し、経済政策パッケージは2015年9~12月に8回、2016年中に6回実施されました。

これらの政策パッケージの多くは、民間企業が事業を実施する上で障害となっていた法規制及び官僚的手続きを撤廃すること、それにより海外からの投資を促すことを通して経済改革を進めることを目指して導入されています。

経済政策パッケージの多くは、国内産業の競争力強化、国家戦略プロジェクトの加速化、不動産セクターへの投資増加がねらいですが、これらの政策パッケージの中で、「規制緩和」と「脱官僚化」が提唱されてきました。

重複的、冗長、的外れな規制を廃止することを目指して、包括的な法規制の審査・再検討が実施されています。

同時に、脱官僚化は、手続きそのものの簡素化、許認可権限の地方分権化、手続きの電子化等を通してインドネシアの民間セクターの業務効率化を目指す営みとしても位置づけられました。

 

ジョコウィ大統領によって閉鎖された機関

2014年の就任直後、ジョコウィ大統領は、大統領令2014年第176号を発布して10の政府機関を解散させました。

翌2015年、彼は国家気候変動評議会を解散させ、同評議会が担当していた業務を環境森林省に割り振りしています。

2016年中にも10の政府機関を閉鎖し、2017年にはシドアルジョ熱泥問題対策庁を閉鎖してきたといった経緯を考えると、2020年7月にジョコウィ大統領が大統領令2020年第82号を発布して18の政府機関の閉鎖を発表したことも、特段驚くには当たらないと言えます。

この大統領令によって閉鎖された政府機関は以下の通りです:

1. クリエイティブ産業透明性チーム
2. 農林漁業普及調整庁
3. インドネシア経済発展の加速・拡張委員会
4. スンダ海峡戦略地域インフラ開発庁
5. マングローブ生態系管理のための国家調整チーム
6. 上水供給システム改善機構
7. 国家Eコマース・ロードマップ運営委員会
8. 予算執行加速タスクフォース
9. 上水供給を加速するための国家水道公社(PDAM)への保証・補助金のモニタリング、評価に関する調整チーム
10. 海外商業ローン・チーム
11. WTOの枠組みにおける多国間貿易交渉のための国家チーム
12. 国家電力公社の再編・復旧チーム
13. 金融セクター政策委員会
14. 森林に関する省庁間調整委員会
15. 輸出入品の円滑流通のための調整チーム
16. 輸出・投資を増加させるための国家チーム
17. 都市部のアパート建築加速のための調整チーム
18. アセアン経済共同体実施準備のための国家委員会

「脱官僚化」の目的

「脱官僚化」は経済的アクターの業務効率化を目指す長期的な取り組みですが、以下のような目的を有しています:

 

1. 支出の削減

クモロ行政改革大臣は、行政機関の数、特に補助的機関の数を削減することは行政コストを削減するために最も優先順位の高い課題である、と述べました。

当然のことながら、政府機関が多ければ、基礎的な支出は増えてしまいますし、効率的に良いパフォーマンスをしている機関だけに政府支出を集中させることが業務の効率化に通じると考えられています。

 

2. 非効率な制度・機関を見出して排除する

政策目標を達成するための障害として、インドネシアで往々にして見出されるのは、非効率で執行能力のない行政機関です。

脱官僚化の目的の一つは、政策目標実現のためのこうした障害を排除することです。

典型的なケースは、2009年の大統領令によって設置された「スラバヤ-マドゥーラ地域開発機構」でしょう。

この政府機関は、名前の通り、スラバヤとマドゥーラ島を結ぶスラバヤ橋周辺地域の開発を企画・実施するものでしたが、成果を出せない状態が続き、上述の通り結局は解散させられることになりました。

 

3. 業務効率の向上

複数の省庁や政府機関が同じ業務を担当している場合、例えば二つの省庁から同じ許可を取得する必要があれば、それに関連した業務は必然的に効率が悪くなってしまいます。

例えば、ユドヨノ大統領が発令した2004年の大統領令によって設置された国家高齢者評議会は、社会省のソーシャルワーク・リハビリ総局と業務範囲が重複している、という理由で解散することが決定されました。

こうした仕方で、重複する業務を複数の政府機関が担っている場合は、一つの機関に業務を集約して効率化が目指されることになります。

 

参考ウェブサイト等:
Gumelar, G. (2020, November 24). The Jakarta Post. Retrieved from The Jakarta Post:
https://www.thejakartapost.com/news/2020/11/23/government-to-dissolve-29-more-state-bodies-in-2021-debureaucratization-drive.html

Kompas. (2020, July 21). Kompas.com. Retrieved from Kompas.com:
https://www.kompas.com/tren/read/2020/07/21/103100965/lebih-dekat-dengan-tugas-dan-fungsi-18-lembaga-yang-telah-dibubarkan-jokowi?page=all

Lokadata. (2020, November 20). Lokadata. Retrieved from Lokadata:
https://lokadata.id/artikel/presiden-jokowi-akan-bubarkan-29-lembaga-negara

Ministry of Education and Culture. (n.d.). Badan Bahasa Kemdikbud. Retrieved from
Badan Bahasa Kemdikbud.

Ministry of Information and Communication. (2015, Oktober 8). KOMINFO. Retrieved
from Berita Pemerintahan:
https://www.kominfo.go.id/content/detail/6101/paket-kebijakan-ekonomi-jilid-ii/0/berita

Suancana, G. (2018). Debirokratisasi dan Pentingnya. Bali Membangun Bali, 184.

 

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