【コラム】インドネシアにおける冷蔵・冷凍設備 の必要性

日本では当たり前になっている冷蔵や冷凍といった設備ですが、インドネシアではまだまだ発展段階と言えます。

インドネシアにはスーパーマーケットはあるものの、パサール(Pasar)と呼ばれる昔ながらの市場も根強く彼らの生活に密着しています。

パサールでは野菜や果物だけでなく、肉や魚といった生鮮食品も多く取り扱われていますが、多くがまだまだ冷蔵・冷凍設備が完備されているとは言えない状況です。

 

インドネシアにおける食品流通の流れ

現在インドネシアの食品流通はこのような形になっています。

参考コラム:

特に、精肉・鮮魚の輸送にはコールドチェーンが多く使用されており、顧客の手に届くまでの間、食品の鮮度を保っています。

コールドチェーンとは「低温物流体系」のことで、商品の運送を行う際に、冷蔵や冷凍といった低い温度を維持することで一定の状態を保ちながら商品を輸送することを目的としたサプライチェーンを指します。

商品の温度を維持するため、コールドチェーン内の様々な部分で正しい処理を行うことで、適切な流通チャネルを通じて高品質な商品を提供することが可能となります。

 

インドネシアにおける冷凍・冷蔵設備の必要性

一般的に見て、冷凍・冷蔵設備の必要性とはどのような点にあるのでしょうか。いくつか挙げられるとは思いますが、大きく分けて以下の2つに集約することができると考えています。

 

①遠い所に運搬しなくてはいけない場合

収穫や加工をした後、時間が経ってしまうと食品の劣化が始まってしまいます。

鮮度を保ち、おいしく安全な食を提供するためには、冷凍・冷蔵設備を用いて、温度を一定に保ったり、食材の劣化を止める(遅らせる)必要があります。

短距離の運搬も例外ではないが、特に国や島を跨ぐような長距離の運搬や輸出入の際には必要不可欠な設備となっています。

 

②需要を上回る供給量となってしまったために、保存する場合

需要が供給を上回るとその分は過剰分として行き場を無くしてしまいます。

しかし、冷凍・冷蔵により食品の劣化を抑えて賞味期限を伸ばすことで、安定した需要供給のバランスが実現でき、長時間鮮度を維持しながら保存することが可能となりました。

インドネシアにおいては冷凍・冷蔵設備がきちんと整っていないために様々な問題が発生したり、冷凍・冷蔵設備に対する一定数の需要がありながらも供給が追いついていないといった現状を踏まえ、2016年初めにはインドネシア政府が投資に関するリストを改訂し、地理的な制約なしにインドネシア国内どの地においても海外企業がコールドストレージ産業に参画できるようになりました。

2016年のIndonesia Investmentsの記事によれば、インドネシア国内において充分なレベルの冷凍・冷蔵の設備容量を賄うためには更に12兆ルピア(日本円にしておよそ870億)もの資金が必要となっています。

また、インドネシアでは生産量が消費量を上回っていたり下回っていたりする鶏肉や牛肉に加え、世界第2位の漁獲量を誇っているため、多くの輸出を行っている鮮魚といった食材に対しても冷凍・冷蔵設備のもたらす影響は大きなものだと推測できるでしょう。

先ほども述べたように、今後数年間の冷蔵倉庫需要は増加し続けると予測され、それにより自動的に現在の設備容量も増加するだろうとされています。

近年の傾向に基づけば、インドネシア国内の冷蔵倉庫需要は今後1年で10〜20%ほど増加すると予想されています。

インドネシアにおける冷凍・冷蔵設備の現状

ここからは、インドネシアにおける冷凍・冷蔵設備の現状を物流やマーケットの規模といった側面から考えていきたいと思います。

こちらのグラフはインドネシアにおける物流パフォーマンスを指数 (LPI)を表しています。

出典:世界銀行、「物流パフォーマンス指数(LPI) 2018年」より弊社作成(閲覧日:2020年8月6日)
https://lpi.worldbank.org/international/aggregated-ranking

 

2018年のインドネシアの物流パフォーマンス指数は3.15であり、160カ国中46位となっています。

まだ順位はそれほど上位ではありませんが、グラフからもわかるように年々指数、順位共に上昇しており、物流環境の改善に向けた取り組みがしっかりとなされていることが伺えます。

またマーケット規模に関しては、アメリカ合衆国商務省国際貿易局(ITA)が2016年に出したデータによるとインドネシアにおけるコールドチェーンを利用した輸出商品のマーケット規模は世界16位とされています。

同じような収入で生活をする下位中間層の国の中では、第2位という高ランクの順位です。

輸出商品にとどまらず、インドネシア国内でのコールドストレージ使用量は以下のようになっています。

出典:インドネシアコールドチェーン協会WEBサイトより弊社作成(閲覧日:2020年8月6日)
http://arpionline.org/cold-chain-data/

 

年により多少の下落はあるものの、総じて使用量は上昇傾向にあります。

2019年のデータによればインドネシアにおけるコールドストレージ使用量の成長率は4.61% (前年比)となっており、今回抜粋したシーフード、赤身肉、鶏肉以外の場面でもコールドストレージは高い需要があるのが現状であることが推測できます。

 

インドネシア国民の「新鮮さ」に対する意識

タイトルにもある通り、現代のインドネシア国民は以前よりも新鮮な食材を求める傾向にあります。

2013年3月にJETROが発行した「インドネシア日本食品商品動向調査」によれば、インドネシアの経済成長や近代化がインドネシア人の食生活パターンに影響を与え、「パッケージフードや加工食品よりも、新鮮な食材を好む」「健康や栄養の観点から食品を選択することへの関心が高まっている」といった食品消費・購買傾向が見られるようになったとの調査結果が発表されました。

この結果から、7年も前からインドネシア国民の中では、可能であれば新鮮なものを口にしたいというニーズが存在していたと推測できるでしょう。

特にここ数年は、経済成長を通じた中間層の増加と健康ブームなども相まって健康に良いものを口にしたいと考える人が増加している傾向にあります。

「新鮮さ」に対する需要が高まっているインドネシアにおいて、新鮮さを保つための冷凍・冷蔵設備関連の産業は高集中度市場となっており、現在も既に様々な企業が参画しています。

CAGR(年平均成長率)に関しても、力強い成長を見せており、2021年には10.1%になるのではないかと予測されています。

「新鮮」の定義

一概に「新鮮」といってもその定義は人によって大きく異なります。

インドネシアでは特に鶏肉の捉え方において、年齢や住んでいる地域の違いが顕著に現れます。

鶏肉は1羽300円前後という手頃な価格かつ宗教的な面においても他の肉と比較して食されやすいことから、インドネシア国内において高い需要があります。

また、インドネシアでは鶏肉を丸ごと1羽購入して消費する伝統食文化があるため、市場では丸鶏が並んでいる風景をよく目にすることができます。

屠殺後すぐに処理がなされて市場に運ばれ、中には生きた状態のまま市場で購入後に各家庭において屠殺される場合もあります。

一方で、スーパーマーケットなどに並ぶ鶏肉は食肉処理場ですぐに加工されて冷蔵・冷凍された後に運ばれます。

 

そのため、インドネシアの場合、市場で販売されている鶏をその場で屠殺してから家庭に届くまでの時間が短いものを新鮮だと捉える人もいれば、スーパーマーケットですぐに冷蔵・冷凍することで鶏肉の劣化を防いでいることが新鮮であると捉える人もいます。

特に若い世代はスーパーマーケットで買うことを好む人が多かったり、年配の方やパサールと呼ばれる伝統的な市場が日常にあるような場所で暮らす人は市場で買うことを好む人が多かったりします。

新鮮と一言でいってもその定義は人によって様々なであることがお分かり頂けたでしょうか。

 

インドネシアにおける冷蔵・冷凍設備の今後の需要

ここまで様々な観点から冷蔵・冷凍設備やインドネシアにおける現状と冷蔵・冷凍設備の必要性について紹介してきました。

インドネシア国内に止まらず安定した冷蔵・冷凍設備は輸出入の際にも冷蔵・冷凍技術は重要となってくる可能性があります。

アメリカ合衆国商務省国際貿易局(ITA)が2016年に出したコールドチェーンに関するレポートによれば、インドネシアにはインフラ設備がまだまだ整っていない地域も多くあるため、潜在的な市場機会があると考えられています。

また、インドネシアは世界で4番目に人口の多い国であることや発展途上国として高い経済成長率を維持していること、国民の収入増加といった背景から、GDPも増加傾向にあります。経済成長に伴い、国民はさらに体にいい食べ物や美味しい食べ物を求めるようになれば、冷蔵・冷凍設備の必要性はさらに高まってくると予測できます。

コールドストレージの需要拡大、インドネシアの経済成長、食文化やインドネシア国民の食に対する考え方の変化などさまざまな理由から、今後もインドネシアにおいて冷蔵・冷凍設備といったものはとても重要になってくると考えられます。

弊社では、オンラインでの視察代行や調査代行なども承っております。

インドネシアの冷凍・冷蔵設備に関する最新情報についてご興味がある方はぜひお気軽にお問い合わせください。

関連コラム:

 

参考WEBサイト:

・農林水産省委託「平成29年度海外農業・貿易投資環境調査分析委託事業 インドネシアにおけるフードバリューチェーン構築の枠組作りのための生産・流通・投資環境調査報告書」
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokkyo/food_value_chain/attach/pdf/haifu_chousa29-15.pdf

・Indonesia Investments “Weak Infrastructure Blocks Investment in Indonesia’s Cold Storage Industry”
https://www.indonesia-investments.com/news/todays-headlines/weak-infrastructure-blocks-investment-in-indonesia-s-cold-storage-industry/item6830?searchstring=cold%20storage

・International Trade Administration “2016 Top Markets Report Cold Chain Country Case Study”
https://legacy.trade.gov/topmarkets/pdf/Cold_Chain_Indonesia.pdf

・日本貿易振興機構(JETRO)「インドネシア日本食品商品動向調査」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07001286/idnshohidoko.pdf

 

株式会社インドネシア総合研究所
お問い合わせフォーム
Tel: 03-5302-1260

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

記事のシェアはこちらから
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次