【コラム】生鮮食品の生産量と消費量からみるコールドチェーンの必要性

先日公開したコラム「インドネシアにおける冷凍・冷蔵設備の必要性」では、インドネシアにおける食品流通システムの現状や、インドネシア国民の食品の新鮮さに対する意識が徐々に高まりつつあることから、今後インドネシアにおいて、冷凍・冷蔵設備=コールドチェーンの必要性が十分にあることが推測できる旨ご紹介いたしました。

参考コラム:

 

コールドチェーンとは「低温物流体系」のことで、商品の運送を行う際に、冷蔵や冷凍といった低い温度を維持することで一定の状態を保ちながら商品を輸送することを目的としたサプライチェーンを指します。

商品の温度を維持するため、コールドチェーン内の様々な部分で正しい処理を行うことで、適切な流通チャネルを通じて高品質な商品を提供することが可能となります。

今回のコラムでは、インドネシアにおけるコールドチェーンの必要性を、鮮度が重要となってくる精肉や水産物といった食材に焦点を当てて更にご紹介いたします。

 

生産量と消費量からみるインドネシアの精肉部門

インドネシア国内の鶏肉と牛肉に焦点を絞り、生産量と消費量を見ていきます。

インドネシアは国民の約9割がイスラム教徒であるため、宗教上豚肉を食べる人は少ないため、今回は精肉部門の中から除外しています。

以下は、インドネシアにおける鶏肉と牛肉の生産量の推移を表しています。

出典:インドネシア中央統計庁(BOS)、Produksi Daging Ayam Ras Pedaging menurut Provinsi(州別鶏肉生産量), 2009-2019より弊社作成(閲覧日:2020年8月28日) https://www.bps.go.id/dynamictable/2015/12/22/1064/produksi-daging-ayam-ras-pedaging-menurut-provinsi-2009-2019.html

出典:インドネシア中央統計庁(BPS)、Produksi Daging Sapi Ras Pedaging menurut Provinsi(州別牛肉消費量), 2009-2019より弊社作成
(閲覧日:2020年8月28日) https://www.bps.go.id/linkTableDinamis/view/id/1038

 

グラフの数字より、鶏肉、牛肉どちらも増加ないし横ばいの傾向が見られることがお分かりいただけるでしょう。特に鶏肉の生産量は著しく増加しております。

出典:インドネシア農業省、Statistik Peternakan dan Kesehatan Hewan 2019(家畜の統計と健康2019)より弊社作成(閲覧日:2020年8月28日)
https://ditjenpkh.pertanian.go.id/userfiles/File/Buku_Statistik_2019.pdf?time=1577542043450

 

また、鶏肉は牛肉に比べて値段も手頃かつ文化的にも鶏肉を多く消費する習慣がインドネシアには根付いていることや、鶏肉と牛肉の価格を比較してみても、鶏肉の方が牛肉に比べてかなり安価であるため、インドネシア国民にとっても使用しやすい精肉となっています。

次に一人あたりの年間消費量に注目してみると鶏肉の消費量は多少の増減が見られました。

一方、牛肉の消費量は年々増加している傾向にあります。

出典:Statista、Poultry consumption per capita in Indonesia from 2006 to 2019, with estimates for 2025を基に弊社作成(閲覧日:2020年8月28日)
https://www.statista.com/statistics/757796/indonesia-poultry-consumption-per-capita/

出典:Statista、Beef consumption per capita in Indonesia from 2009 to 2019, and a forecast for 2025を基に弊社作成(閲覧日:2020年8月28日)
https://www.statista.com/statistics/757351/indonesia-beef-consumption-per-capita/

 

ここまでは国民一人あたりという小さな枠組みで消費量についてご説明してきましたが、ここからは鶏肉や牛肉といった精肉の推定消費について国民1人あたりの年間消費量とインドネシアの人口を基に考えていきたいと思います。

以下は、インドネシアと首都ジャカルタにおける鶏肉と牛肉の推定消費量を表しています。

出典:Statista、Poultry consumption per capita in Indonesia from 2006 to 2019, with estimates for 2025・世界銀行
Population, total – Indonesiaを基に弊社作成(閲覧日:2020年8月28日)
https://www.statista.com/statistics/757796/indonesia-poultry-consumption-per-capita/
https://data.worldbank.org/indicator/SP.POP.TOTL?locations=ID

出典:Statista、Beef consumption per capita in Indonesia from 2009 to 2019, and a forecast for 2025・世界銀行、
Population, 
total – Indonesiaを基に弊社作成(閲覧日:2020年8月28日)
https://www.statista.com/statistics/757351/indonesia-beef-consumption-per-capita/
https://data.worldbank.org/indicator/SP.POP.TOTL?locations=ID

出典:Statista、Poultry consumption per capita in Indonesia from 2006 to 2019, with estimates for 2025・Population Stat、
Jakarta, Indonesia Populationを基に弊社作成(閲覧日:2020年8月28日)

https://www.statista.com/statistics/757796/indonesia-poultry-consumption-per-capita/

出典:Statista、Beef consumption per capita in Indonesia from 2009 to 2019, and a forecast for 2025・Population Stat、
Jakarta, Indonesia Populationを基に弊社作成(閲覧日:2020年8月28日)

https://www.statista.com/statistics/757351/indonesia-beef-consumption-per-capita/
https://populationstat.com/indonesia/jakarta

 

2019年のインドネシア国内における牛肉の生産量と推定消費量を比較すると、生産量は約49万トン、推定消費量は約54万トンと生産量に対して消費量が多く、国内需要が賄い切れていないことがわかります。

また、インドネシア国内並びにジャカルタにおける牛肉の推定消費量は共に年々増加傾向にあります。

鶏肉の推定消費量と比較するとまだまだ大きな差がありますが、牛肉の推定消費量が増加している背景には、中間層の拡大が考えられます。

インドネシアでは経済発展を機に、購買意欲が高まり、消費市場が拡大していると言われています。それに伴い、インドネシアの人々のライフスタイルも変化しつつあります。

2019年のインドネシア中央統計庁のデータによると、インドネシアの首都であるジャカルタに至っては鶏肉・牛肉どちらも消費量が生産量を上回っており、鶏肉に至っては消費量のおよそ1/4しか生産できていないのが現状です。

生産量と消費量からみるインドネシアの水産部門

精肉と同様、鮮度が重要な魚などの水産物の生産量と消費量から、インドネシア国内におけるコールドチェーンの重要性について説明していきたいと思います。

インドネシアは漁業が盛んな国として非常に有名であり、2006年から13年間世界2位の漁獲量を誇っています。

インドネシアにおいて漁業は経済面においても役割を担っており、海洋面積が約70%、陸地面積が約30%と海洋面積の方が広いため、非常に広大な排他的経済水域を有する国となっています。

以下は、インドネシアにおける水産物の生産量とインドネシア・首都ジャカルタにおける水産物の推定消費量の推移を表したグラフとなっています。

出典:国際連合食糧農業機関(FAO)、Fishery Statistical Collections、Global Production Statistics 1950-2018より弊社作成(閲覧日:2020年8月28日)
http://www.fao.org/fishery/statistics/global-production/en 内のGlobal Production Statistics

出典:インドネシア海洋水産省、Produksitas Perikanan Indonesia・Population Stat、Jakarta, Indonesia Populationを基に弊社作成
(閲覧日:2020年8月28日) 
https://kkp.go.id/wp-content/uploads/2018/01/KKP-Dirjen-PDSPKP-FMB-Kominfo-19-Januari-2018.pdf

出典:インドネシア海洋水産省、Produksitas Perikanan Indonesia・世界銀行、Population, total – Indonesiaを基に弊社作成(閲覧日:2020年8月28日)
https://kkp.go.id/wp-content/uploads/2018/01/KKP-Dirjen-PDSPKP-FMB-Kominfo-19-Januari-2018.pdf
https://populationstat.com/indonesia/jakarta

 

生産量にはそれほど増減がないものの、推定消費量は年々増加しています。

推定消費量が増加している背景には、1人あたりの水産物の年間消費量が増加していることが理由として挙げられます。

近年、インドネシアでは「健康」というワードがトレンドになっており、多くの国民が健康を意識した生活を送ろうと心がけています。

健康意識の高まりや、地産地消の奨励を受けてインドネシ政府としても国民が水産物をより消費するような働きかけを行っています。

また、精肉部門でもご説明させていただきましたが、中間層の拡大とそれに伴うライフスタイルの変化により、刺身やお寿司といった「生もの」が普及したことにより、推定消費量が増加したとも考えられます。

出典:インドネシア海洋水産省、Produksitas Perikanan Indonesiaを基に弊社作成(閲覧日:2020年8月28日)
https://kkp.go.id/wp-content/uploads/2018/01/KKP-Dirjen-PDSPKP-FMB-Kominfo-19-Januari-2018.pdf

 

インドネシア人1人あたりの水産物の年間消費量は2015年から2018年までの3年間で約23%増加しています。これほどまでの増加の背景には政府やインドネシア海洋・水産省(KKP)の取り組みが大きく関係していると言えるでしょう。

 

水産物の消費を高めるための政府の動き

エディ海洋水産大臣はインドネシアにおける漁業には大きな機会と可能性が秘められていると述べており、漁業をさらに盛り上げるためにインドネシア海洋・水産省(KKP)では今後インドネシアの漁業を担っていく若者への教育に力を入れています。

また、インドネシア海洋・水産省(KKP)のアガス事務局長も上記と同様のことを述べた後に、インドネシア国民の栄養失調や発育不全に対した取り組みとしてイベントの開催などを行っていると述べていました。

魚をたくさん消費することで栄養失調や発育不全改善のために必要な栄養素であるタンパク質を摂取することができるため、インドネシアにおける漁業は経済面だけではなく、国民の健康面においても重要であると言えるでしょう。

 

漁獲量・消費量が多い地域とコールドチェーン

インドネシアは海に囲まれた島国であるものの、水産物の漁獲量は地域によって異なります。

以下のグラフは、インドネシアにおける漁獲量の多い地域を表しています。

出典:インドネシア中央統計庁、Produksi Perikanan Budidaya Menurut Provinsi dan Jenis Budidaya (ton), 2000-2017を基に弊社作成
(閲覧日:2020年8月28日)

https://www.bps.go.id/statictable/2009/10/05/1706/produksi-perikanan-budidaya-menurut-provinsi-dan-jenis-budidaya-2000-2017.html

 

出典:インドネシア中央統計庁、Produksi Perikanan Tangkap Menurut Provinsi dan Subsektor (ton), 2000-2017を基に弊社作成
(閲覧日:2020年8月28日)

https://www.bps.go.id/statictable/2009/10/05/1705/produksi-perikanan-tangkap-menurut-provinsi-dan-jenis-penangkapan-2000-2017.html

 

天然よりも養殖の方が漁獲量が多いため、そちらに注目してみると南スラウェシ州が約390万トンと圧倒的な漁獲量を誇っています。

魚の消費量が多い地域トップ5は以下の通りになっています。

参考コラム:

 

消費量が多い地域トップ5には入っていないジャカルタの消費量と比較してみると、ジャカルタの消費量は年間約42kgと、それほど高いとは言えない数字となっています。

ここで考えられる理由としては、ジャカルタのような都市部では地方より食文化が多様化しており、牛肉などの食材も比較的多く消費されていること、そしてインドネシアではまだまだコールドチェーン設備・システムがそれぞれの島に普及しているとは言い難い状況で、水産物の漁獲量がそれほど高くないジャカルタまで、鮮度を保ったまま水産物を運送することが難しいという点も理由として挙げられるでしょう。

また、インドネシア国内で漁獲量が多い地域はジャワ島外が多いですが、インドネシアは国民の半分以上がジャワ島内で暮らしているため、より消費量を増加させるためには収穫した水産品をジャワ島にも輸送する必要があります。

その際、重要となってくるのがコールドチェーンです。

魚は鮮度が大事になってくるため、コールドチェーンの設備・システムをきちんと整えることができれば、海を跨いだ島嶼間の輸送もより容易になり、インドネシア国内全体での水産品の消費をより促すことができるようになると考えられます。

このように、精肉部門と水産部門の双方において、インドネシア国内での生産と消費には地域差があり、インドネシア国内の需給バランスを保つ上で、冷蔵や冷凍をして運搬するコールドチェーンは必要不可欠なものとなっています。

現状としてインドネシアでは、コールドチェーンがしっかりと整っていないためその場で加工してインドネシア国内に運送、国外に輸出されることも多いのが現状です。

弊社では、オンラインでの視察代行や調査代行など承っております。

インドネシアのコールドチェーンに関する最新情報についてご興味がある方はぜひお気軽にお問い合わせください。

 

株式会社インドネシア総合研究所
お問い合わせフォーム
Tel: 03-5302-1260

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