【コラム】米中貿易戦争でインドネシアに恩恵か
中部ジャワ州北西部のブレベス市に、米国企業の在中国工場が大挙して移転するとの報道が流れ、「米中貿易戦争がインドネシアに漁夫の利をもたらすのか」と驚かれた方もいらっしゃるでしょう。
米中貿易戦争が、新型コロナウィルスの感染拡大を受けてさらに助長され、それがインドネシアに意想外の恩恵をもたらすことになるのでしょうか?
ブレベス市の名前は、アディダスなどの有名ブランドのOEM生産を請け負っているPT Shyang Yao Fungの工場がバンテン州タンゲランから同地に移転することが発表された際、一躍有名になりましたが、今回の報道により、再度注目されるに至りました。
この話題は、ルフット・ビンサル・パンジャイタン海洋・投資担当調整大臣が、トランプ大統領とジョコウィ大統領との「秘密会談」に言及することで報道され、有名になりました。
両大統領が、製薬セクターのインドネシアへの投資について議論している際に、製薬原料の90%を輸入に頼っているインドネシアが、是非とも製薬セクターの工場を誘致したいという議論をする中で議論されたもののようです。
ルフット大臣は、2020年5月11日の会見で前日(5月10日)にジョコウィ大統領から、この件でトランプ大統領の側近と話をするように言われた、と述べました。
トランプ大統領は本年4月24日の自身のツイッターで「インドネシアから換気装置に関する支援の要請を受けた」と述べていますから、トランプ大統領とジョコウィ大統領の間に何らかのやり取りはあったようです。
これに関連して、ルフット大臣は、インドネシア政府が中部ジャワに4,000haの土地を経済特区として準備して、特に製薬業界の誘致を望んでいると強調しています。
この経済特区の計画についても、政府として準備を進めている状況の中で新型コロナウィルス問題が発生し、準備が途中でストップしていた状況でしたが、ルフット大臣は改めて中部ジャワ州知事と協議し、準備を進める予定だと述べました。
アメリカの在中国工場の多くが、本当にインドネシアに移転するかどうか
現在も交渉中で予断を許しませんが、工業省のアグス・グミワン大臣は、2020~24年の期間中に27の新しい工業団地をオープンさせるべく準備をしていると述べているように、インドネシア政府は今後数年内に数多くの工業団地を開発する予定です。
製造拠点の中国集中を脱して多極化を進めようとする企業にとっては、注目の移転先となっていることは間違いありません。
現在の工業団地開発計画の概要
ブレベス工業団地(Brebes Industrial Estate, 以下略BIE)は、インドネシア政府が総力をあげて取り組んでいる開発事例です。
開発に参加している省庁は、海洋・投資担当調整省、経済担当調整省、国有企業省、工業省、公共事業省、財務省、国家開発企画庁(BAPPENAS)、投資調整庁、中部ジャワ州、ブレベス市。
BIEのコンセプトは環境保全型工業団地であり、インドネシアでも先進的な工業団地という位置づけです。
政府によるインフラ開発の恩恵も期待できるため、4,000haという広大な面積と併せて、将来の自律的な工場集積地域として、インドネシア政府は期待を寄せています。
上述の通り、製薬工場を含む、米国企業の幾つかの在中国工場のインドネシアへの移転は、未だ決定したわけではなく、議論が継続される状況のようです。
30を超える米国企業が中国からの工場移転の用意はある、と表明しているとも伝えられていますが、企業名などは明らかにされてはいません。
工業省は、2020~24年の期間に、経済活動が集中しているジャワ島以外の地域に、19の工業団地の建設を提案しており、それらは国家中期開発計画(RPJMN 2020-2024)に明記されています:
写真出典;https://www.bappenas.go.id/id/
1. Sei Mangkei, Simalungun / 北スマトラ州
2. Kuala Tanjung, Batu Bara / 北スマトラ州
3. Aerospace industrial park, Bintan / リアウ州
4. Galang Batang, Bintan / リアウ州
5. Kemingking, Muaro Jambi / ジャンビ州
6. Tanjung Enim, Muara Enim / 南スマトラ州
7. Pasawaran / ランプン州
8. Way Pisang / ランプン州
9. Sadai, Bangka Selatan / バンカ・ブリトゥン州
10. Katapang / 西カリマンタン州
11. Surya Borneo, Kotawaringin Barat / 中部カリマンタン州
12. Buluminung, Penajam Paser Utara / 東カリマンタン州
13. Tanah Kuning, Bulungan / 北カリマンタン州
14. Batu Licin, Tanah Bumbu / 南カリマンタン州
15. Jorong, Tanah Laut / 南カリマンタン州
16. Bangkalan, Madura / 東ジャワ州
17. Weda Bay, Halmahera Tengah / 北マルク州
18. Palu / 中部スラウェシ州
19. Bintuni / 西パプア州
ジャワ島とそれ以外の地域との格差減少のためには、ジャワ島以外の地域への投資が重要であることは言うまでもありませんが、上記の工業団地開発計画からわかります通り、大規模なインフラ開発が必要な地域での開発よりも、既にある程度のインフラを有しているジャワ島での開発にも大きな期待がかけられていることも事実です。
ブレベス工業団地もその一例ですし、クルタジャティ新国際空港、パティンバン新港に近い西ジャワ州のエリアは広大な経済特区として構想されています。
国営企業三社は、2019年7月に西ジャワ州スバンに工業団地を開発することで合意し、覚書を締結しました。
この三社は、国営建設会社のWijaya Karya社(略称Wika)、国営の製造業者Rajawali Nusantara Indonesia(略称RNI)、プランテーション企業のPerkebunan Nusantara VIII(略称 PTPN VIII)です。
スバン県は、上記地図にもある通り、パティンバン新港(2021年開港予定)とクルタジャティ国際空港への近接性から、政府によるインフラ開発の恩恵が期待されています。
覚書では、三社が合弁会社を設立し、スバン県の総面積33,000ヘクタールの土地に工業団地を開発するための投資協力を行うことが謳われていました。
スバン県は、マジャレンカ県、チレボン県とともに、政府から成長の拠点地域として、インドネシアの最大の経済特区(尼語:KEK)を構成すると見られています。
四か所予定されている工業団地の二つは、PTPN VIIIによって所有されている3,700ヘクタールと3,300ヘクタールの土地であり、残りの二つはRNIによって所有されている5,249ヘクタールと11,300ヘクタールの土地である。
工業団地の敷地内には、居住エリアや商業施設も含まれる計画で、プロジェクト全体の投資額は2,700兆ルピア(1,912億米ドル)と見積もられ、今後50年をかけて徐々に開発される予定です。
弊社は、工業団地の視察手配や調査、インドネシアの最新情報や今後の動向に関するセミナーも承っております。ご興味がある方は、是非お気軽にご連絡ください。
株式会社インドネシア総合研究所
お問い合わせフォーム
Tel: 03-5302-1260