【コラム】インドネシアの宗教事情
インドネシアは世界最大のイスラム人口を抱える国ですが、様々な宗教の信仰が認められている多宗教国家でもあります。
今回のコラムでは、インドネシアを訪れるにあたって知っておきたい宗教事情についてお話しします。
宗教と割合
インドネシア共和国憲法で認められている宗教はイスラム教、プロテスタント、カトリック、ヒンドゥー、仏教、儒教の6つです。
国家原則「パンチャシラ」では唯一神への信仰が定められているため、「無宗教」であることは認められていません。そのため、ほとんどすべての人がなんらかの宗教を信仰しています。
2010年のインドネシア人口統計によると、9割近くがイスラム教信者であり、プロテスタント、カトリック、ヒンドゥー教の信者があとに続きます。
【信仰する宗教の割合】
宗教 | 人数 | 割合 |
イスラム教 | 207,176,162 | 87.18% |
キリスト教(プロテスタント) | 16,528,513 | 6.96% |
キリスト教(カトリック) | 6,907,873 | 2.91% |
ヒンドゥー教 | 4,012,116 | 1.69% |
仏教 | 1,703,254 | 0.72% |
儒教 | 117,091 | 0.05% |
その他 | 299,617 | 0.12% |
回答なし・回答協力せず | 896,700 | 0.37% |
合計 | 237,641,326 | 100% |
出典:Badan Pusat Statistik, Sensus Penduduk 2010
https://sp2010.bps.go.id/index.php/site/tabel?tid=320&wid=0
宗教にまつわる国民の祝日
インドネシアが様々な宗教の信仰を認め、多様性を尊重していることは、制定されている国民の祝日からも分かります。
【2018年の宗教関連の祝日】
イスラム教 | ムハンマド昇天祭(4/14)、イドゥル・フィトリ(6/15, 6/16)、 イドゥル・アドハ(8/22)、イスラーム歴1440年新年(9/11)、 ムハンマド生誕祭(11/20) |
キリスト教 (プロテスタント) |
キリスト受難日(3/30)、キリスト昇天祭(5/10)、 クリスマス(12/25) |
キリスト教 (カトリック) |
クリスマス(12/25) |
ヒンドゥー教 | ニュピ(3/17) |
仏教 | ワイサック(5/29) |
儒教 | イムレック(2/16) |
宗教伝来の歴史と各宗教の習慣
インドネシア地域は古来より、地理的に好立地であったため様々な人々が行き交っていました。オーストロネシア人の渡来に始まり、交易の時代には香辛料を求めて中東、ヨーロッパ地域からはるばる商人がやってきました。
ここではそのような人の移動と共に、どのようにして宗教が伝来したか時系列順に見ていきましょう。
アニミズム |
海外からヒンドゥー教や仏教が伝来する前より、インドネシア地域の広範囲でアニミズム(精霊信仰)があったことが分かっています。
独立以降、原則として唯一神への信仰が前提となっているインドネシアではアニミズム信仰は正式には認められていませんでしたが、2007年よりインドネシア政府が非公式の宗教信仰者同士の結婚が認められる旨を発表しました。
ヒンドゥー教 |
ヒンドゥー教はインドより徐々にインドネシア地域へと伝わり、やがてジャワ文化と融合していきました。
ジャワ地域の有名な影絵芝居「Wayang Kulit」もヒンドゥー文化の影響を受けているものです。
他の宗教が流入した影響により、植民地時代以降、ヒンドゥー教の信者はイスラム教の影響が少ないバリ島に集中するようになりました。
現在でもバリ島全域でヒンドゥー教が信仰されており、他の島とは異なる建築物や文化を見ることができます。
また、ジョグジャカルタにある世界遺産「プランバナン寺院」もヒンドゥー教の建築物です。
仏教 |
ヒンドゥー教と同様に、仏教もインド文化の影響を受けてインドネシア地域に伝わりました。
シャイレーンドラ王朝、シュリ―ウィジャヤ王朝などの支配を受け、仏教はインドネシアの広範囲に浸透します。
ジャワ島中部の世界遺産「ボロブドゥール寺院」は世界最大級の仏教寺院です。
なお、現在インドネシアで仏教を信仰しているのは、主に中華系の民族であると言われています。
儒教 |
By Okkisafire – Own work, CC BY-SA 3.0,
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儒教は中国商人によりインドネシアに伝わりました。
ヒンドゥー教や仏教、イスラム教のように王朝の元で大規模な信仰が行われていたわけではありませんが、今日まで信仰が受け継がれています。
スハルト時代には儒教は国の宗教として認められておらず、政治的影響を受けた宗教の一つでしたが、民主化以降、国から認められる宗教の一つとなった、という歴史を持っています。
イスラム教 |
インドネシア北西部からムスリム商人がインドネシア地域へ渡来し、彼らが現地の支配階級との婚姻関係を結んでいったことでエリートクラスから庶民までイスラム教への改宗者が増えていきました。
現在ではインドネシア全域で信仰されていますが、様々な宗派があり、地域によってもイスラム教へのアプローチ方法が異なります。
ここ数年はマジョリティーを占めるムスリムの支持を得るため、イスラム教の政治利用も目立っています。
キリスト教(カトリック・プロテスタント) |
キリスト教は宣教師の渡来と共にインドネシア地域へ伝来しましたが、オランダ植民地政府の関心はキリスト教を布教することよりも、本国経済を支えることにありました。
既にイスラム教の影響を深く受けている地域ではキリスト教はあまり浸透しませんでしたが、バリ島の東のエリアから東ティモール地域はカトリック、パプア地域はプロテスタントが広がっていきました。
なお、カトリックはポルトガルの支配、プロテスタントはオランダの支配による影響を受けています。
このように、複数の宗教が時代を経てインドネシアに根付き、「重層文化」が形成されました。
近年、インドネシア国内で小規模なテロや、選挙時の宗教同士の衝突について報道されていますが、何世紀にも渡りあらゆる文化や宗教を受け入れてきたインドネシアは、異なる思想や価値観を共存していける国といえるでしょう。
ビジネス上の留意点
宗教により習慣やホリデーシーズンが異なります。現地にて調査や視察をご検討される方は、インドネシアの祝日も事前に把握しておきましょう。
また、インドネシアは広大な国家であるため、地域ごとにマジョリティーとなる宗教も異なります。
インドネシアでビジネスをする際は、宗教に関わる側面や地域による特性などを事前に把握しておくことが非常に重要です。
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