【コラム】インドネシア・ジャカルタの大気汚染

インドネシアのジャカルタ首都特別州は、年々大気汚染が深刻な問題となっています。ジャカルタの空は暗闇に包まれ、2023年8月12日、ジャカルタ上空から撮影された大気汚染に由来する黒々とした靄(もや)が雨雲のように上空を覆う様子がインスタグラム(@unikinfoid)に投稿されると、動画は瞬く間に広く拡散されました。

ジョコ・ウィドド大統領でさえも、大気汚染が原因とされる咳が続いていることが報じられています。交通機関や産業由来の排気ガス、家庭活動に至るまで、常に多数の汚染源と闘っているジャカルタ州政府は、在宅勤務(Work from Home: WFH)制度の導入など、大気汚染の根強い問題に対処するための対策を講じてきました。一方、こうした努力では、ジャカルタの長年の大気汚染問題解決には十分ではないとの懸念も生じています。今回のコラムでは、ジャカルタの大気汚染の現状及び主な原因について、詳しくご紹介いたします。

ジャカルタの大気汚染の深刻さ

スイスの『IQAir』が提供する大気汚染情報プラットフォームによると、2023年8月から10月にかけて、ジャカルタの大気質指数(AQI)は160から100、即ち「レッドゾーン:健康に有害(151-200)」から「オレンジゾーン:敏感な人の健康に有害(101-150)」のレンジを前後しています。これは、同ウェブサイトの「最も汚染された都市のランキング」にて、常に10位内に入る汚染レベルです。これに対し、東京の大気質指数は一桁台と「グリーンゾーン:良い(0-50)」に留まり「最もきれいな都市のランキング」上位にランクインしています。

インドネシア、ジャカルタの大気汚染の汚染物質のひとつはPM2.5です。『IQAir』の観測によると、ジャカルタにおける10月のとある平均的な1日の午後のPM2.5数値は、34.8µg/m³(マイクログラム/立方メートル)です。この数値は、世界保健機関(WHO)が推奨する「人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準」として定められた年間平均値である5 µg/m³を大幅に超過しています。同日同時間帯の日本の数値は2µg/m³であることからも、ジャカルタの大気汚染の深刻さが伺えます。

参考:https://www.iqair.com/id/world-air-quality-ranking
https://iris.who.int/handle/10665/345329
https://katadata.co.id/ariayudhistira/analisisdata/64e4a3dad6e35/beragam-sumber-polusi-udara-di-jakarta-apa-pemicu-utamanya

ジャカルタの大気汚染の原因

インドネシアのジョコウィ大統領は、ジャカルタの大気汚染を悪化させている3つの主な原因として、交通機関からの汚染物質排出、産業的な石炭使用による汚染物質排出、乾季の長期化を挙げています。

交通機関からの汚染物質排出
中でも交通機関からの汚染物質排出は、特に大きな割合を占めています。インドネシア環境林業省(Kementerian Lingkungan Hidup dan Kehutanan:KLHK)によると、ジャカルタの大気汚染源とその占める割合はオートバイや自動車(44%)、産業(31%)、家庭活動(14%), 発電(10%)…と続きます。

ジャカルタへ訪れたことのある方はお分かりかと思いますが、インドネシアでは人口の約85%がオートバイを保有しており、特にジャカルタのオートバイの台数は増加の一途を辿っています。オートバイは、1人当たり7g/kmの一酸化炭素を発すると言われ、バスや他の自動車からの排出量をはるかに上回るため、その急増は、ジャカルタの大気の質に大きな脅威をもたらしているのです。

産業的な石炭使用による汚染物質排出
産業的な石炭使用による汚染物質排出については、ジャカルタ近郊で稼働中の418箇所の産業施設のうち、セメント、鉄鋼、石油・ガス精製、石油化学製品、石炭火力発電などを扱う136箇所が、いわゆる高排出部門に当たると考えられています。エネルギー・クリーンエア研究センター(Center for Research on Energy and Clean Air:CREA)の調査によると、石炭火力発電所は一連の工業施設とともに主な大気汚染の原因となっており、半径100km以内に13の発電所が近接しているジャカルタでは、特に深刻な影響を及ぼしています。

その他にも、無秩序なゴミの焼却も、ジャカルタの大気汚染の大きな原因の一つとして指摘されています。ゴミを燃やす煙には有害な化学物質が含まれており、大気質の問題を悪化させているのです。調査によると、ジャボデタベック(ジャカルタ首都圏の総称)でのゴミ焼却量は年間240.25Gg(ギガグラム)、約24万トンにも上り、10万ha以上の森林を焼却したのと同等の温室効果ガスを放出していると言われています。

参考:https://www.datawrapper.de/_/684Kj/
https://katadata.co.id/ariayudhistira/analisisdata/64e4a3dad6e35/beragam-sumber-polusi-udara-di-jakarta-apa-pemicu-utamanya

乾季の長期化
専門家の調査によると、インドネシアの現在の乾季は、エルニーニョ現象がもたらす気候の温暖化の影響を受け、過去4年間で最も厳しいものになっているといます。今年は10月までに既に27万近くの森林が炎上しており、森林火災も深刻な大気汚染の要因の一つとなっています。

この件については国境を超えて近隣諸国からも被害の声が上がっており、シンガポールの多国籍ニュースチャンネル『Channelnewsasia』が報じたところによると、マレーシア政府は、マレーシア国内の一部で大気質が不健康なレベルに達しているとして、インドネシア政府に対策を講じるよう要請しました。マレーシアやシンガポールでは、南西季節風(モンスーン)の影響を受け、乾季に当たる5月~10月に、大規模な野焼きや森林火災により生じた煙がインドネシア側から流れ込む煙害(ヘイズ)が観測されています。

一方インドネシア政府は、煙害の主な要因はインドネシアの森林火災のせいだと非難するマレーシア当局の主張を否定し、国境を越えて漂う煙は感知していないと反論しています。マレーシアの環境大臣は、この件に関してインドネシア側に書簡を提出したことを報告し、例年観測されるヘイズを正常なものと考えるべきではないと述べ、インドネシア政府に適切な対処を求めています。

参考:https://www.channelnewsasia.com/asia/indonesia-malaysia-haze-declined-forest-fires-air-quality-3825786
https://www.instagram.com/p/CyDM6e1h3SV/

大気汚染と闘うための政府の政策:「WFH(Work From Home=在宅勤務)制度」

冒頭でも触れたように、これらの大気汚染の危機を受けて、インドネシア政府も地方政府も様々な政策を導入しています。これまでに、車1台につき4人以上乗ることを走行の条件とする『4 in 1』政策、自動車の排ガス試験、電気自動車の推進、先述の在宅勤務(WFH)制度などが行われてきました。在宅勤務制度はジャカルタ州政府によって近頃導入されたもので、2023年8月21日から2ヶ月間を試行期間とし、公務員の50%が在宅勤務を義務付けられました。

一方、こうした対策については厳しい声も上がっています。ジャカルタ市民により設立された団体「クリーンエア連合イニシアチブ運動(Gerakan Inisiatif Bersihkan Udara Koalisi Semesta:GIBU)」の都市活動家Elisa Sutanudjaja氏は、在宅勤務制度は「通勤」というごく一部の交通機関利用の制限に過ぎず、日常生活における過度の自家用車依存という広範な問題には対処できないと主張しています。また、インドネシア環境林業省環境庁が排ガス検査の自動車のオフィスエリアへの乗り入れを禁止していることについても、未検査車の乗り入れ制限を実施していない他のエリアにおける公害を見過ごす中途半端な対策だと指摘しています。

まとめ

本コラムでは、インドネシアの首都ジャカルタの大気汚染事情についてご紹介いたしました。ジャカルタの大気汚染との戦いにおいて、在宅勤務制度などの現在実施されている政策は汚染の一時的な緩和に過ぎず、より広範な交通問題への取り組みや、様々な汚染源を考慮した総合的なアプローチの必要性が明らかになっています。

この問題は、インドネシアの住民の生活の質に影響を与えるだけでなく、ビジネス環境にも影響を及ぼします。弊社インドネシア総合研究所は、包括的なアドバイザリー、市場調査、詳細なレポートなど、皆様のビジネス戦略に貴重な洞察を提供いたします。

インドネシア市場でのビジネスの機会を掴みながら、大気汚染やその他の環境問題などの困難に取り組むために、弊社が最適なサポートを提供させていただきます。弊社とともに、皆様のインドネシア事業のために持続可能で豊かな未来を創りましょう。

更に詳しい情報をご希望の方は、下記お問い合わせフォームよりお気軽にご相談くださいませ。

関連コラム:



株式会社インドネシア総合研究所
お問い合わせフォーム
Tel: 03-6804-6702

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

記事のシェアはこちらから
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次