【CO2見える化レポート】②インドネシアのCO2排出量削減目標について
本シリーズでは、環境問題を議論するうえで度々登場するCO2に関するさまざまな用語や施策についてお伝えしております。第1回目の前回は「カーボンフットプリント」に関する解説とインドネシアにおける施策をご紹介いたしました。
今回は、気候変動に関する国際条約であるパリ協定に触れながら、インドネシアのCO2排出量削減目標に関するNDC(Nationally Determined Contribution:国が決定する貢献)や具体的な施策などお伝えさせていただきたいと思います。
パリ協定とは
パリ協定とは、2015年にパリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、1997年の「京都議定書」の後継として採択された、2020年以降の気候変動問題対策に関する国際的な取り決めのことです。以下の2つが発効条件でした。
全世界の温室効果ガス排出量のうち55%以上をカバーする国が本協定に批准すること。
結果的にパリ協定はアメリカや中国など主要な排出国を含めた159カ国が参加し、2016年に発効しました。
主要各国の削減目標
国名 | 削減目標 |
---|---|
中国 | 2030年までにGDPあたりのCO2排出量を60-65%削減する |
EU | 2030年までに40%削減する |
インド | 2030年までにGDPあたりのCO2排出量を33-35%削減する |
日本 | 2030年までに26%削減する |
ロシア | 2030年までに排出量を70-75%に抑制する |
アメリカ | 2025年までに26-28%削減する |
インドネシア | 2030年までに排出量を31.89%削減する。
(2022年10月に削減目標が上記の数字に引き上げられました。) |
参考:https://www.jccca.org/global-warming/trend-world/paris_agreement
https://www.ekon.go.id/publikasi/detail/4652/akselerasi-net-zero-emissions-indonesia-deklarasikan-target-terbaru-penurunan-emisi-karbon
CO2削減に向けたインドネシアのNDC Nationally Determined Contribution:国が決定する貢献)
パリ協定への参加国は、現在の排出量、国の財政状況、利用可能な技術、他国との連携などを考慮しながら排出量削減に向けたシナリオと目標を明文化して掲示する必要があります。その文書のことをNDCと呼んでいます。通常NDCにおける削減目標は条件付きの目標と無条件の目標に分類されます。
無条件の目標は、国家政策などに基づく排出量削減目標であり、石炭使用量の削減や炭素税の増税などの政策が含まれます。条件つきの目標は、環境にやさしい技術への投資や持続可能なエネルギー・インフラの開発などが含まれます。
【インドネシアのNDC】
・第1回NDCで2030年までに29%の削減目標⇒2022年10月現在、2030年までに31.89%の削減へ引き上げ。
・効果的な土地利用・空間計画、持続可能な森林経営、湿地生態系の生態系回復が主な柱となっている。
(2)条件付き目標
・第1回NDCでは2030年までに41%削減目標⇒2022年10月現在、2030年までに43.2%の削減へ引き上げ
・グリーン投資、プラスチック使用量抑制、電気自動車(EV)使用促進など
(出典:インドネシア中央統計庁データベースより弊社作成)
排出量削減目標で最大のものは林業およびその他の土地利用の分野です。上のグラフでは分野別の温室効果ガスの排出量の推移を示していますが、山火事や林業、農業(焼畑など)による温室効果ガスの排出量が多いことが分かります。特にスマトラ島とカリマンタン島が山火事の多発地域となっております。
インドネシアのNDCにおいては林業部門の対策は「REDD+(Reducing emissions from deforestation and forest degradation and the role of conservation, sustainable management of forests and enhancement of forest carbon stocks in developing countries)」が柱となっています。
これは途上国における森林減少・劣化を、持続可能な森林経営によって温室効果ガスを削減できた場合にインセンティブを与える気候変動対策のことです。インドネシアのREDD+は、持続可能なアブラヤシ農園経営や、低炭素排出開発プロジェクトへのインセンティブ付与のための世界銀行との協力、民間企業との協力など多岐にわたります。
参考:https://www.jica.go.jp/activities/issues/natural_env/platform/reddplus/about/index.html
https://redd.unfccc.int/files/reddnationalstrategyidn_english.pdf
https://www.bps.go.id/statictable/2019/09/24/2072/emisi-gas-rumah-kaca-menurut-jenis-sektor-ribu-ton-co2e-2000-2019.html
【ブルーカーボンによる排出量削減強化】
インドネシアでは、森林の利用管理を通じた排出量削減の他に、ブルーカーボンに着目した排出量削減を掲げています。ブルーカーボンとは、海藻や湿地、マングローブ林などの海洋生態系によって吸収される二酸化炭素由来の炭素のことで、陸域生物により吸収される二酸化炭素由来の炭素(グリーンカーボン)同様CO2削減技術として期待されています。
インドネシアは世界最大の海藻藻場と広大なマングローブ林を有することから、ブルーカーボンとしてマングローブ林や海藻が大きな注目を集めています。海藻藻場は1ヘクタールあたり119.5トンのCO2を吸収し、マングローブ林は1ヘクタールあたり950トンものCO2を吸収することができます。
インドネシア政府は2010年から2019年までに45000ヘクタール以上のマングローブを植林し、2020年には39970ヘクタールの植林をし、累計80000ヘクタール以上のマングローブを植林しました。インドネシア政府は、今後はマングローブ保護区、海藻藻場、サンゴ礁などの拡大によってブルーカーボンの生態系によるCO2排出量削減に関してもNDCに盛り込みたいと考えています。
参考:https://www.menlhk.go.id/site/single_post/4761/pemerintah-perkuat-capaian-pengurangan-emisi-melalui-blue-carbon
https://www.g20.org/idn/indonesia-dorong-dunia-serius-wujudkan-ekosistem-karbon-biru/
今回は、世界的な気候変動対策に向けたパリ協定、そして排出量削減に向けて定められたNDCに関するインドネシアの事例やブルーカーボン活用に関してご紹介いたしました。CO2排出量削減の取組みに関してインドネシアでは森林やブルーカーボンに焦点を当てた排出量削減の施策が特徴的でした。
今後、将来を見通してインドネシアで事業を行う場合には環境課題への対策はとても重要な位置づけとなります。従って今後インドネシアで事業を新たに開始されたい。或いはご検討されている事業者の皆様は温室効果ガスの排出量削減の対策・法規制などを踏まえた事業展開が求められます。
弊社インドネシア総合研究所はインドネシア全土に様々な業界、教育機関、政府機関等のネットワークを保持していることから多岐にわたる調査を得意としており、日々アップデートされる環境対策法規制やプログラムなどに関して、専門家などの意見や政府機関からの情報を取り入れた調査も可能です。
インドネシアにおいて新規事業をご検討の事業者の皆様、ぜひ弊社の調査サービスの活用をご検討ください。
株式会社インドネシア総合研究所
お問い合わせフォーム
Tel: 03-6804-6702