【アルビー日記】インドネシアにおけるノミニー(名義貸し)制度の合法性を問う
こんにちは。アルビーです。
今回は、インドネシアにおける“ノミニー制度”についてお話したいと思います。
インドネシアは長らくネガティブリストにおいて、規制の対象となる分野については業種毎に出資比率が定められておりました。しかし、2021年に規制が大きく改定され、一部分野を除いて外資100%での進出が可能となりました。
しかし、外資法人を設立するためには、払込資本金が100億ルピア以上必要となります。100億ルピアを用意することは企業・個人にとってはなかなか容易なことではないでしょう。
そこで、選択肢としては考えられるのは、インドネシアにおける内資法人の設立です。インドネシアでは1%でも外国人の資本が入ってしまうと外資法人になってしまうため、内資法人の設立とはつまり100%ローカルの企業・個人が設立することになります。
インドネシアでは法人設立には株主が2名(もしくは2社)必要となります。日本人がインドネシアで内資法人を設立しようとすると、これは実質“ノミニー制度=名義貸し”を用いた法人設立となります。
インドネシアにおいてノミニー制度は禁じられているという話を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思いますが、実際にはどうなのでしょうか?この記事では、根拠法律を探っていきたいと思います。
インドネシアにおける名義貸しについて、関連する法律は以下の通りとなります。
- 民法(KUHPer)
- 株式会社に関する法律2007年第40号(UUPT=「会社法」)
- 投資に関する法律2007年第25号(UUPM=「投資法」)
まず、会社法第5条第2項には、法律で特段の定めがない限り、外国からの投資はインドネシア法に基づく株式会社の形態となり、インドネシア共和国領土内に住所を有しなければならないと規定しています。
そして、投資法第33条第1項および第2項では、国内投資家並びに外国の投資家は、株式会社の株式の所有権の所有が目的であることが確認できる契約および/または声明を作成することを禁止すると規定されており、国内投資家並びに海外投資家が他人名義で契約および/または声明を作成した場合、その契約および/または声明は法律により無効とみなされる旨記載がされています。
もう少し詳しく見てみると、投資法第33条第1項について、この項目の目的は、誰かによって所有されているが実質的な所有者が他人である会社の発生を回避することです。つまり第1項では名義貸しを禁止する旨が記載されているのです。
では、実際に名義貸し契約を行った場合の罰則はどうなっているのでしょうか?第33条第2項では、実際に名義貸し契約を結んだ場合の罰則規定はされていません。つまり、名義貸しの契約を結んだとしても、刑事的な罰則はなく、結んだ契約が無効になるということなのです。
会社法第48条第1項において、会社の株式は所有者の名義で発行されると説明されていることに留意すると、この規定が意味するところは、会社は所有者の名義でのみ株式を発行することができるということです。上記の通り、株式の名義を借用するような契約の締結はインドネシアにおいては禁止されており、このような契約が締結され裁判に持ち込まれた場合には無効となります。
法律による“無効”の意味についてさらに議論する前に、契約の有効条件について見てみましょう。民法は契約の有効条件を規定しており、民法第1320条で次のように規定されていることを事前に把握しておく必要があります。
有効な契約が成立するには、次の4つの条件を満たす必要があります。
- 当事者間で自らを拘束する合意があること
- 当事者には契約を締結する能力があること
- 契約の対象となる一定の目的物があること
- 契約の原因が適法であること
それぞれの項目をもう少し詳しく見ていきましょう。
1)当事者間で自らを拘束する合意があること
合意とは、合意を形成するための双方の意思と合意があることを意味します。民法第1321条で明示されているように、誤って締結された場合や、脅迫、詐欺などによる契約は、いかなる場合も強制力を持ちません。
2)当事者には契約を締結する能力があること
民法1330条では、契約を締結できない者として、未成年の子供、後見人、法律で定められた場合の既婚女性、および一般に法律で特定の契約を結ぶことが禁止されているすべての人々と規定しています。
3)契約の対象となる一定の目的物があること
民法第1234条によると、有効な契約条件において特定の事柄が意味するものは、契約の目的、つまり履行、例えば何をするか、何をしないか、についてです。
4)契約の原因が適法であること
民法第1337条に基づき、法律で禁止されている場合は公序良俗に反する場合には禁止されています。
条件1)と条件2)は主観的条件であり、契約締結時に主観的条件に不備があった場合は、契約は無効とはならず、当事者の一方から契約解除を求めることができます。
この当事者とは、例えば法的責任を取る能力がないとみなされた人や間違えたり騙されたりして契約を結んだ人などが該当しますが、契約の解除を望むかどうかは利害関係人にゆだねられます。契約の解除が求められ成立した場合は無効となります。
条件3)と条件4)は客観的な条件であり、どちらかを満たさなければその契約は無効となります。条件3)が契約に含まれていない場合は、各当事者が何を約束したのかが不明であるため、契約は履行されません。また条件4)について、合法的でない契約については法律や良識に反するため履行されないことは明らかです。
名義貸しについては、ノミニー契約が有効であるための条件4)が満たされていません。この場合は、名義貸しの契約書の作成が法律で禁止されているため無効となります。
規則用語集から引用すると、「null and void」という言葉で示されます。これは無効を意味する言葉ですが、民法第1335条では、理由のない合意、虚偽の理由や禁止された原因に基づいて締結された契約には効力がないことを定めています。これはつまり、この契約は最初から存在しなかったとみなされることを意味します。
会社の株式所有権に関して紛争が生じ、その所有権が名義借用契約に基づいていることが判明した場合、法的な影響は生じず、該当の契約は存在しなかったとみなされ、株式を所有する実際の当事者は株式を取得する権利があります。
政府が名義貸し契約を禁止している理由として、マネーロンダリング、テロ資金供与、汚職犯罪行為の防止などが挙げられます。
上記の通り、インドネシアの法律においては名義を貸す契約書が禁じられているのであって、名義貸し制度を禁じているわけではないのです。
名義貸しについて罰則規定がなされていないので、裁判に持ち込まれた場合は契約が無効になりますが、これはつまり、インドネシアで名義貸しを用いて会社を設立することは、法律的なリスクは発生というよりもむしろビジネス的なリスクとなります。
名義貸し契約を積極的に推奨するものではございませんが、スキームの一つとして、インドネシアに信頼できるパートナーがいる場合などは検討しても良いでしょう。
弊社は過去に法人設立の実績が多数ございます。インドネシア進出についてのご相談は弊社までお気軽にご連絡ください。