インドネシア高速鉄道「WHOOSH」:開業後の課題とインドネシア国内で巻き起こる議論

ジャカルタ–バンドン高速鉄道(KCIC)、通称WHOOSHは、現在インドネシアで最も議論を呼んでいる大型プロジェクトの一つです。

2023年10月に正式開業した当初は、WHOOSHは交通の近代化の象徴であり、インドネシア政府が世界水準のインフラ整備を進める姿勢を示すものと期待されました。ところが、実際にWHOOSH運行が始まると、WHOOSHはインドネシア政府の誇らしい成果というよりも、国の財政負担や政権交代後の外交方針といった観点から、むしろ激しい論争の的になっているのです。

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日本から中国へ乗り換え

当初、この高速鉄道計画は新幹線技術を持つ日本に打診されていました。日本はすでに新幹線の実績があり、信頼性の高い技術として知られていたからです。しかし2015年、ジョコウィ政権は日本案を採用せず、中国案に乗り換える決断をしました。

その理由は、中国の提案が工期の短さや国家予算(APBN)保証を必要としない条件を掲げ、さらに「開発を加速する」という政権の方針に合致していたからです。この決定を受けて「インドネシア中国高速鉄道会社(KCIC)」が設立されました。出資比率はインドネシアの国営企業連合(PSBI:KAI、WIKA、ジャサ・マルガ、PTPN VIII)が60%、中国企業5社が40%という構成でした。

日本から中国へと方針転換したことについては、当初から疑問が呈されていました。この決定は本当に技術面だけの判断だったのか、それとも地政学的な意図が背景にあったのかという疑念です。そして現在、財務上の厳しい批判が出てきたことで、その疑問が再び取り沙汰されています。

黒字化まで367年?

KCICの社長であるディウィヤナ・スラメット・リヤディ氏の説明(Kompas.com報道)によれば、このプロジェクトはコンサルタントの試算でも黒字化までに38年かかるとされています。しかもこれは、想定通りの乗客数を確保できた場合の話です。

WHOOSHの建設費は当初見積もりの90兆ルピアから、最終的には110兆ルピアを超えるまでに膨れ上がりました。そのうち約80兆ルピアは年利3.4%、償還期間35年の借入金です。そのため、インドネシア政府は毎月約2,230億ルピアの利息を、利益が出ても出なくても支払い続けなければなりません。

一方でWHOOSHの収入はそれほど伸びていません。2024年のチケット販売数は約600万枚、平均価格は25万ルピアで、年間売上は1.5兆ルピア程度にとどまりました。仮に純利益率20%を前提にしても、残るのは約3,000億ルピアです。単純計算では投資額の110兆ルピアを回収するのに367年もかかることになります。しかもこれは楽観的な前提に基づいた計算であり、現実にはWHOOSHはすでに4兆ルピア以上の赤字を計上しているのです。

「ポスト中国」への議論の移行

WHOOSH開業後、このプロジェクトは批判の集中砲火を浴びました。多額の債務、国営企業の損失、建設会社WIKAの株式取引停止などが続き、世論では「WHOOSHは時限爆弾だ」とまで言われています。その結果、議論は「ポスト中国」へとシフトしました。つまり、中国依存の大規模プロジェクトは財政的にも政治的にもリスクを伴うのではないか、という問題意識です。

打開策としては、駅エリアの商業化や広告収入、TOD(公共交通指向型開発)の推進、さらにはKCICのIPO(株式公開)といった案が示されています。しかし、これらは「乗客数が少ない」「ビジネスモデルが弱い」という根本的な問題を解決するものではありません。

中国鉄道の実態から見えること

中国の国家鉄道も同じ課題を抱えてきました。2023年にようやく330億元の黒字を計上しましたが、その前の4年間は毎年数千億元規模の赤字を出していたのです。しかも黒字を生み出したのは、人口と産業が集中する大都市を結ぶ6路線に限られています。

つまり、高速鉄道の採算性はネットワークの規模と路線の場所に大きく依存しているということです。中国ですら16以上の路線を整備して、ようやく全体として黒字に転じました。では、わずか一本の短距離路線しかないインドネシアのWHOOSHは、果たしてどうなるのでしょうか。

ジョコウィとプラボウォ:親中かポスト中国か

政治的な側面では、WHOOSHはジョコウィ大統領時代の「親中国路線」の象徴とされています。ジョコウィ元大統領は、高速鉄道を国家の交通ネットワーク強化の一部と考え、財務的な採算よりも社会的な利益を優先しました。彼にとってWHOOSHは「進歩のシンボル」だったのです。

しかし、プラボウォ大統領への政権移行に伴い、「ポスト中国」の議論が出てきました。プラボウォ大統領は、中国一国に依存するようなプロジェクトには慎重になると見られています。むしろ日本を含む多様なパートナーを巻き込みながら進める方向性が強まるかもしれません。さらに、今後の開発の重点は、高コストの象徴的プロジェクトではなく、エネルギー・食料・防衛といった戦略的分野に移る可能性が高いと考えられます。

まとめ

ジャカルタ–バンドン高速鉄道「WHOOSH」は、インドネシア初の高速鉄道として開業しましたが、巨額の建設費や採算性の不透明さから、その将来性に疑問が投げかけられています。黒字化には数十年を要するとの試算もあり、国営企業の財務悪化や中国依存の是非をめぐり、国内では活発な議論が巻き起こっています。プラボウォ政権下では、日本を含む多様なパートナーとの協力や戦略分野への重点移行が注目され、WHOOSHをめぐる論点はインドネシアのインフラ政策と外交方針の方向性を占う試金石となっています。

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